月の岬 公演情報 月の岬」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.7
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    静かだが心のざわつく芝居である。結婚しない姉(谷口あかり)の沈黙が何を語ろうとしたのか、いつまでも心に引っかかった。余白の多い芝居で、ぽつりぽつりと事情が分かっていき、最後に大きな余韻が残る。

    長崎の平戸沖の島、姉・平岡佐和子と弟・平岡信夫(陣内将)が長年住んできた古い家。弟の結婚式に出るのに、近所に嫁いだ、騒々しい妹・大浦和美(松平春香)がやってくるところから舞台は始まる。
    弟は中学教師で、新婚旅行に行っている間に、家に生徒が男の子2人(赤名龍乃介、天野旭陽)女の子1人(真弓)やってくる。そこに弟が帰って来ると、女生徒は「先生が結婚したから、この男子と付き合うことにした。それでいいですか?」と不穏なことを言ってくる。いっぽう、佐和子と高校生時代に駆け落ちしようとした男・清川悟(石田佳央)が島に帰ってきて、佐和子に一緒に島を出ようと迫る。女子中学生に迫られる信夫、昔の男に迫られる佐和子、の二組の思うに任せない恋が、島の平凡な日常に波乱をひろげていく。

    佐和子は子どものころ海でおぼれかけて、助けた父がそのまま流されたという過去がある。佐和子は表面的には穏やかで、何も言わないが、父のことは大きな負い目、自分は幸せになってはいけないと考えているのだろう。それがラストの思い切った行動になるのだと思った。
    舞台奥の白い小さい花は、萩の花。

    さすが90年代「静かな演劇」を代表する戯曲である。キャストもみな好演でいい芝居だった。

    ネタバレBOX

    リフレインされる「月の岬」の歌「月の夜は/潮の満ちて/岬ば切れて/島になると」が、せつなく、象徴的に響く。
    悟は妻子がいるのに佐和子への未練を棄てられない、どうしようもない男だが、そのセリフは良かった。
    「何かを始めるために何かを失うんじゃなかったとね。これでは何も始まらん。前と一緒じゃ、わしもあんたも」
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    以前戯曲を読みかけた事を思い出した。当日は25分の電車遅延(確か強風の日)で冒頭15分程程遅れて入場するも、風景に既視感。親類の葬儀に出ようと喪服を着たりぐずぐずしている。。(と思ったら結婚式だったらしい。)
    若手の俳優たちの名は殆ど知らなかったがよく演じていた。
    松田正隆の戯曲は長崎を舞台に、微妙なバランスで保たれた関係の揺れを描く。今作は離島のとある平屋、適齢期を過ぎた「出来た」姉が、弟の結婚式に出かける準備の朝に始まり、夫婦と姉の同居生活が進む中、中学教師である弟の生徒らが訪ねてきたり姉の異性関係が持ち上がったりを経て次第に姉弟の間に築かれていた紐帯がじわじわと可視化されて来る。そしてそれを直感する嫁の行動、姉を思い続けていた男の行動がドラマの熱度を徐々に高め、融解し、液化して心に沁み広がる。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    凄くこの物語は気になる。妙に引っ掛かる。

    音楽・三枝伸太郎氏、歌・菊池好凛子ちゃん、津久井有咲ちゃん、牧野湊君。劇中歌「月の岬」が川井憲次の『イノセンス』みたいでカッコイイ。

    ネタバレBOX

    〈作品内に散らばる疑問〉

    ①何故、佐和子は悟と駆け落ちをしようとしたのか?
    ②女子生徒、七瀬と信夫には何があったのか?
    ③悟の佐和子への謎の台詞「じゃあ、この間のことは何やったとね?何のつもりやったとね?」
    ④信夫に度々掛かってくる脅迫電話、信夫を闇討ちした者達の正体と目的とは?
    ⑤溺れた佐和子を救ったのが父親でなく、信夫であるという佐和子の記憶の混同。
    ⑥消えた悟の行方。
    ⑦佐和子は「月の岬」で身を投げたのか?何故?
    ⑧矢鱈水を飲み、佐和子が憑依したようになった直子の謎。「誰やお前?」

    〈仮説〉

    大島の経ヶ崎に伝わる伝説。江戸時代、近親相姦的愛情を父に抱いて長崎からこの島に流された美貌の娘。五年間耐えたが、父恋しさに泳いで帰ろうと満月の晩、海に入り溺れ死ぬ。「月の岬」は普段は歩いて渡れる陸続きの場所だが、満月の晩だけ潮が満ちて岬は切れ、島になる。

    小学生の佐和子は遊泳禁止の「月の岬」で遊んでいて溺れてしまう。娘を助ける為、飛び込んだ父は亡くなる。その受け止め切れない残酷な記憶を封印する佐和子。弟の信夫が助けてくれたことに記憶を塗り替える。

    高校時代、佐和子は恋人の悟と駆け落ちを企てる。小舟で経ヶ崎から長崎へと夜中に漕ぎ出す計画。悟は約束の場所でずっと待っていたが、彼女は結局現れなかった。

    高校教師となった信夫は女子生徒、七瀬に言い寄られる。適当にあしらっていたのだが、キスだけはしてやる。

    大阪で所帯を持っていた悟は、会社を潰し借金を抱え家族を置いて島に逃げて来る。佐和子は思わせ振りなことを言い、キスをする。「もうあんまり無駄遣いは出来んのよ。」

    大学時代からの恋人であった直子と結婚する信夫。傷付いた七瀬は当て付けに他の男子とキスをする。

    信夫の家に度々掛かってくる脅迫電話。七瀬との一件についてのもの。
    悟は佐和子にしつこく言い寄るも撥ね除けられる。その騒動からか直子は流産する。

    帰り道、複数の生徒に襲われて怪我を負う信夫。
    夜になっても帰って来ない佐和子。経ヶ崎で彼女を見掛けた女性が駐在と訪ねて来る。身投げしたのではないか?と。直子は佐和子が憑依したようになり、信夫を問い詰める。

    行方知れずの悟を捜しに大阪からやって来る妻と娘。悟も佐和子も帰って来ない。

    今作のテーマは平岡家の「母親の継承」なのか。
    佐和子は父親を亡くした「月の岬」でずっと死にたかった。高校時代、悟と心中を考えたが果たせなかった。そしてもう一度死にに戻って来る悟。抗う佐和子だったが、自分の揉め事のせいで直子が流産してしまう。ここで佐和子と直子の意識が入れ替わるように混線し出す。「月の岬」で身を投げる佐和子は息子を失った辛さを訴える。直子は佐和子の残留思念と共に生きていく。(悟がどうなったかは判らない)。

    これは劇場アニメ向けの題材だと思う。演出によって様々な解釈が可能。

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