公演情報
「みんな鳥になって」の観てきた!クチコミ一覧
実演鑑賞
満足度★★★★
ワジディ・ムワワド作品は覚悟を持って観ざるを得ないのだが、本作のえらくファンタジックな題名共々「一体どんな?」と未知数ゾーンへ入る気分で観劇。
終わってみれば休憩挟んだ3時間20分。地の果ての国のとある人々の人生、家族の歩みを胸一杯に飲み込み、心の友となった。
後日追記。
実演鑑賞
満足度★★★★
ワジディ・ムワワド作品の観劇は腰を据えて相応の覚悟で・・・というのも氏の戯曲は情報量が多く、長く、家族の物語だけに濃厚。情報的にも情緒的にも付いて行くのが大変なのでコンディションを整え、大きく息を吸って幕開きを待たねばである。
にも関わらず(午後は休みを取ったのだが)体調低下のタイミングに当ってしまい、前半何箇所か寝落ちした。が、それでも十分過ぎる情報と情緒とが終演時には自分を満たしていた。
過去目にしたムワワド作品「炎」「岸」「森」と若干趣きが異なったのは、(「家族」「民族」「他者」「人類の歴史と己の歴史(人生)」といった概念群についての壮大な問いかけである共通点はあるが)恋愛と性が「歴史」という大きな枠組みの中に組み込まれて叙述されていた過去(観た)作品に比べると、「恋愛と性の側から」歴史を規定しようとした事、である。即ちこれは男女の恋・愛の物語。作者はなぜそうしたのか・・
そんな事は判りはしないが、イスラエルを舞台にパレスチナ問題に触れる作品である事と当然無縁ではない。本作は2017年初演の作、とは後で知ったが、劇中時折伝えられる「自爆テロ」の報など、2023.10.7ハマスによるイスラエル攻撃以降すなわち現在をベースに語った物語かとも思いながら観た。(テルアビブからの脱出を話している家族の終盤の会話から少し時代が違うかな、とは思ったが、パレスチナ=イスラエルという「戦後」最も長く、最大にして最悪の紛争当事国をテーマに据え、作者が描こうとしているのは何か、凝視せざるを得なかった。)
作者ムワワドは「にも関わらず神は与えたもう」というのと同じ次元で、「にも関わらず二つの民族が壁を乗り越える時が来るだろう」と投げかけている。「今は離れざるを得なかった」二人を、いずれは再会せしめる事、又はその時の到来を約束すること(約束を真実たらしめるのは神であり人はそれを「信じる」しかないが、確信とは既にそれが(時を超えて)実現しているのと同義である)、執筆当時さえあまりに現実と乖離した「夢」だったろうその切望を終幕間際に作者は台詞に書き連ね、その筆致が生々しく痛々しい印象さえ残した。
恐らくそれは現在、地球上に存在する概念の内最も「悪」である名「悪魔」とでも呼ぶしかない某国の所行と、これを看過するしかない世界の絶望を前にすると、夢はあまりに儚く、それを語る意義も霞んでしまいそうで、痛々しいのだろう。
ただ私ら日本人の常識とかの国々の人々との違いも考える。悠久の時の中に己の(家族の)生を認知する宗教的な世界観と時間感覚は、引き裂かれた二人がなお結ばれようとする思いをリアルに受け止め得るのかも知れない。
ラストで見せたのは(過去作がそうであったような)世界という不動で深淵な摂理の中の二人、ではなく、この先の世界を見ようとする二人、であり、未来である限りにおいて希望が無いとは誰にも言わせない二人、である。
実演鑑賞
満足度★★★★
ユニークな企画の現代劇公演である。作家のワジディ・ムワワドはレバノン生まれのフランス語。アラブ語の作家で、三軒茶屋の世田谷パブリックシアターで問題の多い中東地域で生きる人々の民族、宗教、家族の葛藤を描いたシリーズを上演してきた。演出は上村聡史。
これまでに三作(炎、、岸、森)をやっていて重厚なタッチで苛酷な環境(人間、自然)に生きる人間を描いてきた。固定ファンもいるらしく中年女性が主体の客席は満席である。しかし、これは、予習をしておくべきだった。こも地域は一度しか行ったことがないし、勉強不足で、登場人物が、恋人の間、親子の間、兄弟の間などで、出生や民族で対立し悩んでいくのがその理由がその場で頭に入っていかない。これが最大の問題で、重厚なタッチの演出(その物々しさだけでも十分舞台を引っ張っていく力がある)で集団感や個人の出生のドラマを追っていく。
上村聡史の見せる演出は見事だが、こういう地域民族演劇になってくると違和感もある。中東らしくないのである。もちろん最初の場面はNYの現代的図書館で、アラブ系のアメリカ人の男の子と、あまりもう民族意識も薄いユダヤ系ドイツ人の女の子が出会い恋物語の軸で始る。だが、どうしても、話が進んで主人公たちが次第に捕らわれていく民族が嘘っぽい。というより、日本人の役者で表現しきれないところが残ってしまう、というか、舞台の上でやられていることは、アラブの現代化で、そこで見る方は、言葉としては分っていくがリアルは抜けていく、とでも言うか。作今、「千と千尋」がロンドンのウエストエンドで好評というが、当たっていても芯はぬけているのではないかと、危惧してしまう。ユダヤ系を許さないアラブ系の父、というのも、役者の役解釈としてはこれでいいのだろうが、そして、近代劇としてみれば、これでなければ、各地各地では出来ないのだろうが、現代を背景にドラマの上演法の難しさしたあるのではないかと思う。
