峯の雪 公演情報 峯の雪」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • セリフの美しさ。
    とある九州の片田舎。
    窯業の町。
    戦争の波が荒く押し寄せ、
    自由な焼き物が許されない時代になっていた。
    そんなある日、
    陶工としてはをはせている治平もとに、
    奇妙な焼き物依頼がやってくる。
    そこへ満洲へ行っていたという次女が帰国し、
    良からぬ噂が……。
    はたして、その真相が明らかになると、
    戦争というものを実感することになっていくのだった。

    三好十郎の骨太な戯曲。
    戦争から遠く離れているような、
    片田舎の市井の人々が、
    ゆったりした時間の流れが変わっていくことに、
    うすうす気づいていく。
    また一方では、
    その中心の人間が“陶工”という芸術家であるところが、
    画一的になっていく“国民”の姿を浮き彫りにしていく。

    手堅い作りで、
    ドラマとして十分楽しめるが、
    今、なぜ、三好十郎か、
    という部分が希薄なため、
    物足りなさが残る。

  • 満足度★★★★★

    戦争直前の日本
    国民が自然に戦時体制に巻き込まれていく様子がしっとりと描かれておりました。

    ネタバレBOX

    上薬の配給がなくなり、やる気のない名人は、食いつなぐためでもあり、国策でもある碍子作りの仕事を弟子にやらせている。

    次女が大陸から帰ってきたが、寝てばかり。弟子を巡る長女と次女の争いがあって、やけになった次女が出奔したとの認識があり、からゆきさんだったとの噂を否定することもできず、ろくに会話もできない。しかし、次女は軒下に咲いていた峯の雪(白い椿)を見事に茶室に活けるなど意外に心は荒んでいない様子。

    東京から電機会社の社員が来て、潜水艦に取り付けるような特殊な磁器(熱膨張率の低いセラミック製品)の試作を依頼されるが名人は断る。

    しかし、次女に再会したその社員の口から、次女が張家口でタイピストとして活躍する傍ら傷痍軍人の慰問をしていたことを聞かされ、お国のために働いていたことを知る。そして、次女はしばしの休暇を取った後、また中国に行くと言う。

    はからずも、近所に住む茶道の弟子が出征することもあり、国全体が戦時体制に向かっていることを肌で感じ、名人は特殊な磁器の試作に取り組むことを決意する。

    それにしても、客の年齢層が高い。民芸とともに生きてきたって感じの人々。この人たちがいなくなったら民芸はどうなるのかと心配になる。そして驚くのがマナーの悪さ。携帯電話の呼び出し音が数回。ジュピターの音楽が流れたり、静かにお茶を立てているときに普通のベルの音。観劇のプロでしょ、あんたたち!
  • 満足度★★★★★

    ただ、ただ美しい人たち
    長塚圭史氏がイギリス留学中に「胎内」をワークショップで選択、そして
    翌年には仲代達矢氏が「炎の人」に出演予定、と今もなお古びない
    三好十郎。 一体、何がその生命力の源なのか。

    前々からその作品を観てみたい、と思っていた矢先に本作。
    即決で観ましたが…。

    出てくる人たちが皆凛としていますね。 佇まいから、台詞から。
    仲代さんもそうなのですが、良い役者は姿を見るとただ「美しい」と
    はっとさせられるのですが。 本作は皆「美しい」です。

    ネタバレBOX

    内藤安彦氏の演じる治平は本当に素晴らしかった。
    台詞一つに、無骨でいささか不器用ではあるけど、優しさに満ちた
    深みのある性格が出ていて。。 特に、娘のみきに対する複雑な
    心情の表現が本当に、なんといってよいのか。

    脇を固める人たちも皆レベルの高い演技。
    特に新吾役の塩田氏の、きりっとした佇まいも観ててこっちが
    背筋がしゃきっとしそうな、良い男っぷりでした。 最後の最後なのに
    かなり良いとこもってった、かな。

    戦中のいわゆる「戦意高揚モノ」に括られているらしく、三好十郎本人は
    この作品を恥じていた、とパンフレットにはあったけど。

    世間の片隅でひっそりと、自分のなすべきことを精一杯にやり遂げる。
    そういう、なんというか、職種に限らない「人生の職人」達への尊敬と
    深い愛情だけが観終わった後は心に焼きつくような作品でした。
    それはとりもなおさず、きっと三好十郎本人が職人だからでしょう。

    本作品は「戦時中」のものですが、混沌とする情勢の中、
    「戦時体制」は今なお厳しく継続中、といわんばかりです。
    現在と照らし合わせてみると、恐ろしいほど古くない上に
    一つの清冽な生き方を想わされるよう。

    この作品は観ないと損ですね。 観終わった後「人生」を考えます。

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