遺失物安置室の男 公演情報 遺失物安置室の男」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.4
1-9件 / 9件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    新高円寺のアトリエにて昨年観た短編オムニバス公演は可愛らしく小気味よかった。あの感覚の出所は作品そのものに加えて、日常生活でのちょっとした休憩所のような場の趣きであったかに振り返っているが、二度目になる夢現舎のオリジナルの舞台も前回に通じるものがあり、やはり可愛らしい作品をこの場所で観た、という感覚が心地よさになっている。アットホームと言ってしまえばありきたりだが国道沿いでも道を歩けば人の暮らす地域の色がありその一隅に佇まう地下劇場には、前にも見た顔。しかつめらしくチケットを切る他所よそしさとは逆の、と言ってウェットなしつこさの無い丁度良さが心地良さの理由のようだ。
    舞台正面奥にはどーんと黒地に白で遠近法の奥行ある遺失物収納庫が描かれたパネルが置かれる。父の代からのこの倉庫の管理人を受け継いだ男は静かに陳列された「物たち」の声を聴き、忘れ物を探し、引き取りに来た人たちの意思よりも物たちの思いを尊重する。そこに男自身の「解釈」も挟まれるため事は単純でなくなるのだが、彼の物への執心は、記憶喪失である事と裏腹の関係にも見えて来る。そして一人だけ雇われている若い女性、曰くある物を預けに、または探しに来た幾人かの人物が絡みながら何やら懐かしげな情緒の漂う大団円に至る。
    初演から何度か上演を重ねている演目らしく、新作にしては完成度は高い話だと思った。
    先の美術はかの山下昇平であった(ナベげんの美術でお馴染み)。平面のパネルだと判る絵が記号としてのみでなく三次元空間の中の安置室を感覚させていた。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    今回も、とても面白かったです。いつもながら少しシュールでいろいろ考えされるお話でしたね。何度目かのリニューアルしながらの再演のようですが、その理由もわかります。役者の皆さんの演技も安定的によかったですし、余韻が残るお芝居でした。仕事帰りに伺おうとすると、開演時間、飲み物のおまけも嬉かっです。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     タイゼツベシミル!! 華5つ☆。条理を全うしたが故に不条理と化した物語。不条理劇の快作・傑作、白眉。初演から19年の歳月を掛け、即興、試行錯誤を重ね改稿を重ね纏められた今作。脚本の素晴らしさは出版社に出版させたい程の出来である。

