実演鑑賞
満足度★★★★★
松原俊太郎は数少ない「劇作家」である。もう生存劇作家は福田善之くらいではないか。皆、劇団を率いたり、地方の公務員を仲間に興行の一員になっている。演劇の一面に興行があることは事実だが、独立できてこその劇作家、その厳しい道を歩んでいる期待の劇作家だ。
今回の演出、劇団は小野彩加 中沢陽というダンスカンパニーのスペースノットブランクが公共劇場(世田パブ)の支援で上演した。数多いとは言えない観劇では、文学座(今井朋彦)地点(三浦基)を見ているが、今回は演出者と波長が合ったのか、完成度の高い出来上がりである。地点の作品は、日本人の神頼み、と言うテーマに面白く時事ネタを織り込んでいて、お神輿も出てわかりやすくもあった。今回は人間の生命とは何かという大テーマに迫っている。生命は、外が見えなければならない、動かなければならない。外には生命を導く光がある。で、アリスインワンダーランドを枠にとっての全7場。1時間40分。
舞台中央の既設のせりを上手く使っているほかはノーセットのいかにもコンテンポラリーダンスのカンパニーらしい取組みである。中央に鍵盤電子楽器があり、下手には常時手話通訳者(F)がいる。演者は5名(M3.F2)衣装は時に兎の耳のある帽子をかぶったりするが黒の単純なものだ。舞台中央に縦にスクリーンがあり、そこに活字体で各場のタイトルや、台詞、説明などが縦に流れる。
最初出演者が三々五々舞台に板突くまでを3分くらい、ダラダラ見せるが、ここは唯一の失敗で、ここでかなりダレる。ここを乗り切った後は快調で、アリスがらみの寓話を次々に見せていく。ダンスカンパニーだから、演劇のグループとは違った味があって、あれよあれよと見ている間に終わった。このあれよあれよと見せてしまうのは戯曲と演出の上手いところで、こんな抽象的な話を上手く見せてしまう。
今回のダンスカンパニーは初見だから、よくわからないが、演者の体の動きもよく演出は舞台の全体の造形が良く、一言で言えば、細部まで美しく出来ていて、この演出家の他の作品も見てみたいと思った。ことに主演のアリスを演じた新木知伽は舞台を引っ張っていく力がある。
見どころは、別役亡き後、力のある劇作家とこの主演者、演出者で本年屈指の舞台と言って良いだろう。客席はバランスの良い観客席だったが、トラムで10公演。9割という入りは上出来だ。