少女仮面 公演情報 少女仮面」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.8
1-5件 / 5件中
  • 満足度★★★★

    他の方の勧めや評判も耳にして腰を上げたのが正直な所だが公演半ば過ぎては当然ながら完売、当日券に並べる日もなく諦めていた所、ワンチャンスが成就し千秋楽を観劇した。ダメ元で劇場に開演ギリギリ(実際は2分過ぎ)駆け込んだ所がトラムシートをゲット、開演にも間に合った。
    さて舞台。諸手の拍手とは行かなかった「理由」を考え始めるケースになった。

    ネタバレBOX

    トラムシートは最後列から劇場全体を見渡す位置。出来る事なら、ヒロイン春日野が身に纏おうとする虚構世界に自分も包まれるエリアに居たいのが願望である。
    ところが舞台の方は開演前から備品類が収納されている奥まで見せ、敢えて虚構=作り物である事を強調している。床掃除等をしていたスタッフが去って少女と婆のやり取りのあと、視界を遮蔽する舞台幅に近い黒い壁(=バー春日野の店内を区切る)がゆっくりと降りてくる。スタイリッシュな演出だが、奥行が狭いのが淋しい(作り物性を強調するのだから良いのか..単に見る位置でそう感じるのか..はたまた工夫したが限界ありという事か)。いずれにせよこの遮蔽によって完全虚構世界が作り出された、とは行かず、透き間風がある。箱庭のように擬似世界を温かく包まない。そういった事が一つ。

    いま一つは、序盤で飛ばすバーのマスターなど、名調子にも程がある程に名調子なのに何故か温まらない。一度台詞を噛んだが熱があれば気にならないのに気になる。私は千秋楽である事が役者に与える影響をあれこれ、これを見ながら想像を逞しくした。役者を気負わせてしまった、とすれば、これまでも正解が見えず模索中だったのではないか、とか。若村舞台の最後を最高に仕上げたいと役者達が力んだとか。。

    あとは自分の記憶の問題でもあるが、大西女史の婆が、妙に存在感を発揮し、主役と相性が悪い。始めの登場からして婆でない「何者か」が婆に扮している、と錯覚させる風情(特に声)、私はうっかりこの婆が後で仮面を剥ぎ春日野になって現れるのかな、等と想像し、若村女史がこの声色を使っている、凄え、役者根性半端なかったんだな、等と思い込んだ。いや、そのくらい婆の作りが思わせぶりで、婆でない者が婆を騙っている風を醸していた。これは演技の質として問題だと思う。思うにこの役なら、水族館劇場の某女優(役者名忘れた)が風貌も声もピッタリである(そのまんまで行ける!)。一方少女役の方は役にピシャリであったが。

    水道水を飲みに来る男は春日野に「女」を自覚させる男だがその接触の瞬間までは、「奇妙だけど居てもいい」程度の存在として背景色に馴染む案配でありたい、と願望する。何しろ奥行の無い舞台ではその雰囲気が出ない。焼け跡の時代を引き摺って登場し、そこにその時代を居座らせる水飲み男を周囲が扱い切れないのは、彼らも何処かにまだ戦争の記憶を止めているから。

    しかしこれがどうにか少女仮面の舞台になっていたのは若村という女優のオーラの賜物だろうか。宝塚を極点とするスターシステムの花舞台を春日野は夢うつつに生きており、それがこの「少女仮面」という舞台を背負う若村女史の姿に重なる。その図がくっきりと表れるのはカーテンコール。演じた若村真由美がというより春日野が憑依した若村、が挨拶をする、これにより舞台が閉じたように思った。
    作り物だと揶揄されれば作り物は作り物に居直り、睨み返すのみ、か。
  • 満足度★★★

