ずれる 公演情報 ずれる」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.5
1-8件 / 8件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    演劇を初めて観るアートの仕事をしてる人(実は結構いる!)とシアタートラムへ。ここは間違いないものを、という思いで選んだ。「凄いものを観たことはわかるけど説明する言葉が見つからない」「こうなったら演劇もっと観たくなる」。その言葉に心から誘ってよかったと思った。

    十数年前私が初めてイキウメを観た時もそうだった。鋭く繊細な戯曲、非現実的な展開に予見的とすら思えるリアリティを、目に見えぬ耳では聞こえぬものの存在を握らされる。無機質な美術の中言葉によって露わに立ち上がる生命の活発、有機的風景に息を飲む。照明と音楽、そして沈黙と行間の雄弁さ。ここにきて、ここまできてもなお劇団の、演劇の力を更新し続ける圧倒と魅力にただただ心身を揺すぶられる。

    配役そのものが魔法の様にすら思える俳優の所業、美しさと悲哀。奇怪に侵食される世界、そこに浮上するのはいつだって可笑しく愚かで生々しい人間の姿で、今回ももれなくそれに射抜かれた。普遍的でない物語の中で普遍的な人間の業をどこまでも詳らかにする卓越した技術に目眩を覚える。イキウメがやっている事はずっと変わらず、それらが変わり続ける世界やずれ続ける人々に向かって放たれる。その鋭角に私は自身の愚かな生を見る。ずれているのはこの世界か、はたまたこの魂か。果たして。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    序盤に観て、もう一度観られたらなーと機会を窺っていたがマァ叶わず、記憶を手繰りつつ感想を。「外の道」以降のイキウメが、深い思索へ誘いながらも「謎解き」を頂点に据える娯楽作を封印し(演劇である以上娯楽には違いないが)、抜き差しならない現実に拮抗し得る「演劇」を具現する力に驚嘆しきりであった。という前段から「奇ッ怪」にて(題材の縛りからの必然としても)謎解きの快楽復活を見、さて今作はどう来るのか楽しみに会場へいそいそと向かった。
    大いに納得させられる舞台。詳細はまたいずれ。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    休演前ということもあり、特別な思いを抱いて観に行った今回の公演。
    どこか名残惜しさのようなものを感じながらも、
    やはりイキウメらしい世界観と構成の妙は健在で、
    改めてこの劇団の持つ魅力を味わうことができました。

    これまでの作品と比べると、スケール感においてややコンパクトに感じられた部分もあり、もう少し深く潜るような展開を期待していた自分も正直いました。でも、それもこの舞台が持つ静かな余韻の一部だったのかもしれません。

    大きな節目を迎えるこのタイミングで、
    またひとつ作品を見届けられたことに感謝しつつ、
    再びあの世界が戻ってくる日を心待ちにしたいと思います。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2025/05/25 (日) 13:00

    体感時間が3時間越えというか、舞台上の時間の経過を共有していたと思う。
    きっと観る側の緊張の持続ができる最大限ギリギリだったのかもしれない。
    静寂の中の音とか光とか…
    クスっと笑えるところも何度もあるのだけど気が抜けない。
    「ヒェッ!」と息が漏れそうで息を呑む。
    何なんだろ。でもこれがイキウメ!!
    観ること出来て良かった。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    ネタバレ

    ネタバレBOX

    イキウメ『ずれる』を観劇。

     親の会社を継いで財をなしている輝の下に、精神疾患で入院していた歳の離れた弟が自宅に戻ってくる。この辺りは豪雨災害の影響か、野生動物たちが街に下りてきているようだ。秘書兼家政婦と整体師を雇い、在宅勤務に変えたが、弟の怪しげな友人によって輝の様子が少しずつ変調していくのだった…。

     現実には起こり得ない事柄から、人間の精神に食い込んでいく作劇で観客を物語に没入させて戯曲は毎回驚かせるが、奇ッ怪シリーズを全て観ているか、現代版の奇ッ怪かと思ってしまうのが常だ。ここ最近の精神に深く踏み込んでいく様は、以前にも増して濃いようだ。
     非科学的な出来事と人間の魂のぶつかり合いはギリシャ悲劇とは似て非なるものだが、決して精神論を謳ってはいないのがイキウメの魅力で、あり得ない出来事があり得てしまう?と思わせてしまう執筆力に観客の没入度はかなり高い。
     今作は劇団員のみで行なっているからか、全員の芝居に何かが降りてきていると思わせるほど、役柄に成りきっている。戯曲の出来と作家のメッセージを一段、いや二段ほど上げているのは間違いない。
    現実に起きている出来事の根本を我々に問いつめ、追い詰められた観客は逃げ場を失い、終始緊張しながらの観劇体験であった。
     『イキウメ』はしばらく休むようなので、必ず観ておいた方が良いのである。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2025/05/18 (日) 13:00

    価格7,500円

    実演鑑賞をし始めたイキウメって、とても緊張感があって、静寂を遮ってはいけない(もちろんユーモアはあるけれど)、そんな印象がある。
    今作もそれに倣えで、物語はやはり不可思議なんだけれど、もう違和感を感じないくらい自然
    家族、兄弟というものの呪縛に、観進めるほど苦しく、同じような思いになってくる。観たあとのスッキリしなさはなんともいえず、いっそのことと思ってしまう。