麻美れいと岡本健一がこのシリーズはよく出ていて、今回も役を果しているが、やはり日本の役者であることはわかりない。。
実演鑑賞
満足度★★★★★
第一幕105分休憩20分第二幕85分。
今年No.1の作品かも知れない。間違いなく見逃したら後悔する。今、この世界状況で今作を日本で上演することは偶然ではなく必然。運命的なものを感じた。
ワジディ・ムアワッドが2016年に発表した作品。レバノン・ベイルートに生まれ内戦を逃れて8歳の時、一家でフランスに亡命。元々レバノンはフランスの統治下だった為、フランス語圏。だが15の時、滞在を拒否されカナダのケベック州へ一家で移住。ケベックの公用語もフランス語。カナダ国立演劇学校を卒業後、劇団を設立。2007年、国立劇場の芸術監督に就任。到頭2016年、自分達を追い出したフランス・パリの国立劇場の芸術監督に就任。その一作目である今作は彼にとって最大のヒット作となった。「ふじのくに⇄せかい演劇祭2020」にて『空を飛べたなら』のタイトルで公演予定だったがコロナにより中止。到頭本邦初公開。原題は『tous des oiseaux』(全ての鳥)、英訳では『Birds of a Kind』(ある種の鳥)、今回の日本語タイトルは『みんな鳥になって』。
照明が神懸かっている。ちょっと並のレヴェルではない。
現代の『ロミオとジュリエット』。ニューヨークの大学図書館、遺伝学・量子論・統計学を学ぶドイツ系ユダヤ人エイタン(中島裕翔〈ゆうと〉氏)はイブン・ハリカンによって書かれた「ワファヤット・アル・アヤン」(13世紀イスラムの人物辞典)を座ろうとしたテーブルに見付ける。偶然とは思えない程、この図書館に一冊しかないその本は彼が訪れる度待ち受けている。そしてそれを使って博士論文を書いているアラブ系アメリカ人美女ワヒダ(岡本玲さん)。そのどうしようもない美しさに理性が吹っ飛び思わず話し掛けてしまう。もう自分でも何を言っているのか解らないが本能的に必死になって。それを黙って眺めていたワヒダはくすくす笑い出す。何処か踊れる場所に行かない?
遺伝子の入れ物である46本の染色体、血族から受け継いだDNAに書き込まれている設計図。先祖から受け継ぐ情報は生物学的なものだけ。記憶や経験が遺伝する訳じゃない。最先端の科学を学び、遺伝情報を理解したインテリジェンスな若者達は旧来の迷信や因習など打破できる。民族の歴史など乗り越えられる。もうそんな時代じゃないんだ。
エイタンはワヒダを紹介する為、ドイツから敬虔なユダヤ教一家である家族を呼ぶ。ユダヤ教にとって重要な儀式、「過ぎ越しの祭り」。そこで待っていたのは絶望的なまでの家族からの罵倒。怒りに打ち震えるエイタンは科学的にこの不条理を分析し解明しようと決める。
ワジディ・ムアワッド作品は『森 フォレ』しか観ていないが、その時感じた手塚治虫感を今作でも強く感じた。とにかくストーリーが面白い。
まさに日本を代表する役者陣が世界の芯を握り締めたトップ現代作家の作品と格闘。今こそ観るべき作品。イスラエルとアラブ(パレスチナ)の憎悪の歴史に正しい解答はあるのか?この作品の中にその答があるのか?今作は映画化して世界中の人に観せるべきだと思う。
必見。
実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2025/06/29 (日) 18:00
レバノン出身のワジディ・ムワワドの「約束の血」シリーズの完結編だと言うが、他の3作は観てない。壮大な物語で圧倒されるけど、長い。105分(20分休み)88分。
ユダヤ人のエイタン(中島裕翔)はアラブ人のワヒダ(岡本玲)とニューヨークの大学図書館で知り合うが、エイタンの父ダヴィッド(岡本健一)と母ノラ(那須佐代子)は反対する。ワヒダは論文のためにヨルダンに行く途中で、エイタンの祖母レア(麻実れい)を訪ねるが、そこで爆弾テロに遭い、エイタンを心配する両親や祖父もイスラエルに来る。そこで、だんだんと明らかになる家族の秘密…、な物語。壮大な物語で、丁寧に作られたことは良く分かる。シリーズ全体に出演する役者陣も多く、丁寧な演技を見せてくれるが、とにかく長い。必要な長さかどうかが巧く判断できないが、舞台美術・音響も含め、公共劇場ならではの作品とは言えそう。