満足度★★★★
最初にこのチラシ画像を見たとき、胸がざわついた。デザイナーさんが演劇チラシを作らせてほしいと、劇団に電話をかけてきたことから、このチラシに結びついたのだそうだが、個人的には今年のチラシ大賞はこれで決定と言いたくなるような出来映え。カミュは小説の方しか読んだことがないので、この作品は初めて。休憩15分を挟んで150分とやや長尺だが、緊張感のある面白い舞台。
満足度★★★★
「正義」を実現するための「暴力・殺人」は許されるのか。革命組織内の「恋愛」は、組織を離れても続くのか。革命を支えるのは愛か憎しみか。こうした問題を正面から激しく論じ合い、ぶつかり合う。思想劇であり、絵に描いたような葛藤のドラマである。「大公」は殺せても、その甥・姪の子供は殺せないというのは、ドストエフスキーを思い出した。状況は全く違うが、文豪も子供の命が踏みにじられることに耐えられないさまを「カラマーゾフ」に描いた。「子ども」は無垢、イノセンスの化身であり、特別な意味を持たせうる。
テロ実行犯のヤネクを演じた斎藤隆介が知性と感情を兼ね備えた、抑えがたい悩みと葛藤が非常にリアルで、素晴らしかった。その存在感によって、観念的な議論に血が通った。
でも「子どもを殺すより、失敗を選ぶ」と、一人の冷徹な年長者の革命家以外はみんな一致するところは優等生的、穏健的である。革命組織内で、テロのために皆が集中すればするほど、そうしたヒューマニズムは置き去られてしまうのが現実である。それは歴史とイスラム過激派等の現状が示している。カミュはアルジェリア戦争で「一般人へのテロの停止」を提唱したが、全く容れられず孤立したそうだ。
後半(4幕)の独房での大公妃との対話は、キリスト教をテロ行為に対置してやりあったようだが、よくわからなかった。この芝居の中心は正義と子供の命を天秤にかける2幕と、革命と恋がぶつかる3幕にあるだろう。
休憩15分込み2時間半
満足度★★★★
鑑賞日2021/01/29 (金) 14:00
座席B列18番
オフィス再生の上演を観てから3年後、俳優座上演を観る。
オフィス再生での上演では、主人公ヤネクが、最初の大公暗殺の失敗から、自らの正義と倫理との狭間で苦しむ中、「正義」の議論は、彼を取り巻くレジスタンス達の応酬として展開する。渦中のヤネクは苦悩こそすれ、ただただ無力で、懊悩するばかりだ。そして、自我を打ち消す棟に無機化して、大公暗殺に出向く。そこに誕生したのは、新たな英雄であり、もはや無垢に帰した屍のような人物だ。彼は思考を停止したかが故に無謬であり、何者にも咎められることはない。レジスタンスの同志たちは、彼の英雄性をいかに賞揚するかに専心し始める。「正義の人」とは何か?倫理の立脚点としての存在を問い詰めるような演出だった。
それに比して、俳優座の演出は、「正義」とは何か、むしろ意味論、価値論的に徹底して突き詰めようとする。ただ、いうまでもなく「正義」は相対的な思考軸の在り様でしかない。
レジスタンス達には、大公暗殺は「正義」だが、同行した甥姪を巻き添えにすることは「正義」ではないとする者。否、甥姪をも犠牲にして大公暗殺を優先するのが「正義」だという者。そして各自の「正義」たる主張は、みるみるうちに多種多様化し混とんとしてくる。
そう、レジスタンス各々の御旗になる「正義」の主張は、愛、憎悪、期待、同情、信頼、
失望、欲求などなど、あらゆる感情に還元され溶解されていく。
大公妃においては、夫大公にこそ正義はあるが、甥姪の道徳観・人民観に「正義」はないという。「正義」とは
