遺失物安置室の男 公演情報 劇団夢現舎「遺失物安置室の男」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    この「遺失物安置室の男」シリーズは、2005年の初演以来 何度か形を変え上演しているという。自分は2014年版を観ている。その時に比べると物語性がはっきりしている印象だ。つまり抽象的から具体的に、観客にもっと感じ取ってもらうことを意識したかのようだ。しかし、それによってテーマ「存在」が揺らぐことはない。

    一見 記憶の彷徨のようであり、いろいろな「物(モノ)」と「者」の関係を描き、全体としてテーマを浮き彫りにする。ただ 哲学的なもしくは禅問答的な台詞が物語を暈しているよう。そこに公演の強かさを感じる。
    (上演時間1時間40分)

    ネタバレBOX

    舞台美術は、後景に遺失物が並んだ絵を描いた幕
    / 板、それを幾何学遠近法を用いて奥行きを感じさせる。その消失点が輝いているように見える。ラストはその輝きが活きてくる効果的な仕掛け。上手に「遺失物管理所入口」の看板、下手は置台に呼び鈴。そして「ご用のかたは このベルを鳴らして下さい」の張り紙。全体が昏く地下を思わせる。
    また舞台技術…照明は暗い中で人物にスポットライトをあて、音響音楽はオルゴールの優しい音色、それに合わせて歌う余韻付け。実に効果的な演出だ。

    物語は、害虫と書かれた帽子をかぶった男 猫田が管理所に来て、遺失物を受け取るところから始まる。そして、ここの管理人から持ち主である<本人>証明をするよう迫られる。自分で自分を客観的に証明することは案外難しい。話が展開しだすと、台詞を「管理」と「安置」を微妙に使い分けていることに気がつく。「物」は不要になり「者」は生存しなくなった状態の時、その納まる場所が違ってくる。それを奥行きある舞台美術(二重構造のようなセット)で観せている。物の価値(大切さを 呼び鈴に準える)やその要否をいくつかのエピソードに落とし込んで紡ぐ。なおエピソードとは別に、管理人の過去と人柄が…こちらに物語性が潜んでおり、エピソードと絶妙に絡んでくる。

    辰子は、彼から貰った磁石のペンダント、その実用性は別にして 遠方にいる彼の愛が信じられなくなり手放すので管理してほしいが…。また、かごめ は人を刺してしまったナイフは不要、安置してほしいと。さらに入鹿沢は、小説原稿を落としてしまった。当初その価値を認めていなかった(不満足だった)が、失って初めて その大切さに気づく。「物(道具)」の価値は 使ってこそ、「者(人間)」は頭を使って=考えることで始めて真価を発揮するのではなかろうか。

    さて 管理人は後々分かるが、事故で記憶を失っている。ちなみにチラシには、この管理人の特徴が書かれており、その第1に記載がある。管理人自身、自分が何者なのか、その正体不明な男が他者に対して自己証明しろと…。人の身分などは公的機関等で発行する書類等で出来るが、自分とは…。その証明こそ「生存証明」にほかならない。当たり前の帰結と思えるが、哲学的な言葉が入ると条理なのか不条理なのか曖昧になる面白さ。考えさせる公演なのだ。そして失ったのが、過去ではなく記憶であれば、そこから新たな記憶を刻み込めば 生きていける。まさにテーマ「存在」=「生」(旅行鞄を持って地下から地上へ)なのだ。

    ただ、この遺失物管理所・安置室なる位置付けがハッキリしない。何となく私的機関のようだが、その存続・廃止が街を二分するほどの議論になるのか、自分の中では疑問を残して(台詞を聞き逃したか)…。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2024/10/06 21:30

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