零れ落ちて、朝 公演情報 零れ落ちて、朝」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.4
1-9件 / 9件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    グリム童話の『青ひげ』を下敷きに、「戦時中に医学の進歩のために行われた生体解剖」という医者の功罪に着目し、生命倫理と人間の尊厳を問う意欲作。主宰で現役医師である本坊由華子ならではの着眼点や提題が忍ばされた代表作の一つである。

    ネタバレBOX

    俳優の身体に多くのことが託された本作において、その強度を確かなものにするためには相当な思考と鍛錬が必要であったと想像ができる。リフレインされる台詞やシーンが回を増すごとにより鮮明な風景として立ち上がり、同じ言葉を同じ言葉に聞こえさせぬ、同じ風景を同じ風景として見せぬ俳優の表現力と演出の工夫に引き込まれた。そうしたリフレインはやがて、同じ悲劇を繰り返してしまう人間の愚かさや、今もまさに世界で続いている暴力や戦争、その功罪を握らせていく。同時に、それらメッセージを「再演」というある種のリフレイン的試みを通じて、社会や世界に広く伝えようとする姿勢にも意気込みが感じられる作品だった。

    医師としての功績を確かなものにしようと、患者を「人」ではなく「材料」として扱う青山(本田椋)の横顔には人命を救う医師の矜持のかけらも残されておらず、むしろ人命を奪うことで自身の地位や名声を挙げようとする独裁者の執心が色濃く滲む。しかし、それでいて平静を保っていられない彼の振る舞いには(肯定こそできないが)ある種の人間らしさが残る。「罪の意識が皆無ではない」ということが加害の生々しさをより詳らかにしていくように感じたのだ。そうした後ろめたさや不都合な真実を無効化するかのように、青山は妻(小林冴季子)に城の床を清く白く保つようにと命じる。青山のそばに罪をけし掛ける大佐(本坊由華子)という存在がいることもまたリアルな構図であり、こうした罪に手を染めた人間が決して一人ではなかったという医学界の世相、歴史の闇を切々と物語っているようでもあった。

    劇中で、俳優の身体よりもその影が舞台側面で大きく映写される演出があり、私はその瞬間に最も引き込まれた。実体の見えないもの、つまり隠された罪をいくらなかったことにしようとしても、それらには必ず影が付き纏う。光の加減によって人物そのものよりも大きなものとして現れる影は、戦争犯罪の罪深さを、ひいてはこの世界に起き、今もまさに隠されているかもしれないあらゆる加害とその大きさを象徴しているように思えてならない。それらが「演劇」でこそ表現できる光と音、そして俳優の身体を駆使した風景として浮かび上がってくる様に私は本作の強度を感じ取った。他にも舞台上に侵食していく水や、頭上から降ってくる砂といった「片付けることの困難なもの」、「痕跡を拭い去ることが容易ではないもの」が多用されていた点も興味深かった。水に濡れた体はすぐには乾かないし、砂のついた身体からその粒子を全て取り除くのは難しい。「見えにくい罪」、そして、「語られにくい罪」を詳らかにするという意味で効果的な演出が随所に忍ばされていたところにも演劇の力を感じた。

    一方で、言葉なくして鮮烈な感触を伝える俳優の身体の説得力が長けていただけに、発せられる台詞が時として宙ぶらりんになる瞬間があったようにも感じられた。観客に場や時の緊迫を伝播するフィジカルの力が強まる反面、詩的なモノローグや言葉遊びなどのテキストの魅力がもう一歩届きづらい構図になっている節があった。言葉と身体のバランスが首尾良く整理されていることによって見やすくはなっているのだが、多少ぐちゃっとしていても、言葉の飛距離が想像を越える様を見たかった、という気持ちになったのである。とはいえ、真っ先に言及したように本作の最たる挑戦はおそらく身体表現によって見えないものを浮かび上がらせる点にある。そうしたフィジカルシアターに「言葉の力」を過度に求めること自体が果たして正しいかわからない。その葛藤を前置きした上で、言葉が意味するところをつい追いかけてしまったことを観客の一人の実感として記録しておきたい。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    表現することと、表現する方法について

    ネタバレBOX

    『青ひげ』と九州大学生体解剖事件。寓話と歴史、記憶と倫理。その接続を試みた本作は、白砂と水に覆われた象徴的な舞台空間と、強い音圧の音響設計、リフレインを多用する演出によって、観客の身体そのものに訴えかけるような上演になっていました。

    本田椋さんは、苛立ちや後悔を踏まえ、抑制された語りと佇まいの中に役の内面をしっかりと感じられ、作品全体のトーンを下支えしていたと思います。また、小林冴季子さん演じる娘も、台詞と動きを過不足なく繋げながら、彼女自身の身体の律動で役を立ち上げており、説得力のある存在でした。