どちらも妥協なきがゆえに、ただただ感嘆すべきドラマ性と演出。
満足度★★★★
鑑賞日2021/01/28 (木) 14:00
座席1階
カミュの古典を実力派の劇団が上演。カミュといえば降ってわいた新型コロナで「ペスト」がバカ売れする社会現象が起きたが、この戯曲は、人民の平和と安寧のために圧制者を殺害するテロは正義か、という現代でも通用する命題をめぐって暗殺者集団が大論争を繰り広げる。
舞台は暗殺前と暗殺後の2幕。翻訳に苦労したという難解なカミュの思想なのだが、役者たちの緊迫感に力を得て、客席の視線は緩むことがない。
今風に言えば、北朝鮮国民を貧困と飢餓、不自由から解放するために首領様を暗殺するのは正義かという話である。今回の舞台では二幕で、殺害された大公の妻が暗殺者に面会し、愛する夫を殺害された自分の思いをぶつける場面がある。首領様にも家族がいて(もっとも、この人は家族であっても粛正する人なのだが)果たしてその家族の安寧を破壊するのは人民のためとはいっても正義なのだろうか、と考える。
もう一つ、絞首刑になる暗殺者と恋仲の同志の女性が、恋人の処刑(死)に対して、それが自分の愛を貫くうえでも価値あるものだと半狂乱のように自分を納得させるような場面がある。主義のために死ねるか、社会をただすために愛を犠牲にできるのか。そういうことを考えなくても済む現代日本に住んでいるのは、よかったと思う。ただ、いつそういう世の中になるかもしれない、という不安は感じているわけだが。
このような戯曲を見た後は、酒場で少し議論したくなる感じだが、今はそれが一番してはいけないこと。そういう意味では不自由な世の中なのである。
満足度★★★★
後半、暗い牢獄の中、上側の四角い穴から光が差し込む美しい場面で行われる対話シーンが印象深い。
5Fの稽古場での公演に慣れていたので、1Fの比較的大きな劇場での公演ではやや聞き取りにくさを感じた。
満足度★★★★
戦後社会に生きる若者に大きな課題を突き付けた政治劇(1949)だが、すっかり忘れていた。民藝が上演して(1969年)安保世代には忘れられない影響を及ぼした作品を、俳優座が上演する。劇場(民藝は都市センターだったか?)はかつては青年の熱気であふれていたが今はコロナの一席沖の客席を埋めるのは老年の観客だ。若者は演劇勉強中の青年が売れなかった空席にパラパラといる。革命に自らの命を懸けて挺身しなければ、と若者が社会変革への運動への参加の意味を痛切に求めた時代はわが国では遠くなっている。
この作品は鈴木、つか、佐藤に始まる小劇場運動にも、清水、斎藤以下の劇作家にも、蜷川、渡辺、などの演出家にも大きな影響を与えた。坂手、鐘下はもちろん、現代の古川、長田、中津留らも、戯曲は読んでいるに違いない。現代演劇のメインストリームの一つである。だが、大劇団公演で舞台を観たのはずいぶん久しぶりだ。
サルトルもカミユも芝居はうまい。これはロシアの専制政治の主の大公を爆弾で暗殺すると決めた社会主義政党の暗殺実行グループの暗殺前と、暗殺後の二幕である。暗殺グループのメンバーも色分けがよく出来ていて、その中で、暗殺をめぐってさまざまな立場が論じられる。社会の不正をただすための殺人は正義か、という事がメインになるが、中国全体主義や、イスラム至上主義からトランプのQアノンまで、今も解が得られていない問題を社会正義とその実行をめぐって、議論が沸騰する。対比されているのは人間の愛で、二幕では捕らえられ死刑宣告を受けた爆弾投擲者(斎藤隆介)のまえに殺された大公の妃(若井なおみ)が現れ、自分の大公への愛はどうなるのだと、迫る。投擲者の恋人で運動家でもあるドーラ(荒木真有美)は、絞首刑になる恋人と同化して民衆への愛が達成できるという。議論は原理的ですっきりはしているが、実用的ではない。
