INDEPENDENT:FUK25 公演情報 INDEPENDENT:FUK25」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
1-1件 / 1件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    一人芝居は、誰かに何かを“伝える”という演劇の最も純粋なかたち。
    だからこそ、演じ手も観る側も、その作品と、そして“自分自身”と向き合う時間になる。

    今年のINDEPENDENT:Fukは、6つの異なる人生を通して、
    「一人で立つとはどういうことか」
    「言葉を発するとは何か」
    「誰かに届く声とはどんなものか」
    を、じっくりと、鋭く、そして優しく問いかけてきた。

    演劇という形式の中で、社会と個人、過去と未来、自分と他者が交差する。
    その交差点に立っていたのは、俳優たちだけではなく、観ていた私たち自身だったのだと思う。

    ネタバレBOX

    [a]ポタリポタポタ
    出演:荒木宏志(劇団ヒロシ軍)/脚本・演出:上田龍成(星くずロンリネス)

    ■ ネタバレなしの感想
    荒木宏志の爆発力ある演技は事前の期待通りだったが、それを「フットボールのサポーター」というキャラクターにどう落とし込むかが見どころだった。
    単に熱狂的というだけでなく、その裏にある「孤独」や「葛藤」が徐々に浮かび上がる構造が見事だった。

    ■ ネタバレありの感想
    主人公は、かつて九州のクラブチームのゴール裏に立ち続けた男。
    転勤で北海道の田舎町へ左遷され、生活も情熱も冷めていく中、かつての応援仲間と再会。再びスタジアムへ足を運び、太鼓を叩き始める。
    「自分のしてきたことが、誰かの人生を支えていた」ことに気づくという、自己発見と再生の物語。

    ■ スカウティング視点
    体の向きを変えるだけで複数の人物を演じ分ける技術は圧巻。
    応援スタイルをリアルに再現した演出も秀逸で、荒木の熱量が舞台空間を“スタジアム”に変えていた。

    [b]二度反転したその先は
    出演:伊藤圭司(産業医科大学演劇部)/脚本・演出:中村唯人

    ■ ネタバレなしの感想
    産業医科大の演劇部という未知の存在が提示する「偽悪」というテーマに惹き込まれた。
    ロジックと演劇が見事に溶け合っていて、“理性”と“感情”のはざまを描き出す。

    ■ ネタバレありの感想
    かつて数学教師だった男が、空き巣事件の通報で取り調べを受ける。
    現れた刑事は、かつての教え子。数学の証明に見立てて、男は自分の「偽悪=悪を装った善行」を語り出す。
    観客に善悪の判断を委ねたまま終わる構成が鮮烈だった。

    ■ スカウティング視点
    数学を演劇言語として取り込んだ発想が新鮮。
    伊藤の語り口は未熟ながらも、誠実さと曖昧さが同居し、演劇の素材として面白い成分を持っていた。

    [c]ひとりできた
    出演:隠塚詩織/脚本・演出:山﨑瑞穂(万能グローブガラパゴスダイナモス)

    ■ ネタバレなしの感想
    「女の子のリアルな日常を、これでもかと見せつけられる」…と思いきや、もっと複雑で切実な物語だった。
    “ひとりで来た道”を静かにたどる語りが胸を打つ。

    ■ ネタバレありの感想
    自転車に乗れた日、初めてのソロパート、恋、そして避妊や中絶のリスク……。
    女の子として生きる現実を、時にユーモラスに、時に抉るように語っていく。
    「好き」とか「愛してる」なんて簡単に言えなくなるほどの現実がそこにあった。

    ■ スカウティング視点
    見立ての「自転車」や空間の使い方が巧み。
    隠塚の“等身大の語り”が観客との距離をぐっと近づけ、性や孤独を真正面から受け止める勇気を与えてくれる。

    [d]天才の一撃
    出演:萩尾ひなこ/脚本・演出:到生(劇団ジグザグバイト)

    ■ ネタバレなしの感想
    「戦う者の物語だろうな」と思っていたら、競走馬を題材にした静かな逆転劇。
    予想を大きく超える作品だった。

    ■ ネタバレありの感想
    三冠を逃した競走馬が、再起して“伝説の一撃”を放つまでの内面劇。
    人間の言葉で語りながらも、あくまで馬の心情として成立している。
    競馬への愛が、馬自身の言葉として語られるのが面白い。

    ■ スカウティング視点
    萩尾の演技が“人間を超えて動物の感情”を表現する領域に達していた。
    比喩でなく、ガチで“馬の言葉”として演劇が成立していたのはすごい。
    演劇と競馬の間に橋をかけた一本。

    [e]虚数がわからない
    出演:八木秀磨(劇団ぐらみー)/脚本・演出:井上みこと(劇団いしころ)

    ■ ネタバレなしの感想
    演者も演出家も初見だが、静かなテンションの中に燃える“知と欲”の物語。
    知性の裏にあるエゴがじわじわと見えてくる構成が上手い。

    ■ ネタバレありの感想
    虚数の補習に来た女子生徒の告白から始まる物語。
    実はすべてが「嘘」で、彼女は“好き”という気持ちを隠しながら近づいてくる。
    女子の賢さがずるさに変わる瞬間に、教える側の葛藤もにじむ。

    ■ スカウティング視点
    「虚数=愛」と重ねた設定が秀逸。
    クッションが降ってくる演出が、“答えのない問い”のメタファーになっていた。
    八木の抑制された演技も、作品のバランスに貢献していた。

    [f]ふれるものみな
    出演:犬養憲子(芝居屋いぬかい)/脚本・演出:樋口ミユ(Plant M)

    ■ ネタバレなしの感想
    犬養憲子が演じる“琉球もの”はやはり強い。
    生きることの重さと軽さ、悲しみと笑いが同居する語りが沁みた。

    ■ ネタバレありの感想
    米軍基地が今もある土地で、「不幸だ」と言われ続ける琉球。
    それでも「手のひらに花を咲かせてやるよ」と、笑いながら生きる女の姿に圧倒された。
    50歳での初産という奇跡のエピソードが加わり、“生の再生”を強く感じた。

    ■ スカウティング視点
    琉球語と標準語の混合比率(8:2)でも意味が伝わるのは演者の表現力あってこそ。
    座布団の使い方も巧みで、生活と物語が地続きにある空間を構成していた。

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