実演鑑賞
満足度★★★★
冒頭。「行動を!」と熱く語る大杉栄。それを軽くいなす堺利彦とのやり取り。
大逆事件後の社会主義運動にとっての冬の時代を乗り切るべく売文社を設立したばかりの場面だ。
このやり取りはこのあと劇中で何度か繰り返され、それぞれの状況の変化を示したりしている。
そういえは、この芝居の中で言及される大逆事件や幸徳秋水、田中正造、ロシア革命などについての印象はみな舞台を観て得たものだ。学校で教わった机上の知識とは異なる、人の営みとしての歴史。創り手の主張も含めて、そういうものをこのところずっと劇場で受け取っている気がする。
社会主義者たちや新劇劇団の人々。それぞれの思想や芸術を実現させるための道を模索し、民衆の力を信じようとしていた。
疾走する彼らを阻むように時代は閉塞感を増していく。
登場人物ひとり一人の動向がその閉塞感と重なっていく。
物語の終わりが近づいて「一本の杭に花を飾り人々が集まれば、祭りになる」そういう大杉栄の台詞があった。
2幕が始まるときの幕間狂言めいたやりとりの中で語られた大杉と伊藤の運命は、震災直後に憲兵に囚われて死ぬというものだった。
真っ白な衣装に身を包んだ大杉栄と伊藤野枝。その運命と先に挙げた彼の言葉が響き合って胸にしみる。
祝祭をイメージさせるラストシーン。彼らの夢見たものは実現しただろうか。
劇場の壁には参加した劇団の過去公演のポスターが重なり合って貼られていた。彼らが積み重ねてきた年月。この舞台で描かれたさまざまな葛藤を受け継ぎ、戦ってきた人々がここにいるのだと思った。
実演鑑賞
満足度★★★★
有名な戯曲だが舞台を初拝見。島村抱月(鍛冶直人)の、日常的でしたたかな存在が印象的だった。文学座かなとおもったら、やはりそうだった。渡辺美佐子は、松井須磨子(=カチューシャ)役で、うぶな少女カチューシャを演じて、ユーモアがあった。89歳で(女囚服の背中「19231023」と、さりげなく渡辺の誕生日が書いてある)この青春群像のなかの松井須磨子をやるとはすごいことだ。
同じ題材を扱った木下順二「冬の時代」があある。木下もあだ名で登場人物を命名していたから似ている。宮本のこの戯曲は演劇青年たちも絡めたところが違っている。
戯曲としては二つの対話が肝になる。「幸せな民衆に芝居はいらない。祭りがあればいい」と語る抱月と久保栄の演劇対話と、権力奪取か権力否定かの堺利彦と大杉栄の革命対話である。特に大杉の語る極端な権力否定論は空論なのだが、空論ゆえのというか、妥協を排したひたむきな議論の美しさがある。初演当時には、既成左翼政党批判という側面も持ったのかもしれない。最後、真っ白な服を着て、陽光の中、パラソルを指して歩く大杉と野枝。まぶしく、まさに「美しきもの」の姿だった。
実演鑑賞
満足度★★★★
すぐれた青春劇だなぁとつくづく思う。素材となっている大正ベルエポックもまた遠くて近い。
今回は新劇団合同公演で、渡辺美佐子の舞台最終出演、ということもあってか、新劇団公演としては久々の(だろうと思う)追加公演も出た。劇場満席。
しかし、舞台そのものは、初演のころから見ている観客とすれば物足りないのだが、時代と青春を描いた脚本の力はすごい。軸になるクロポトキン(南保大樹)と野枝(荒木真有美)の周囲に集まった当時の若い政治家、ジャーナリスト、女権論者、演劇人が時代の閉塞状況にあらがってさまざまな表現や抵抗を試みる。
この戯曲が素晴らしいのは、いったんは挫折して売文社を設立した、四分六(能登剛)の視点から多岐にわたる青春像を描き切って、ある種の相対化に成功していることだ。それがあってこそ、ラストの「ベルエポックは夢のような時代だったと思いだされる」と言うセリフも白いパラソルに象徴される青春挽歌もそくそくと迫ってくる。
