ずれる 公演情報 イキウメ「ずれる」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    終演後、イキウメの活動休止を知ってショック。現時点での集大成だったのか。劇団員五名だけの一杯飾り。「チケット7500円は高いな」と思っていたが、観終わると充分その価値はある。後に前川知大氏を論ずる際、今作は非常に理解し易いものとなっている。作家、劇団が表現したかったことが端的に伝わる。自分的には筒井康隆、黒沢清の系譜。

    かみむら周平氏作曲のテーマが心地良い。エリック・サティの「グノシエンヌ」を思わせる自罰的旋律。
    全員当て書きの強さ、これが今劇団の全てだ。
    後々今作を観たことを自慢できることだろう。自分は感謝した。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    天井のアートシェードに時折もやもやとした映像が映し出される。(安井順平氏と大窪人衛氏兄弟がテレパシーで話している表現かも?とふと思ったがまず違うだろう)。もう一度注意して観たら謎が解けるかも。

    色々書くことはあれど考えがまとまらない。全く関係ないことから綴る。まずは長谷川和彦だ。東大文学部英文科在籍でアメフト部のキャプテン、バリバリの体育会系。まさに手の付けられないインテリ・トンパチ。今村昌平プロダクションに面接に行った際、中退を強要される。そのまま今平の『神々の深き欲望』のスタッフとなるがこの伝説的映画の撮影風景と言えば···、そのまんまデニス・ホッパーの『ラストムービー』。沖縄の離島で2年自給自足生活。キネ旬1位の歴史的傑作であることは間違いないが、ここまで人生を犠牲にしないと映画は撮れないのか?と暗鬱たる気分。まあ観て貰えば解る。
    映画に携わった一発目でこんなキチガイ作品にぶっこまれた長谷川和彦=ゴジは狂う。突っ張って突っ張って喧嘩して喧嘩して嫌われ干されどうにか名前を売った。中上健次原作のATG映画『青春の殺人者』で監督デビュー、キネ旬1位、時代の寵児に。2作目は沢田研二主演の『太陽を盗んだ男』。新宿のド真ん中でジュリーが手製の原爆を爆発させるラスト。キネ旬2位。
    そして3作目に『連合赤軍』を撮る筈だった。その頃懇意にしていた「週刊プレイボーイ」の編集者に「超能力者と会ってみませんか?」と持ち掛けられる。全く下らないインチキ手品師の気分で22歳の清田益章を紹介される。だがこの清田益章は本物だった。ゴジの目の前で遊びのようにスプーンをぐにゃぐにゃ曲げてみせる。ありとあらゆることを要求し、自宅で家族の前でもやらせた。どう考えても本物。ガチガチの唯物論者だったゴジは自分が世界だと認識していたものがガラガラと崩れ落ちる音を聞いた。吐き気がする。今までの自分の認識では有り得ないことが存在している。そこからゴジは迷走する。脚本を変更し、『連合赤軍』の主人公を超能力を持った少年にした。死者と交流も出来る。そしてラスト、あさま山荘で警官隊に突入されて仲間達が捕まる中、少年は空を飛んで逃げていく。
    結局、長谷川和彦は映画を撮れなくなった。ゴジの功績の一つに才能ある若手を映画界に迎え入れたことがある。立教大学在学中、8ミリで自主映画を撮っていた黒沢清を『太陽を盗んだ男』のスタッフに引き入れた。黒沢清の才能を高く評価していたゴジは「こいつはどう受け止めるのだろう?」と清田益章に会わせる。全く非科学的なものを信用していない黒沢清は自宅からトリックの使えないよう自分のスプーンを持ち込んだ。それを鼻歌交じりでぐにゃぐにゃに曲げてみせる清田。イカサマを見破ってやろうと何度も要求したものの···、本物だった。呆然と失意のまま、帰宅した黒沢清。一晩中布団の中で握りしめたスプーンを見つめて一睡も出来ず。翌日、ゴジにこう告げる。「そういうものがあるのかも知れないが自分とは関係ない」と。そこでオカルトを自分の人生とは関係ないものと切り捨てられた黒沢清はその後も映画を撮ることが出来た。
    (このオカルトとの向き合い方が重要で前川知大氏の作品を紐解く鍵)。
    ※黒沢清は筒井康隆の大ファンで、『地獄の警備員』が筒井康隆の『走る取的』だったり『スウィートホーム』が『母子像』だったり、知ってる奴をニヤリとさせる。『回路』のラストも全人類が“死”に呑み込まれていく中、主人公達を役所広司演ずる貨物船の船長が助ける。「南米からの信号をキャッチした。まだ生き残りがいるらしい。」
    筒井康隆がラテンアメリカ文学に一筋の光明を見出したことに重なる。

    『人魂を届けに』同様、今作の思想も黒沢清の『カリスマ』に通ずる。「世界の法則を回復せよ」「生きる力と殺す力は同じものだ」のメッセージ。
    幽体離脱、先祖返り、真実の世界。同じ死ぬにしても自分が何者かを知ってから死ぬべきだ。

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    2025/05/16 14:57

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