    一方で、語句の反復や抽象的な台詞を通して物語を展開しようとする意図は感じられたものの、登場人物の具体性が削ぎ落とされていたために、感情の推移や関係性の変化が劇の進行と噛み合わず、構造的な面白さと扱う内容が微妙にずれているのではと感じる部分もありました。とりわけ「正しさ」や「加害の倫理」といった重いテーマに触れるのであれば、物語構造や人物の厚みには、より慎重な設計が必要だったのではと感じます。

    もちろん、前述の通り舞台美術、音響、照明といったスタッフワークは魅力的で、過剰な主張に走らず、空間としての強度を確保していた点は特筆されるべきです。
    例えば、前言を否定しますが、ある種の美や劇的な表現が理屈を超えてテーマを伝えることもあります。それならば、その例えば殴りつけられるような衝撃を観客に与えるべく振り切る、といった選択肢も、このスタッフ、そして世界劇団でならあったのではと思います。

    また、世界劇団は首都圏以外の地域で活動する劇団として、ツアー公演を実施するなど制作面でも評価される部分があると思います。この精力的な活動や、ある種のパワーは、劇団運営や自らの創作活動を継続させるという視点において他のアーティストも学ぶべき部分があると思います。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    罪の意識から「潔癖」を問い直す

    ネタバレBOX

    外科医の青髭、GHQの影、九州大学生体解剖事件。それぞれのテーマがとぐろを巻いて舞台上で蠢くような臨場感あふれる作劇であった。白い砂を降らせ、舞台面を水浸しにし、客電が意味ありげに明滅する中で、音圧の強い音楽とリフレインを多用する戯曲の言葉が客席の身体的な緊張を高めていた。戦時下で「死んでいいとされる命はあるのか」と激しく問い続ける3人の俳優の説得力のある身体は、挑戦的な本テーマを扱う表現の骨子となっていた。

    強い身体の説得力を持つ一方で、モノローグを多用し客席とのインタラクションが少ない構成上、作劇としては第四の壁を強く意識させられる劇構造ではあった。場面転換に差し挟まれる3人の老婆のシーンは、舞台を客観視して離れようとする観客を繋ぎとめる手として有効に作用していたものの、抽象的な台詞で綴られるシーンが続くがゆえの浮遊感がうまく客席側の姿勢と接続している個所とそうでない個所があったように思う。いっそ完全に台詞を排して、ダンス作品として上演できるのではないかと夢想した。

    (以下、ゆるいつぶやき)
    「戦時下のような特殊環境で命の処遇を決めるとき、そこには白黒つけられないダイナミズムが働いている。しかし、人としての正義を失ってはいけない」というメッセ―ジは圧倒的に正しい。ただ、個人的に、演劇は正しさを描くのがあまり得意でないメディウムなのではないかと思っている。それは、正しさを描くにはあまりに演劇が遠回りをしたがる性格ゆえなのだが、今回の演目に関してもその難しさを感じた。青髭に名前があり、背景が描かれ、娘との結婚に際した葛藤が描かれていれば正義が色付いてみえたのかもしれない。登場人物の個別具体性を極力排したのは台詞を減らしたいという演出目的上あえてであったと思うが、演劇という媒体で正しさを語るバランス感覚について考える上演だった。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    広島公演を鑑賞しました。
    圧巻の一言です。俳優から、舞台から、音響、照明から、力強いエネルギーを全身に浴び続ける100分。
    いま世界に起きてる異変を知らず生きることは、無垢で無邪気なようで実はグレーなのかなと思いました。
    多くの方に見ていただきたいです!

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    俳優3人の身体表現と舞台美術・装置・音楽・照明の全てが絡み合って迫力のある素晴らしい舞台でした。
    昔韓国の知人に、日本人の血の中には暴力性が潜んでいると言われた事をまた思い出しました。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    1秒たりとも目が離せない情景!
    次はどんな展開になるか?!
    ドキドキが止まりませんでした
    最後はもう拍手喝采!ぜひ皆さんにも観て、会場で感じていただきたい作品です!

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    頭が痺れる観劇体験。
    俳優さんの体を通して突きつけられる言葉たちにひたすら息を詰め、見入りました。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    素晴らしい、です。圧倒的な俳優の身体と、リフレインする台詞に、中盤から一段とのめり込みました。同じく拝見したという方も、傑作!と。広島での上演はとても意義深かったことと

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    戦争はとかく被害者側で描かれるものが多いが、あえて加害者側の視点で取り上げることは難しいと思いますが、挑戦的な舞台で見応えがありました。「黙祷」の言葉に共感しました。
    激しい身体表現と怒涛の台詞に圧巻でした!

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