今見れば、サスペンス・ロマンのような作りで、よく出来ているので飽きないで見られる。ことに一幕二場あたりまでは流れもよく緊張が持続する。
一日二公演の夜の部を見たので、さすがに二幕も後半になると俳優陣に疲れが見えたが、議論が主になる大量のセリフをこなしたのはさすが俳優座である。この劇団の俳優は立ち姿がいいのも自慢してもいいところで、あまり見たことがない主演女優の荒木真由美ももう四十歳近いベテランだろうが、セリフも動きも実に無駄がなくきれいだ。斎藤隆介も役をよく受け止めている。
五十年ぶりに見た舞台には感無量とでも言うところだが、考えさせられるところは多かった。とても「見てきた感想」では書ききれない。そこはお預けにするが、今の時代、お預けできるだけまだ、社会の状況は切迫していないともいえるし、もうこの段階は過ぎているともいえる。いや、単にこちらが老いたのであろう。
満足度★★★★
カミュ作の知らなかった戯曲を味わう。帝政ロシア時代の革命主義者らの話だが、ある独特さを感じた。戯曲は成立していたが、自然行き着くと思っていた方へは流れない。そう感じた自分はどういう「現代」に生きているのか、を思わず考えた。
舞台としては俳優座の「新劇」演技を目の当たりにする(多々引っ掛かりがある)。土岐研一のダイナミックな装置が劇的感興を高めるも、まだ俳優はそこに生き切れてない感じ。戯曲紹介としては十分であるし勘所は押さえていたと言えるのだろうと思う。
戯曲についてはもう少し温めて後日。
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去年10月のカラスカ以来の観劇。 とある舞台の出来事がきっかけで盟友になった柄澤くんのご案内で俳優座『正義の人びと』。 ロシアのテロ組織にまつわる物語で、正義を成す為に人を殺しても良いとは全く思わないけど、綺麗事だけじゃ済まないの… https://t.co/fTaYKnHbRX
4年弱前
僕が爆弾を投げたいと言ったわけが、わかるだろう? 思想のために死ぬのは、その思想と同じ高みに達するための唯一の方法だからさ。それこそ、自分の行為を正当化することなんだ――カミュ『正義の人びと』より
4年弱前
俳優座「正義の人びと」を観た。同じくカミュの「カリギュラ」にも通じるところが随所にある。俳優の生真面目な演技と装置の重たい天井と傾斜した床のギリギリ感。明日1/31が最終日。 マスクもらいました。ありがたい。 https://t.co/H4G6BEU2CK
4年弱前
劇団俳優座『正義の人びと』 口コミ良く高校同期出演もあり観劇。正義と思想が激しくぶつかり合う作品だがラスト感じたのは「愛」…終盤のドーラ圧巻。装置効果的。テロをしてまで成し遂げようとした正義は誰に届くのか…ヤネクとフォカの場も印象… https://t.co/v8NI1zysiI
4年弱前
カミュ「正義の人びと」を読む。冒頭、テロリスト集団内の対話は正直緩慢な部分があるものの、思想の対立する場面から俄然面白くなる。彼らの考え方にも一理あると思わせる手腕は流石。政治的な話は小難しいはずなのにぞくぞくしながらページを繰っていた。だらだらせずに白熱した議論をどう見せるか?