    ネタバレBOX

    肩はスッキリしても心はバレず、もう、、いいよ、
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    これまでほど奇想天外ではないが、否、この劇団の奇想天外さに慣れさせられてしまっていてそう感じるだけなのかも知れないが、やはり想像力豊かでメッセージ性もかなり明確。ずっと室内のシーンだけなのに、外から聞こえてくる動物の鳴き声など、家の外の世界で起こっていることを観る者に強く意識させ想像させるあたり、実に素晴らしい。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    終演後、イキウメの活動休止を知ってショック。現時点での集大成だったのか。劇団員五名だけの一杯飾り。「チケット7500円は高いな」と思っていたが、観終わると充分その価値はある。後に前川知大氏を論ずる際、今作は非常に理解し易いものとなっている。作家、劇団が表現したかったことが端的に伝わる。自分的には筒井康隆、黒沢清の系譜。

    かみむら周平氏作曲のテーマが心地良い。エリック・サティの「グノシエンヌ」を思わせる自罰的旋律。
    全員当て書きの強さ、これが今劇団の全てだ。
    後々今作を観たことを自慢できることだろう。自分は感謝した。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    天井のアートシェードに時折もやもやとした映像が映し出される。(安井順平氏と大窪人衛氏兄弟がテレパシーで話している表現かも?とふと思ったがまず違うだろう)。もう一度注意して観たら謎が解けるかも。

    色々書くことはあれど考えがまとまらない。全く関係ないことから綴る。まずは長谷川和彦だ。東大文学部英文科在籍でアメフト部のキャプテン、バリバリの体育会系。まさに手の付けられないインテリ・トンパチ。今村昌平プロダクションに面接に行った際、中退を強要される。そのまま今平の『神々の深き欲望』のスタッフとなるがこの伝説的映画の撮影風景と言えば···、そのまんまデニス・ホッパーの『ラストムービー』。沖縄の離島で2年自給自足生活。キネ旬1位の歴史的傑作であることは間違いないが、ここまで人生を犠牲にしないと映画は撮れないのか?と暗鬱たる気分。まあ観て貰えば解る。
    映画に携わった一発目でこんなキチガイ作品にぶっこまれた長谷川和彦=ゴジは狂う。突っ張って突っ張って喧嘩して喧嘩して嫌われ干されどうにか名前を売った。中上健次原作のATG映画『青春の殺人者』で監督デビュー、キネ旬1位、時代の寵児に。2作目は沢田研二主演の『太陽を盗んだ男』。新宿のド真ん中でジュリーが手製の原爆を爆発させるラスト。キネ旬2位。
    そして3作目に『連合赤軍』を撮る筈だった。その頃懇意にしていた「週刊プレイボーイ」の編集者に「超能力者と会ってみませんか?」と持ち掛けられる。全く下らないインチキ手品師の気分で22歳の清田益章を紹介される。だがこの清田益章は本物だった。ゴジの目の前で遊びのようにスプーンをぐにゃぐにゃ曲げてみせる。ありとあらゆることを要求し、自宅で家族の前でもやらせた。どう考えても本物。ガチガチの唯物論者だったゴジは自分が世界だと認識していたものがガラガラと崩れ落ちる音を聞いた。吐き気がする。今までの自分の認識では有り得ないことが存在している。そこからゴジは迷走する。脚本を変更し、『連合赤軍』の主人公を超能力を持った少年にした。死者と交流も出来る。そしてラスト、あさま山荘で警官隊に突入されて仲間達が捕まる中、少年は空を飛んで逃げていく。
    結局、長谷川和彦は映画を撮れなくなった。ゴジの功績の一つに才能ある若手を映画界に迎え入れたことがある。立教大学在学中、8ミリで自主映画を撮っていた黒沢清を『太陽を盗んだ男』のスタッフに引き入れた。黒沢清の才能を高く評価していたゴジは「こいつはどう受け止めるのだろう?」と清田益章に会わせる。全く非科学的なものを信用していない黒沢清は自宅からトリックの使えないよう自分のスプーンを持ち込んだ。それを鼻歌交じりでぐにゃぐにゃに曲げてみせる清田。イカサマを見破ってやろうと何度も要求したものの···、本物だった。呆然と失意のまま、帰宅した黒沢清。一晩中布団の中で握りしめたスプーンを見つめて一睡も出来ず。翌日、ゴジにこう告げる。「そういうものがあるのかも知れないが自分とは関係ない」と。そこでオカルトを自分の人生とは関係ないものと切り捨てられた黒沢清はその後も映画を撮ることが出来た。
    (このオカルトとの向き合い方が重要で前川知大氏の作品を紐解く鍵)。
    ※黒沢清は筒井康隆の大ファンで、『地獄の警備員』が筒井康隆の『走る取的』だったり『スウィートホーム』が『母子像』だったり、知ってる奴をニヤリとさせる。『回路』のラストも全人類が“死”に呑み込まれていく中、主人公達を役所広司演ずる貨物船の船長が助ける。「南米からの信号をキャッチした。まだ生き残りがいるらしい。」
    筒井康隆がラテンアメリカ文学に一筋の光明を見出したことに重なる。

    『人魂を届けに』同様、今作の思想も黒沢清の『カリスマ』に通ずる。「世界の法則を回復せよ」「生きる力と殺す力は同じものだ」のメッセージ。
    幽体離脱、先祖返り、真実の世界。同じ死ぬにしても自分が何者かを知ってから死ぬべきだ。

このページのQRコードです。

拡大