渡辺美佐子はこの作品の初演のころは俳優座系の新人会の看板で、同時に新劇俳優の若手の主演者の一人、日活映画のスター女優でもあった。晩年、「化粧」が当たったが、そういう日本人心情を頼りの大衆芝居よりも翻訳劇も創作劇もできる豊富な表現力と魅力のある俳優だった。ここで、新劇団合同公演として、たしか原戯曲では出てこない松井須磨子の役を作って最後の出演のはなむけにしたのは、大いに敬意を払ったのであろう。最後だからと言って、生涯の名演をもう一度やってみることは、歌舞伎では無理を承知でよくあるが、新劇では出来ない。「マリアの首」を見せてくれとは言えない以上、やるとすれば、こういう形しかないだろう。ここもナマものの演劇らしいところである。
さまざまの劇団から出ている俳優たちでは、やはり戯曲の若さが技巧ではなく表現できる俳優が目立った(荒木真有美)、が全体に活気に乏しい。言っても詮無いことだが、太地喜和子はよかったなぁになってしまうのだが、そういう感想もまた、時代とともにしか生きられない演劇の宿命だろう。いつの日か、「平成から令和にかけて、だらーんと落ちていくのをスマホで見ながら寝そべっていた時代」を舞台で描きつくせる劇作家が出てくるだろう。(どうかな?)
かつて見た舞台は、賑やかな開演前や幕間も含めて、出演者たちはみな明るかったが、今回はヘンに薄暗い。それは最近この時代を素材に書いた永井愛やシライケイタの本にも言えることでそこがやはり時代なのかな、とは思うが、このは戯曲は「伝説」と断りながらも演劇の豊かな表現力で人間と社会をさまざまに見せてくれる。思えば。この時、宮本研は四十歳を超えたばかり、青春を振り返るには最適の年齢だった。演劇はどこまでも人間的だ。
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昨晩は六本木で、新劇交流プロジェクト公演『美しきものの伝説』(宮本研作、鵜山仁演出)を見る。この舞台を初めて見たのは地人会公演で、木村光一の演出だった。わたしが主に見ている「新劇」の前身ともいうべき芸術座やその周囲に集う人々を通して、新しい息吹を感じた。では今回はどうだったか。→
2年以上前
今日、齊藤 尊史先生の出演している舞台「美しきものの伝説」を観に行ってきました✨ お話はすごく難しかったけど、役者さんの長台詞が何回もあってすごかったです‼️ https://t.co/yt5czVt28y #美しきものの伝説
2年以上前
劇団東演『美しきものの伝説』面白かった。いまこの手の芝居を演出しようと思うのも、できるのも鵜山さんしかいないかなあと思う。 島村抱月と堺利彦(大杉栄)が主張を受け止めてくれる「民衆」を作り出そうとする仕事をしていたという共通性の見出し方が、非常に面白かった。
2年以上前
新劇交流プロジェクト公演『美しきものの伝説』 舞台写真を撮らせて頂きました。 2005年〜2018年の間、美佐子さんが出演するいくつかの公演を制作し、その都度舞台写真を撮影していたこともあって、見過ごす訳にはいかないと思っていま… https://t.co/SBSRT7JbUn
2年以上前
新劇交流プロジェクト公演『美しきものの伝説』 舞台写真を撮らせて頂きました。 「新劇」7団体から参加した幅広い世代の方々による今回の上演は、この作品にふさわしいと思います。そして、日本で「最初の」新劇女優の役を、渡辺美佐子さんが7… https://t.co/dmNxGhCdPJ
2年以上前
7劇団による舞台「美しきものの伝説」 東京・港区で26日まで(毎日新聞) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース https://t.co/zmcUUK4Rsx #映画 #舞台
2年以上前
新劇7劇団の合同公演『美しきものの伝説』を、六本木の俳優座劇場で見終えた。秋水処刑の赤い絞縄イメージで始まり、松井須磨子自決の赤い絞縄をへて、大杉&野枝の道行き、辻潤によると思しき尺八の響きで〆る、新劇100年それ自体のガーラ的自… https://t.co/p57DLEHNHq