4年弱前
劇団俳優座「正義の人びと」マチネ@俳優座劇場。1905年の実話に材を取った49年初演のカミュ作品を2021年に観る。目的は手段を正当化するか。正答など存在しようもない問いを敢えて正面から問い直し問い直しする約2時間40分(休憩15… https://t.co/u6HRBEBCpd
4年弱前
劇団俳優座『正義の人びと』 https://t.co/C2VUY2P0dz @YouTubeより 理想の実現と暗殺。1905年のロシア大公暗殺事件に取材し、正義と信念と愛とを問う。不条理のニヒリズム。テロ実行犯である恋人(齋藤… https://t.co/ICIy2vHbJQ
4年弱前
劇団俳優座 「正義の人びと」も、 千賀功嗣・荒木真有美・八柳豪の同期3人組が出てて、、、 今回特に、 革命軍側の役者同士のリズム・テンポ・タイミングがめっちゃ良くて、 息がすごく合ってて隆介さんがきっちり引き立ってて、 観ててめっちゃ良かったんだよね…。。。
4年弱前
@Shimo_x2 御無沙汰しています。俳優座『正義の人びと』拝見しました。色々な意味でタイムリーで論争と緊迫感たっぷりの、老舗の意地を見せた舞台でした。そして河内浩さんは新劇名優の担当である「知的で風格に満ちた権力者」で魅了してくれました。是非観て頂ければと思います。
4年弱前
劇団俳優座『正義の人びと』カミュ、中村まり子、小笠原響。1905年ロシア大公暗殺事件を巡る社会革命党員たちの緊迫議論。正義とテロ、信念と恋愛。ドーラ(荒木真有美=鋭利)。「詩人」カリアエフ(齋藤隆介)と現実派ステパン(田中茂弘)の… https://t.co/swWvAzr8vl
4年弱前
俳優座のカミュ『正義の人びと』を観に行ったら、マスクをくれた。2色あるみたい。どうせなら千田是也とか小沢栄太郎とか東野英治郎の似顔絵が入ってれば、通って集め…ないか。 https://t.co/cHWGprI1XV
4年弱前
俳優座『正義の人びと』カミュがナチズム崩壊直後に描いた、圧制下ロシアでの要人暗殺。抵抗のための無差別テロにインテリと民衆の分断、正に今の世界を照らし出す。議論続出なのにサスペンスたっぷり。荒木真有美と齋藤隆介が揺らぎ続ける若者を力演、紳士な悪役の河内浩が往年の先輩名優達と重なる。
4年弱前
話題の公演 https://t.co/anAAnEhbOF ~1/24 ONEOR8/グレーのこと– 2021ver. –/5.0(3) ~1/24 ハツビロコウ/ベクター/4.5(2) ~1/31 劇団俳優座/正義の人びと/4.5(2) #東京観劇カレンダー
4年弱前
俳優座「正義の人びと」それにしても荒木真有美さん、千賀功嗣さん。田中茂弘さん。この人達の演技を観ただけで大満足。凄かった。人間の多面性をここまで表現出来る俳優さん達の演技は圧倒的ですね。
4年弱前
劇団俳優座「正義の人びと」カミュが何を伝えようとしたのか?しばらくは考えないといけない観劇でした。なぜカミュがロシア革命前のテロ事件をこんなにも人間的に描いたのか?ドストエフスキーとの対比で読み解けるのか?ドーラは何の象徴なのか?
4年弱前
話題の公演 https://t.co/anAAnEhbOF ~1/24 ONEOR8/グレーのこと– 2021ver. –/5.0(3) ~1/24 ハツビロコウ/ベクター/4.5(2) ~1/31 劇団俳優座/正義の人びと/4.5(2) #東京観劇カレンダー
4年弱前
劇団俳優座「正義の人びと」俳優座劇場。観ました。作アルベート・カミュ演出小笠原響さん。感動しました。それ以外には適当な言葉はありません。「正義」「愛」「命」「神」そして「人間」とは?やはり演劇は凄い。
4年弱前
カミュのカリギュラが高校の頃から好きなのでカミュの舞台を見るのは一種の夢だったんですよね 夢、叶いました 俳優座「正義の人びと」 素晴らしかったです 特にまさか屋根にあんな使い方があるなんて感激した
4年弱前
俳優座「正義の人びと」150分休15分含 重い。正に、正義の人びと。いろんな事が頭の中を駆け巡る。正義と友愛とをぶつけた時、人はどうしようもない。言ってる事と感じてる事が全く正反対になる。泣いてるのに、泣かないで、と乞うてる。いつ… https://t.co/1Bdn03g3Ez
4年弱前
俳優座公演アルベール・カミュ「正義の人びと」 本日初日です! 夜間部でダンスを教えてくださった荒木真有美さん(映像の方)が出演されます✨いつもパワフルで明るい荒木さん。私たちも舞台が楽しみです。 感染防止対策を徹底していますの… https://t.co/InfjDheREs
4年弱前
来週金曜に備えて唐十郎「少女都市からの呼び声」とカミュ「正義の人びと」を続けて読んだ 行きます
4年弱前