兵器のある風景 公演情報 俳優座劇場「兵器のある風景」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    本当にすごい演劇!!!
    久しぶりに胸にじわじわ迫る本当にすごい演劇を拝見しました。これで、2800円なんて申し訳ないくらい。
    今年の、☆5つでは足りない2作目舞台でした。
    まやかしや小手先でない、迫真の会話劇。こういうプロ中のプロが書いた骨太の会話劇には、なかなかお目に掛かれるものではありません。
    その上、常田さんの翻訳が素晴らしくて、翻訳劇にありがちな、よその国のお芝居感が皆無でした。
    役者さんも演出も美術も、全てプロの力が結集した、類稀な本物の演劇世界が構築されていて、この舞台に関わった全ての人の力業に脱帽しました。

    ネタバレBOX

    私の周りに、最新兵器に関わるような人物はいる筈もないのですが、常田さんの見事な翻訳と、坂手さんの綿密な演出と、役者陣の嘘に思わせない演技と、島さんの脚本世界を寸分違わずに表出した美術によって、あっという間に、この自分の周囲にはいない筈の人物ネッドの葛藤が我が事のように身近に感じられ、その兄ダンと同じように、彼の今後の人生を見守る目で、終始感情を揺すられっ放しの3時間弱の観劇でした。

    一幕はネッドの新居の部屋。整然としているけれど、絵の位置が何となく不均衡で、彼の心を表出するような、上辺だけ落ち着いた部屋。一般市民の命も奪いかねない兵器を創り出した弟と、その使用を必死に阻止しようとする兄の二人芝居の部分が特に秀逸。でも、そんな大それた話題をしていても、二人は腹が減ったと食事をし、トイレをもようす、普通の生活者なのです。だから、余計、繰り広げられる会話が、人事でなく、胸に刺さります。
    二幕は、一転、無機質な尋問部屋的様相の部屋。ブルックスが、投げるゴムボールが精巧な拷問道具のように見えて、不気味でした。
    暗転後の三幕は、元のネッドの部屋ですが、彼の心の憔悴を物語るような、散らかり放題の部屋。でも、一幕の変に整頓された部屋より、ひどく人間味のある部屋に思え、これからのネッドの人生が、兄一家の情愛に支えられて、人間的な生活が戻って来そうな、静かな情感を感じました。

    役者さんは、誰もが、役として、説得力ある好演。最近、坂手さんの繰る腹話術の人形的な台詞ばかりでお気の毒な感じだった大西さんが、もう、ネッドの苦悩を見事に体現され、久しぶりに役者冥利に尽きる役だったのではと、嬉しい名優ぶり。大してできの良くない本でも、書かれている以上の役を生きられる数少ない名優、中嶋しゅうさんは、本が素晴らしいから、これはもう実際そこにいる人物のよう。荻野目さんの舞台は、久しぶりでしたが、西欧のキャリアウーマンの所作を見事に演じて、日本人とは違う女性像を活写。浅野さんは、任務に忠実な男の不気味な自信を表出した不敵な演技が、秀逸でした。

    大変重いテーマなのに、こんなに卑近な感情を持って、観劇できるとは予期していなかっただけに、本当に宝くじに当たったような、充実感を感じた傑出舞台でした。

    この作家、ジョー・ペンホールの作品「ブルー/オレンジ」買ってあるので、益々楽しみが加速しました。

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    2010/03/16 00:09

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