2年以上前
新劇7劇団の合同公演『美しきものの伝説』を、六本木の俳優座劇場で見終えた。大逆事件の赤い絞縄イメージに始まり、松井須磨子自決の赤い絞縄をへて、大杉&野枝に道行きに辻潤が吹いていると思しき尺八で〆る、新劇100年それ自体のガラ的自画… https://t.co/yh24XRRggV
2年以上前
新劇交流プロジェクト公演「美しきものの伝説」観劇。かつて「がめつい奴」で共演した渡辺美佐子さんが、松井須磨子を見事に演じられていた。まだまだこれからも、いい芝居を観せてほしい! https://t.co/L7w9MoJ1kd
2年以上前
7つの劇団が参加しての舞台「美しきものの伝説」18日に観てきました❗ それぞれの劇団の素晴らしい役者さんたちの、よりよい作品にしよう、と、全力で表現し合うエネルギーをものすごく感じました。 ステキな時間をありがとうございました。
2年以上前
舞台『美しきものの伝説』を観た。ちょうど『冬の時代』や『ブルーストッキングの女たち』と重なって観られて楽しかった。宮本件の作品。渡辺美佐子をはじめとして、新劇人の人びとが力を合わせて演じていたのでとてもよかった。終了後、渡辺美佐子と演出の鵜山仁のトークもよかった。
2年以上前
今日は俳優座劇場「美しきものの伝説」へ。 歌舞伎とミュージカルばっかり観てるため、ストプレ自体数える程しか観ていない。そして、たぶんはじめての新劇。
2年以上前
昼飯 2022.6.18(土)12:30 相方さんと新劇交流プロジェクト公演「美しきものの伝説」を俳優座劇場で。 でランチは六本木大戸屋。 私はひじき入り鶏つくねの炭火焼き定食。五穀米少なめ。 https://t.co/ZkRNAGse7C #六本木ランチ
2年以上前
新劇の大ベテラン俳優、渡辺美佐子さんが最後の舞台「美しきものの伝説」に臨みます。舞台をはじめ、テレビドラマ「おしん」など数多くの作品で活躍しました。「作者が言いたいことを伝えるのが私たち役者の使命」と語ります。 https://t.co/IIdOzLhidB
2年以上前
舞台『美しきものの伝説』 6/16(木)~7/15(日) 俳優座劇場(六本木) ⭐️七新劇交流プロジェクト2 ご予約状況etc、こちらから→https://t.co/wIc9AAdWox 当店お客様の劇団民藝齊藤さん出演。… https://t.co/zja5PwtlXW
2年以上前
📣急 告🔊 なんとも嬉しい悲鳴😆 私も出演しております→ 新劇交流プロジェクト2公演 『美しきものの伝説』 全チケット完売🥺 そして!なんとッ! 追加公演決定いたしましたッ! 何卒よろしくおねがい奉りまするぅ🙇♂️… https://t.co/1KSXqTCq3z
2年以上前
Topics:新劇交流公演「美しきものの伝説」 渡辺美佐子、最後の舞台 松井須磨子役に「勇み立ちます」 https://t.co/BLV6AerWzo https://t.co/r2N4YSCrZY
2年以上前
Topics:新劇交流公演「美しきものの伝説」 渡辺美佐子、最後の舞台 松井須磨子役に「勇み立ちます」 https://t.co/0PtDucM2DB https://t.co/L2RXWnFLnO
2年以上前
女優、渡辺美佐子さんが16日から上演される舞台「美しきものの伝説」を最後に舞台からの引退を決めました。 体調は良好ですが、「元気なうちに」と90歳を前にした決断です。反戦朗読劇などは続けていきたい、といいます。 https://t.co/wWyQSlDFYX
2年以上前
私出演の舞台ではなく、尺八演奏指導させていただいた俳優座の役者さん(齊藤隆介さん)が出演される、新劇交流プロジェクトによる舞台「美しきものの伝説」のお知らせです。シェア、宣伝まで。楽しみです! https://t.co/5NqnnXEX6n #美しきものの伝説 #俳優座劇場
2年以上前