    ネタバレBOX

     舞台美術は随分工夫の行き届いている点で驚かされる。というのもこの狭いスペースでよくぞこれだけの意味をその舞台美術だけで具現しているか! について驚嘆させられる程のものだからである。例えば舞台手前の上手には遺失物管理所入口と書かれ、看板下部に右下がりの矢印を添えた地下という文字が読み取れるが、舞台正面に見えるのはその地下にある遺失物保管所であり、地下へ通じる階段は、案内板の据えられたコーナーの対角線上に設置されている。これは単にスペースが狭い故の工夫というより寧ろエッシャーの絵のように不思議な空間を現わしていると解した方がしっくりくる。また、看板のちょっと奥には手前の椅子がより高い、高さの異なる丸椅子が置かれているが、何故高低差があるのか? これは観てのお楽しみだ。無論、この他に出捌けの際に袖となるよう然るべき位置に衝立も立てられている。下手側壁近くには衝立がほぼ‟」“状に置かれその向こうに小さな呼び出しベルを載せた、ベルのサイズに不似合いな大きな台が置かれている。件の階段は、この奥の側壁から延びてこの地下保管室へ通じている訳だ。舞台中央には黒幕に遺失物の沢山入った像が映った保管棚が極端に誇張された遠近法を用いて表現されており、如何にも遺失物管理室という奥行きのある雰囲気を濃厚に漂わせる。ホリゾント部分にも黒い暗幕が掛かっているが、これもそれだけに終わらない仕掛けだ。
     さて、物語の本題に入ろう。演劇の常道として最初の何分かのシーンで作品の本質を示すシーンが入っているのも近年の小劇場演劇としては珍しく新鮮である。極めて本質的でありながら、言葉遊びの現象学的展開、乃至は遊戯としての人間性の本質、或いは探偵モノの質疑応答と解しても良さそうな知的遊戯とも解せる対話群が嫌が上にも興味をそそる。ここを尋ねてきた男と保管室管理人との質疑応答のシーンであるが、この問答で今作の主題が余すところなく提示されているのだ。(その内容詳細に就いては観劇して欲しいが存在 être(一例を挙げればSartreのL'Être et le Néantに於けるêtre )に関わる根源的な疑義についての問答である。この問答は一般の方々には珍妙に映るかも知れないが極めて論理的で緻密な論を、記憶を喪失しているとされる保管室管理人が展開するので、哲学に興味のある人々はわくわくするに違いない。
     もっとも哲学などと構えるまでも無く、誰しも1度は抱えたに違いない以下の自問、ヒトは何処から来て何処へ行くのか? 人間とは何か? という問いに答えを出せぬと諦めた大多数の人々にあからさまに関わる大問題の根底が論議されていることは、このオープニングを観ただけで直ぐに分かる。擽りも随所に的確に置かれていることは、この台詞群が多様な解釈を許す点にも表れていよう。演出、演技(主人公の記憶喪失を患う男を始め、ボランティアとして男を手伝う若い娘、刃物を預けた女、最初に現れ害虫扱いされる男、この地域の名家の子息でエリート、磁石を預けた女、古物商、そして今作で唯一ある種の客観性を提示する男。これらの人物がどのように絡み、どのような人間関係にあるのか? そしてそうなる経緯は? を観劇中に探ることで一種のサスペンスとして楽しむことさえ可能であろう。余談ではあるが、物と語り合うことのできる記憶喪失の男は、登場するエリートの父であるが作品に直接登場することは無い。但し記憶喪失した彼が職を得たのはこの名士の命を救い、その恩返しをしたいと名士が彼に職を世話したということは物語中で示される。更に蛇足ではあるが、これらの登場人物1人1人のうち誰一人欠けてもこの劇の滋味は落ちるだろう。各々の役者が良い演技を自然体でしている証拠である。照明や音響も秀逸。
     因みに後半の公演日は少し間が空き10.11~10.14まで。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    あなたがあなたであることを証明せよ
    言われてみるとなんと難しい課題であろうか
    それと「過去」をどう捉えるのか

    簡素な舞台だが、遺失物の棚を描いた壁(幕?)の絵が、まるでパースのお手本のように実に上手く設定したバニシング・ポイントの遠近法が用いられ、しかも中央が明るく、光がさしているように描かれていることから、奥行きが感じられた
    鈴の音が印象的
    男の空虚な表情がなんとも言えない
    古物商はじめ他のキャストもそれぞれの役の性格描写が良かった
    ある意味シュールな演劇だが、なかなか楽しめた(証明の話は少しうすら寒くなった)
    ミニビールのサービス付き
    浴衣姿のひな役の久保さんに渡してもらうとちょっと縁日か浅草の演芸に来た気分になった

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    謎?の遺失物安置室を訪れる人々の人間模様がやがて一つに収束してゆく休憩無し約1時間40分、劇場入り口から地下の受付へ向かう階段で既に雰囲気作りがされていて素敵。タイトル役の男の存在感が異彩を放ちますが、内容は想像した程シュールではなく比較的普通の作劇でした。

  • 実演鑑賞

    こりゃあ哲学だー。
    またもや哲学だー。

  • 実演鑑賞

    面白かったです。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    この「遺失物安置室の男」シリーズは、2005年の初演以来 何度か形を変え上演しているという。自分は2014年版を観ている。その時に比べると物語性がはっきりしている印象だ。つまり抽象的から具体的に、観客にもっと感じ取ってもらうことを意識したかのようだ。しかし、それによってテーマ「存在」が揺らぐことはない。

