ラバーマスク・ラバーハート 公演情報 ラバーマスク・ラバーハート」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.5
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     フライヤーからはチャラけた芝居との印象を受けていたのだが、極めてまともなストレートプレイである。

    ネタバレBOX

     舞台美術も如何にも明治から大正にかけてのし上がった炭鉱成金の屋敷に相応しい調度が並び、なり上がり者の定見の無さを象徴している。例えばリモージュ焼きと思われる磁器の向こう側に洋画、その隣奥に信楽焼きと思われる陶器、その更に奥には、朝顔型の蓄音機、更に奥に家長の後妻である可奈子の居室があり、ベッドには天蓋から映画・クレオパトラの寝台に掛かっている幕のような、西アフリカで用いられる蚊帳のような天蓋部分に円形釣り具を付けそれに細かい目の布をあしらったような物が取り付けられており、ベッドの奥は布で仕切られ袖のように機能するが、劇中この袖は大変重要な役割を果たす。上手奥には中国や李氏朝鮮時代に多く作られたような形の一輪挿しの花瓶、ホリゾント中央には両開きの襖。その手前は畳敷きで平台で一段上げてある。更に客席側は洋間になっており洋式の椅子、ソファを始め中央に使用人を呼ぶ為のベルが載ったラウンドテーブルが真ん中に置かれている他洋間から和室に上がるのには上手に階段が設けられているものの、これも洋式。おまけに和室には木製屏風が上手・下手それぞれに置かれているという塩梅。まあ、日本は和洋中朝折衷文化が基本で我々は慣れ切っているので恐らく外国人が感じる程の奇異感は持たぬ者が殆どと思われるが。物語が展開する舞台美術は台詞だけでは表せない意味をも時に象徴しているので一応指摘しておく。
     さて本筋について少し書いておこう。家長の名は伊藤 正久、長男・慎二(実は養子、甥)次男・兼次(正久の実子、使用人・ふゆが実母である)その他実勢は無いものの華族出身の比佐子(東京帝国大学学生慎二の婚約者)、そして先に挙げた可奈子(後妻に収まるまでは慎二の紹介でこの家の女中をしており、その後正久の妾となっていた)
     ジェンダーレベルで見ると男性VS女性では女性の完全勝利である。というのも正久は女遊びに長けた積りの金持ちだが、女性達の心理を見抜くことに掛けては少年のようにプリミティブな思考しか持っていないのに対して、可奈子は慎二とはずっと恋仲であり後妻と決まって妾宅からこの家に移ってきた後もずっと隙をみて同衾しており、バレていない。また、正久の見立てでは古風な倫理観に縛られその倫理からは外れないと判断された比佐子は慎二が何をしているかを偶然知って後、その秘密を教えた頭は悪く無いものの同世代の悪童仲間どころか友人も持たない為精神的には幼稚な金次を唆し、褒美に同衾を約して兄銃撃事件を惹起する。而も事件で死んだのは金次の方で慎二は生き残ったのだが、貞淑だとか婚約の約束だとかを守るフリをして婚約解消は敢えて否定した。
     このような状態の中、ラスト部分で可奈子は妊娠を告げる。(無論、どちらの子かは分からない)。この後事件の後片付けが終わったあとの展開がどうなるのか? 当然慎二と比佐子は結婚し子供も生まれよう、そうなると遺産相続争いが起きるに決まっている。女性陣で唯一昔風の倫理に生きているのはふゆのみであり、彼女は3人の女性の中で最も年上だから遺産象族争いが起きる頃にはリタイアしているか、亡くなっているかであろう。こんな続編を期待させる面白い作品であった。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い。
    隠微・淫靡な雰囲気の中で紡いだ愛欲劇。豪華な邸宅、その外見の瀟洒さとは打って変わって、住む人の爛れた関係、抑えられない欲望が どす黒く渦巻く。登場人物は6人、そこに親密ならぬ歪で<濃蜜>な関係を作り 人間の欲望を浮き彫りにしていく。

    時代は 明治から大正への過渡期、日清・日露戦争を背景とし、卑しい職業(石炭掘りは軽蔑の対象)と言われていた炭鉱で成り上がった男の家の話。劇団東京座が「時代の様相」と「家」を独自の観点で描いたオリジナル作品・第三弾。物語は、彼が年若い妾を後妻として迎えようとするが、彼の息子たちが夫々の思いを抱くことで、人間模様が大きく動き出す。この公演の見どころは、俳優陣が夫々の性格や立場をしっかり表し、抒情的な台詞を交え濃密な会話を紡いでいくところ。女優陣の和装とその所作が美しく、男優陣(洋装)の動・静ある激情に想いが滲む。

    前作「人形の家」も豪華な作り込みであったが、本作も<九州の平民から石炭で成り上がった実業家>ということで、その豪邸が舞台となっている。名は伊藤正久、実はこの人物のモデルと思われる人(伊藤伝右衛門)の豪邸を見学したことがある。そして物語とは違うが、この人物の後妻も或る事件を…。自分の中ではフィクションとノンフィクションが入り交じり、興味深く観た。
    池袋演劇祭参加作品。
    (上演時間1時間15分) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は豪華な調度品、それによって成り上がり実業家の邸宅を出現させている。段差を設え上段の正面は襖、上手に和箪笥、下手に衣桁やベット。下段に丸テーブルと椅子、そして窓があり庭が見える。窓の傍の壁に絵画、そして蓄音機が置かれている。登場人物は6人で、それぞれ思惑を秘めている。

    物語は、邸宅の主人 正久が年若い妾 可奈子を後妻に迎えることによって起こる、屋敷内騒動。正久には2人の息子がおり、兄の慎二は甥であったが養子として迎えられた。弟 金次は、女中 ふゆ との間に生まれた子である。そして近々 慎二は帝大入学のため屋敷を出、さらに爵家の娘 比佐子と結婚する。皆、表面上は何食わぬ顔をして穏やかな暮らしをしているが、内心は嫉妬と欲望といった どす黒い感情が渦巻いている。

    慎二は、可奈子が街頭でひもじい思いしているのが可哀そうと思い屋敷に連れてきた。2人は23歳同い年。いつしか慎二は可奈子を好きになり、また養父と結婚することで財産が といった心配をする。金次は、伊藤家の跡目は実子である自分が と虎視眈々と機会を窺っている。まだ17歳という思春期、兄の婚約者である比佐子に惹かれる。愛欲が縦横無尽に絡まり、その爛れた関係が淫靡な雰囲気を漂わす。一見 平静を装っている ふゆは、可奈子が自分と関係した正久の妻となり女主人になる口惜しさ耐えがたさが滲む。

    正月明け、正久・金次・比佐子がカルタで遊んでいる。その時、帝国劇場で観劇した話から、この豪邸での暮らしは まさに人生(劇場)を演じているようだ。その虚構性=虚飾・虚栄に彩られた外見の奥に潜む<企て>を揶揄するような台詞が印象的だ。
    ラストは唐突といった感が否めない。先のカルタのシーンで、純情無垢のような比佐子が ふゆ に可奈子と慎二の逢瀬しているところ、そして金次には何事かの依頼を耳元で…。場転換し銃声2発その意味するところ、そして可奈子が妊娠していることが判明する。その子の父親は…といった謎含みで終わる。
    次回公演も楽しみにしております。

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