兵器のある風景 公演情報 兵器のある風景」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
1-5件 / 5件中
  • 骨太な
    気にならない程度の新劇色。心にずっしりとのし掛かるものがある。間違いなく骨太で良くできた芝居だったと言える。特に演出は「そういう風に場の流れを持って行くのか」と思ったりして、なかなか面白い目線で観られた。出演者四人もそれぞれ圧倒的な個性を持っていて胸に強く響く。

    アプローチの仕方は違うものの、研究者の苦悩という点、同じく俳優座劇場で観た「東京原子核クラブ」と通じるものがあった。俳優座劇場プロデュース作品は3~4作ほど観ているが、どれも脚本演出役者スタッフの完成度が高く、上質な芝居をみせてくれる。こうも毎回外れがないと自信を持って人に薦められるからとても助かる。

  • 満足度★★★★

    絞られた登場人物による会話劇
    すごかった。熱演でした。
    日常的な話し合いという手段で、世界や政治などの大きな物事を、
    伝えきる事が出来るということを理解させられました。
    まさに。映画やCGなどではない芝居というものの奥深さが覗けました。

    ネタバレBOX

    役者さんの表現力の強さってあるんですね。
    長丁場で、眠りかける公演などがたまにあるのですが。
    話の展開や心境など、次が気になって時間が、
    あっという間に過ぎていきました。
    明るくて、人のよさそうな後半登場の、諜報員レニーさん。
    人柄が明るく見える分、底の暗さやエゲツなさが容易に想像できる人物だと、
    よくわかる演技でした。
    主人公の卓越した才能と、それを使い切れない善人で小市民的な心が、
    もどかしいながらも、ハラハラしながら次の展開を待ちましたね。
    なんだかんだと言いつつも、弟を見捨てられない歯科医の兄貴もよかった。
    等身大で、どこにでも居そうな兄弟が繰り広げる会話で。
    世界という物語が紡げるのが、本当にすごかったです。
  • 満足度★★★★

    立場によって
    どんな場面でもそうだが各々が所属している団体、あるいは地方、政府、国の使い方によって偵察機にも殺戮兵器にもなるという技術開発者の苦悩と葛藤を描いた作品。

    以下はネタばれBOXにて。。


    ネタバレBOX

    いつの世も、科学者は常にこういった葛藤を抱え苦しんでいるような気がする。例えば原爆は作った本人が、投爆した後の地獄絵図のような悲惨な結果に一番驚いて恐怖を感じた。というのだから彼はコレを自分の十字架として永遠に抱えていく事になるのだ。

    政府プロジェクトの一員となった航空技術エンジニアのネッドは軍事テクノロジーを軍と開発して完成させた。それは無人航空機、つまり偵察機だったが、一方で兵器にもなり山ほど民衆を殺す事にもなる。これを知ったダン(ネッドの兄)はネッドの仕事を危惧する。そのような悪魔の道具を作っているネッドにその開発から手を引くように説得するも、ネッドは既に自分の開発した兵器が商品として取引される事を知る。

    政府は巨大な金を産むマーケットを視野に動き出していた。こうなると一介の航空技術エンジニアに力はない。ネッドは技術開発の所有権を主張するも、あっけなく覆され更にこれに対してあまりにも抵抗すると「クビ」を言い渡される。自分の立場が日に日に悪化していく事を知ったネッドは最後の手段として自分のプログラムを破壊し失踪してしまう。

    これを知った交渉役のロス、そしてブルックスは非情なまでの精神的圧力をダンとネッドにかける。この場面のダンとネッドの恐怖とダメージの表情が見もの。特にブルックスがダンにかける精神的拷問の例は無視や無言の直視虚無感、音の拷問、家族へのほのめかし・・など耐え難いものだった。そしてダンはネッドの所在を遂に白状してしまう。今度はネッドがブルックスに追い詰められる番だ。

    結果、ネッドはプログラム再生の暗号を白状してしまう。そうして政府にとってもう付加価値のない人となったネッドは妄想と悪夢を見る毎日となり、廃人同様な世界の住人となる。

    ネッドの葛藤、ブルックスが見せる他者への精神的な支配力、ロスの交渉のテーブルへの引きずり方、ダンの思いが絶妙に加味され震えるような舞台だった。勿論キャストの演技力は絶妙だったけれど、物語自体があまりにも鬱というか闇というか・・、まあ、闇な舞台は嫌いじゃあないのだけれど、なんとなく後味の悪い舞台だった。