    春日野八千代も甘粕大尉も50年前の人々にはなじみがあったのだろう。私は甘粕には興味があるものの春日野のことはまったく知らない。そして興味がある方の甘粕はただのアイテム扱いである。そういうわけでストーリーに入って行くことが困難であった。じっくり思い返してみてもあれのどこを楽しめば良いのかまるで分からない。
    まあしかし、唐十郎作品なのだから大きなストーリーが分からなくても歌やダンスで楽しむことができるだろうと期待したが少人数の短く地味なものではまるで盛り上がらない。
    唯一、木崎ゆりあさんの眩しいばかりの若さは大いに楽しむことができた。それはテーマの一部が私にも伝わったということなのだろう。

  • 満足度★★★★

    若村麻由美がとにかくすごかった。真っ白な羽根飾りを背負った宝塚男役スターにして、「嵐が丘」のヒースクリフという愛の亡霊であり、ファンたちの夢にすべてを奪われた肉体の乞食。その上、「男」を装いながら「女」の性に縛られ、満州の満鉄病院で生理の血を流し、怪物・甘粕大尉と出会った歴史的存在。論理を超えた情念と怨念を全身から撒き散らす、鬼気迫る演技だった。

    戯曲は有名で読んでいたが、舞台を見たのは初めてだった。なので、ほかの舞台との比較はできないが、70年代の伝説を作った頃と違って、客席の反応がクールなのは仕方がないだろう。前半のタップダンスや歌やギャグで、もっと拍手や歓声で盛り上がってもいいのだけれど。でも、水道男が「(喉がこんなに乾くのは)焼け跡とぎらつく太陽のせい」と言って以降、若村演じる春日野が旧満州へと飛躍するクライマックスは、舞台に釘付けにさせられた。終演後のカーテンコールの拍手は非常に盛大だった。アフタートークがあるので、カテコは二回だったけれど。

    若村麻由美の話すセリフがによって、その場にない満州がぱっと立ち上がってくる。唐十郎の言葉の詩的イメージ喚起力をまざまざと感じることができた。

    ネタバレBOX

    途中の腹話術師のエピソードはどういう意味があるか。腹話術師の妻が、堕胎が原因で狂気に落ち込んでいく話が、春日野が生理の血と満州の「血」が結びついて別世界に入っていく展開と重なるのだろうか。

    公演パンフにある扇田昭彦の文章では、腹話術師が人形に声を奪われる関係が、春日野がファンに肉体を奪われる関係に重なると書いてあった。たしかにそれも一つの解釈。ただし、ファンは結局、春日野から「幻」をもらただけで、肉体など奪っていなかったというラストになる。その点では腹話術師の話とは重ならないズレがある。一義的な解釈にハマりきらないズレと猥雑さが、この戯曲の生命力であろう。

    さらに公演パンフを読んでいると、木崎ゆりあ(貝)が、腹話術師と人形は、春日野と貝の関係に近いものを感じたと言っている。武谷公雄も、春日野が貝に稽古をつけていたのに、逆に「へへへ」という貝の笑いで役を奪われ、逆に支配される瞬間に注目していた。なるほど、こちらの解釈の方がよくわかる。もちろん、扇田昭彦の解釈や私の思いつきも包み込むところが、唐十郎の戯曲の奥深さである。
  • 若村麻由美さんが素晴らしかった…ずっと目が釘付け。泣いた。大西多摩恵さんも好き。人形と代々可能な人間、愛の亡霊、肉体の奴隷…個人的に苦手なはずのキーワードもしっかり受け取れた心地。満州鉄道病院、焼夷弾の雨なども肌身に感じ取れた気がする。