    一見 記憶の彷徨のようであり、いろいろな「物(モノ)」と「者」の関係を描き、全体としてテーマを浮き彫りにする。ただ 哲学的なもしくは禅問答的な台詞が物語を暈しているよう。そこに公演の強かさを感じる。
    (上演時間1時間40分)

    ネタバレBOX

    舞台美術は、後景に遺失物が並んだ絵を描いた幕
    / 板、それを幾何学遠近法を用いて奥行きを感じさせる。その消失点が輝いているように見える。ラストはその輝きが活きてくる効果的な仕掛け。上手に「遺失物管理所入口」の看板、下手は置台に呼び鈴。そして「ご用のかたは このベルを鳴らして下さい」の張り紙。全体が昏く地下を思わせる。
    また舞台技術…照明は暗い中で人物にスポットライトをあて、音響音楽はオルゴールの優しい音色、それに合わせて歌う余韻付け。実に効果的な演出だ。

    物語は、害虫と書かれた帽子をかぶった男 猫田が管理所に来て、遺失物を受け取るところから始まる。そして、ここの管理人から持ち主である<本人>証明をするよう迫られる。自分で自分を客観的に証明することは案外難しい。話が展開しだすと、台詞を「管理」と「安置」を微妙に使い分けていることに気がつく。「物」は不要になり「者」は生存しなくなった状態の時、その納まる場所が違ってくる。それを奥行きある舞台美術(二重構造のようなセット)で観せている。物の価値(大切さを 呼び鈴に準える)やその要否をいくつかのエピソードに落とし込んで紡ぐ。なおエピソードとは別に、管理人の過去と人柄が…こちらに物語性が潜んでおり、エピソードと絶妙に絡んでくる。

    辰子は、彼から貰った磁石のペンダント、その実用性は別にして 遠方にいる彼の愛が信じられなくなり手放すので管理してほしいが…。また、かごめ は人を刺してしまったナイフは不要、安置してほしいと。さらに入鹿沢は、小説原稿を落としてしまった。当初その価値を認めていなかった(不満足だった)が、失って初めて その大切さに気づく。「物(道具)」の価値は 使ってこそ、「者(人間)」は頭を使って=考えることで始めて真価を発揮するのではなかろうか。

    さて 管理人は後々分かるが、事故で記憶を失っている。ちなみにチラシには、この管理人の特徴が書かれており、その第1に記載がある。管理人自身、自分が何者なのか、その正体不明な男が他者に対して自己証明しろと…。人の身分などは公的機関等で発行する書類等で出来るが、自分とは…。その証明こそ「生存証明」にほかならない。当たり前の帰結と思えるが、哲学的な言葉が入ると条理なのか不条理なのか曖昧になる面白さ。考えさせる公演なのだ。そして失ったのが、過去ではなく記憶であれば、そこから新たな記憶を刻み込めば 生きていける。まさにテーマ「存在」=「生」(旅行鞄を持って地下から地上へ)なのだ。

    ただ、この遺失物管理所・安置室なる位置付けがハッキリしない。何となく私的機関のようだが、その存続・廃止が街を二分するほどの議論になるのか、自分の中では疑問を残して(台詞を聞き逃したか)…。
    次回公演も楽しみにしております。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    素晴らしかったです。いつものことながら不条理と前衛の塩梅が秀逸です。そしてこれまたいつものことではありますが、狂気の含有率がこれまたちょうどいいです。舞台終盤に必ずくる狂気みたさに夢現舎を見にきているところがありますし。それと、今回はことば遊びが随所にみられ、アカデミックなことばを使うと、いい感じで言語哲学や現象論がスパイスとして効いていましたね。あと、そうそう、バックの絵、めちゃくちゃ立体的でよかったです。それとどうでもいいことですが、前説で「舞台終了後なら舞台を撮影されてもかまいません」とのことでしたが、舞台の終了後は暗幕だけだしw なにはともあれ、今回も最高の時間をありがとうございます。次回作も期待させていただきます。過去作の再演も期待させていただきます^^

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