  • 満足度★★★

    技術者倫理を問う話!
    画期的発明が軍需産業に利用される怖さ…、でも、そう単純でもない。GPSは逆に軍のシステムが民間に解放されたものだから。

    ネタバレBOX

    基本的な技術がいったん軍から目を付けられると、足抜けが困難なことが良く分かりました。例え本人がその組織を辞めても誰かが引き継いでいくことになる現実。

    真の技術者倫理とは何か、武器開発のみならず、トヨタの問題なども含めて問われているのです。

    上空からの電波を要せず、飛行体間の情報伝達によって進むべき方向を自分で判断できる飛行体を研究していた主人公、大量殺人兵器に応用可能なことなど兄に指摘されるまでもなく理解できるのではありませんか!?

    兄との会話から軍との共同研究を止めたいと思ったというのはちょっとどうかなと思いました。
  • 満足度★★★★★

    本当にすごい演劇!!!
    久しぶりに胸にじわじわ迫る本当にすごい演劇を拝見しました。これで、2800円なんて申し訳ないくらい。
    今年の、☆5つでは足りない2作目舞台でした。
    まやかしや小手先でない、迫真の会話劇。こういうプロ中のプロが書いた骨太の会話劇には、なかなかお目に掛かれるものではありません。
    その上、常田さんの翻訳が素晴らしくて、翻訳劇にありがちな、よその国のお芝居感が皆無でした。
    役者さんも演出も美術も、全てプロの力が結集した、類稀な本物の演劇世界が構築されていて、この舞台に関わった全ての人の力業に脱帽しました。

    ネタバレBOX

    私の周りに、最新兵器に関わるような人物はいる筈もないのですが、常田さんの見事な翻訳と、坂手さんの綿密な演出と、役者陣の嘘に思わせない演技と、島さんの脚本世界を寸分違わずに表出した美術によって、あっという間に、この自分の周囲にはいない筈の人物ネッドの葛藤が我が事のように身近に感じられ、その兄ダンと同じように、彼の今後の人生を見守る目で、終始感情を揺すられっ放しの3時間弱の観劇でした。

    一幕はネッドの新居の部屋。整然としているけれど、絵の位置が何となく不均衡で、彼の心を表出するような、上辺だけ落ち着いた部屋。一般市民の命も奪いかねない兵器を創り出した弟と、その使用を必死に阻止しようとする兄の二人芝居の部分が特に秀逸。でも、そんな大それた話題をしていても、二人は腹が減ったと食事をし、トイレをもようす、普通の生活者なのです。だから、余計、繰り広げられる会話が、人事でなく、胸に刺さります。
    二幕は、一転、無機質な尋問部屋的様相の部屋。ブルックスが、投げるゴムボールが精巧な拷問道具のように見えて、不気味でした。
    暗転後の三幕は、元のネッドの部屋ですが、彼の心の憔悴を物語るような、散らかり放題の部屋。でも、一幕の変に整頓された部屋より、ひどく人間味のある部屋に思え、これからのネッドの人生が、兄一家の情愛に支えられて、人間的な生活が戻って来そうな、静かな情感を感じました。

    役者さんは、誰もが、役として、説得力ある好演。最近、坂手さんの繰る腹話術の人形的な台詞ばかりでお気の毒な感じだった大西さんが、もう、ネッドの苦悩を見事に体現され、久しぶりに役者冥利に尽きる役だったのではと、嬉しい名優ぶり。大してできの良くない本でも、書かれている以上の役を生きられる数少ない名優、中嶋しゅうさんは、本が素晴らしいから、これはもう実際そこにいる人物のよう。荻野目さんの舞台は、久しぶりでしたが、西欧のキャリアウーマンの所作を見事に演じて、日本人とは違う女性像を活写。浅野さんは、任務に忠実な男の不気味な自信を表出した不敵な演技が、秀逸でした。

    大変重いテーマなのに、こんなに卑近な感情を持って、観劇できるとは予期していなかっただけに、本当に宝くじに当たったような、充実感を感じた傑出舞台でした。

    この作家、ジョー・ペンホールの作品「ブルー/オレンジ」買ってあるので、益々楽しみが加速しました。

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