ノルウェー国立劇場『人民の敵』 公演情報 ノルウェー国立劇場『人民の敵』」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.5
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  • 満足度★★★★

    何もない素舞台で俳優が躍動
    全く何もない裸舞台でイプセンの物語を立ち上げる、俳優陣の地力は圧巻。ナチュラルな芝居というよりも、演出によりある種コミカルでカリカチュアされた表現が取り入れられ、それがこの芝居のカラーを打ち立てています。
    この戯曲におけるストックマン博士の正義感をどう受け止めるかについては一通りでないと思いますが、今回の芝居では博士に立ち振る舞いにややヒロイズムを浴びせるような演出だったかなと感じました。

  • 満足度★★★★★

    独特の斬新なスタイルに、リズム、持続する熱量が素晴らしい
    ノルウェー語で上演(字幕付き)なのに、ぐいぐい引き込まれた!
    役者もいい。

    ネタバレBOX

    温泉施設の専属医師であるストックマンは、温泉施設の水が工場のせいで、人の健康を害するほど汚染されていることをつきとめる。
    それを新聞『人民新報』の編集者に伝えたところ、すぐに新聞に掲載したいと言う。また、旅館組合の組合長は、民衆(絶対的多数)の代表として医師の支持を約束する。

    その情報を知った医師の兄であり、町長兼警察署長は、町の評判を落とし、町が凋落していくことを防ぐため、弟の医師に事実の発表をやめるように言う。
    汚染防止のためには莫大な資金と時間が必要だからだ。
    しかし、ストックマン医師の意思は固く、兄の意見には従わない。

    そこで、ストックマン医師の告発は、町の評判を下げ観光地としての魅力がなくなる、汚染防止費用のために増税がある、工事中は温泉を休業しなくてはならない、ということになると告げられた旅館組合長や新聞社は、自らの考えを翻し、医師に事実の発表をするなと言い出す。
    さらに、医師の妻の父は、汚染源である工場を持つ経営者であり、ここからの圧力もストックマン医師とその家族にかかってくる。

    そして、町民集会が開かれ、町の利益を損なおうとする医師を「人民の敵」とする決議を行ったのだ。
    医師は温泉専属医師の職を解かれ、教師であるその娘も退職させられてしまう。

    そして、医師は決断をするのだった。

    そんなストーリーが、本当にまったく何もない、黒い舞台の上で繰り広げられる。。

    ノルウェー語で上演され、字幕頼りに観劇しているのに引き込まれる。
    古典なので、てっきり重々しくいかにもなスタイルで上演されるのかと思ったら、いい意味で裏切られた。
    独特の斬新な演出スタイルがある。
    ダンスの様な動きや、登場人物たちの関係性を具体的に見せるような、ねちっこい演出。
    一瞬で変わる場所と時間。連続性とスピーディさ。
    リズム感と緩急、そして持続する熱量が素晴らしい。
    役者も力があるのだろう。特に主人公ストックマンを演じた俳優の、正義への情熱が、抑圧されつつラストに行くに従い、いろんなところから噴き出してくる様が素晴らしい。

    「内部告発」という現代に通用するテーマを軸に物語は進行する。
    そこで描かれるのは「絶対多数」というものの危うさである。
    それは、民主主義の危うさでもある。同時にそれには「古めかしさ」も漂ってしまうのだけど(ラストとか)。
    「自由」は「絶対多数」によって脅かされるという事実。

    そして、主人公が「正義」のようであるが、追い詰められて発する彼の「正義」の理論は、「少数派」「純血」というキーワードによって、「正義(感)」の危うさまで浮き彫りにしていく。
    つまり、「正義」とは今も昔もそんな危ういバランスの上に成り立っているということなのだ。

    「内部告発」することが、行為としての、社会との関係における「正義」と、周囲への影響や自己満足(自分の姿に酔いしれる)ということとのバランスというだけでなく、なんかもっと根本的なところにも言及している、そんな印象を持った。

    これが今、この舞台を上演する意味や意義ではないのだろうか。

    ノルウェー国立劇場『人民の敵』は、とてもよかったのだけど、客席には空席が目についた。「国際イプセン演劇祭」は短期間に集中して上演されるので、時間の都合がつきにくい、それと料金がもう少し安ければと思う。

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