光の中のアリス 公演情報 光の中のアリス」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    あまりに鮮烈な身体と言葉の端々を間に受けて、私は今どうにかもう一度本作を観劇できないものか考えあぐねている。凄まじく受け取るものが多かった。だからこそ、拙い私の一度きりの感度では正直追いつけないところがあった。
    そのままにして余韻に任せることが観劇のスタンダードな在り方かもしれない。だけど、私はあの身体、言葉、あの瞬間にもう一度会わなくてはならない気がしている。焦燥に近い。そのままにはしておけない。
    この作品のことをもっと分かりたい。あの身体を、言葉をもっと分かりたい。見つめたい。

    "思い出"が一人で持ちきれないそのことと同じ様に、一度では持ち帰れないものがあった。
    "思い出"が決してなぞれないのと同じ様に、二度観たところで最深部まで辿り着けるかなんてわからない。
    だけど、それでも、まだ"思い出でない私"は今それを求めている。

    光の眩しさが翻って残酷さになることをまざまざと握らせられながら、また、影の寂しさにやがて光のきらめきを思い知らされるように、生と死や動と静が、消えゆき生まれゆくあらゆるものが目の前で縁取られ、そして呆気なく溶けていった。その質量に、重量に私の心身は一度で耐えうることができなかった。
    そういうことなのだろうか。わからない。わからないけど、本当はそれが全てなのかもしれない。

    記憶する限り、辺りが真っ暗闇に包まれる暗転や、そこから分かりやすく晴れるような明転はこの舞台にはなかった。なのに、ここまで光が差し、翳り、失われていく瞬間が私には刻まれている。
    そのことが私の中には何より深く残った。その残像がいつまでもくすぶって、あの光と闇の狭間から発せられた声が何度も私の中をリフレインする。そうだ、身体や言葉は元より、「声」が鮮烈な舞台であった。

    一人の俳優から放たれる、温度も湿度も強度も違ういくつもの声、声、声。
    ある時は身体をうんと伸ばしながら声をぎゅっとひそめ、またある時は身体を縮めながら声をひろげてゆく。
    4名の俳優、そして2人の演出家の操る身体の所業の大きさに感嘆する他なかった。その波及をもっと見つめ、掬い上げられるだけの余裕が欲しかった。
    人間のことも、世界のことも、まだ知った気ではいられない。
    この作品はそんなことを私に強く伝えた。

    私はこの作品をもう一度観ることができるだろうか。あの光の外から、その中の眩しいまでの残酷と切実に再び立ち向かうことができるだろうか。俳優も凄まじくエネルギーを要するが、観客もまたそれを要する。死に向かって生きるということは等しく凄まじい。そういうことをやり抜く作品なのだと思った。抜きん出た俳優の技と業に拍手をまだ送り足りない。

    追記。
    近親に耳が聞こえづらい人がいて、とくにこの1年一緒に過ごすことが多く色々なことを知った。音楽がとても好きな人だからもう少し先になりそうだけど、一緒に舞台を観る日もきっとくると思う。田中結夏さんの舞台手話通訳の回に観劇できてよかった。

  • 実演鑑賞

    松原俊太郎戯曲とスペースノットの相性よし。と言っても初めてではなかった由で(過去に二作)堂に入った舞台の印象はそれを示すものか。硬質さのあるシアタートラムの色合いも舞台に相応しく、すこぶる好印象である。これはスペースノットブランクの自作公演の掴み所のなさに比べての感想でもあるかな。個人的には全幅の信頼をおく伊東沙保を始め、スペースノットの二人も語りでステージに上がり、絡み具合もよい。
    後に詳述の予定。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    松原俊太郎は数少ない「劇作家」である。もう生存劇作家は福田善之くらいではないか。皆、劇団を率いたり、地方の公務員を仲間に興行の一員になっている。演劇の一面に興行があることは事実だが、独立できてこその劇作家、その厳しい道を歩んでいる期待の劇作家だ。
    今回の演出、劇団は小野彩加 中沢陽というダンスカンパニーのスペースノットブランクが公共劇場(世田パブ)の支援で上演した。数多いとは言えない観劇では、文学座(今井朋彦)地点(三浦基)を見ているが、今回は演出者と波長が合ったのか、完成度の高い出来上がりである。地点の作品は、日本人の神頼み、と言うテーマに面白く時事ネタを織り込んでいて、お神輿も出てわかりやすくもあった。今回は人間の生命とは何かという大テーマに迫っている。生命は、外が見えなければならない、動かなければならない。外には生命を導く光がある。で、アリスインワンダーランドを枠にとっての全7場。1時間40分。
    舞台中央の既設のせりを上手く使っているほかはノーセットのいかにもコンテンポラリーダンスのカンパニーらしい取組みである。中央に鍵盤電子楽器があり、下手には常時手話通訳者(F)がいる。演者は5名(M3.F2)衣装は時に兎の耳のある帽子をかぶったりするが黒の単純なものだ。舞台中央に縦にスクリーンがあり、そこに活字体で各場のタイトルや、台詞、説明などが縦に流れる。
    最初出演者が三々五々舞台に板突くまでを3分くらい、ダラダラ見せるが、ここは唯一の失敗で、ここでかなりダレる。ここを乗り切った後は快調で、アリスがらみの寓話を次々に見せていく。ダンスカンパニーだから、演劇のグループとは違った味があって、あれよあれよと見ている間に終わった。このあれよあれよと見せてしまうのは戯曲と演出の上手いところで、こんな抽象的な話を上手く見せてしまう。
    今回のダンスカンパニーは初見だから、よくわからないが、演者の体の動きもよく演出は舞台の全体の造形が良く、一言で言えば、細部まで美しく出来ていて、この演出家の他の作品も見てみたいと思った。ことに主演のアリスを演じた新木知伽は舞台を引っ張っていく力がある。
    見どころは、別役亡き後、力のある劇作家とこの主演者、演出者で本年屈指の舞台と言って良いだろう。客席はバランスの良い観客席だったが、トラムで10公演。9割という入りは上出来だ。


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