  • 満足度★★★★

    つくづく、芝居は生のもの、今の一瞬を逃れられないものだと思う。同時に、遂に、あの唐十郎も、ひとり戯曲だけで演劇の大海に漕ぎ出した、いや漕ぎ出さざるを得なくなった、という時代の変遷への感懐がある。
    唐十郎が、半世紀前鈴木忠志の求めで早稲田小劇場のために書いた岸田戯曲賞受賞の戯曲「少女仮面」を、今注目の若い演出家・杉原邦生が演出する。時代はヒトめぐりした。
    今、日本の演劇界では、唐の大きな影響を受けて蜷川や野田がひらいた演劇が隆盛を極め、小劇場では、ほとんどの本がその驥尾に付している。唐の登場は大きな衝撃だった。もちろん、パンフレットに採録されているように、その時代のリアリズム至上の演劇界との大きな軋轢もあった。改めて読むと懐かしい、笑えてしまう混乱と混沌を乗り越えて、今の日本の現代演劇は自由に時代のリアルを追求するようになった。唐は十分に役割を果たした。
    いまさら、杉原がこの戯曲を上演することに意味があるのだろうか。
    今風に整理された舞台の愛の亡霊も、肉体の乞食も、すでに形骸化してしまった春日野八千代にも、かつて我々が親しんできた唐の「高級な西洋の芸術論」と「猥雑な日本の下町の現実」との奇妙な夢想や混淆の匂いはない。舞台の上にいるのは、唐の名前など知らず、ましてや戯曲など読んだこともないまぎれもなく今の健康な俳優たちであり、たぶん、背景音楽で始終流れる「悲しい天使」も。ウロ覚えの懐メロ以上のものではないだろう。だが、そこには唐の描いた愛も肉体も不条理な存在のまま、確かに、生きている。
    それがかつての唐演劇とは別物であったとしても、いまやってみる意味はあった。今度の上演は、演出者本人が志したかどうかはわからないが、非常に論理的でよくわかった。かつての唐演劇の俳優の肉体と情念を強調する中に隠れていた戯曲の構造がよく見えてきた。同時代の寺山修司、鈴木忠志、などに比べて、わかりにくいとされた唐の戯曲は、こんなにもわかりやすいものだったのか。その一点からも今後も上演が続けられるだろう。
    杉原邦生の演出は、過去の上演をなぞったり、媚びたりすることなく、今、現在を生きる芝居の生命を追求しており、その姿勢は颯爽としていてなかなか良かった。二年前の、福原充則が演出した「秘密の花園」が、惨憺たる上演であった記憶を払拭する新しい世代の「おりこうさん」ぶりである。俳優はよくその任を果たしていたが、大西多摩恵はキャスティング・エラーではないだろうか。せっかくうまい人なのに。力量を発揮していない。
    唐の演劇がこういう新しい形で上演されるのは、唐スタイルに長く親しんできた観客にとっては寂しさも感じる出来事だが、そこが生でなければならない演劇の面白さなのだ。

    ネタバレBOX

    せっかく充実した公演なのに、入りは8分。唐のテントが低料金だったところは受け継いでほしいところだ。

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  1. これは今回の杉原邦生演出版「少女仮面」の劇評ではなく、唐十郎さんの「少女仮面」の戯曲解釈を載せているM.A.C(ミサワ・アクターズ・カンパニー)のページ。一見非論理的でありながら論理的であるとの指摘。興味深い。 唐十郎「少女仮面… https://t.co/npr9NYZt3H

    約4年前

  2. シアタートラムついた。クニオ演出唐十郎『少女仮面』を観る。なぜか『少女仮面』対決となっている今月、まずは若松麻由美春日野。\( 'ω')/

    約4年前

  3. 杉原邦生演出、若村麻由美主演 唐十郎「少女仮面」 懐かしい愛おしい唐十郎の台詞が怒濤のように胸に迫る‼️ 若村麻由美の春日野はギラギラと輝いたかと思うと弱々しく泣きすがる‼️ アングラを知らない若手の木﨑ゆりあ、井澤勇貴、水瀬慧人… https://t.co/VlAk0yFAlK

    約4年前

  4. 唐十郎『少女仮面』を観賞。凄い傑作! いかにもチープなアングラ劇の仕立てながら、きわめて芸術性が高くシュールな感じに溢れています。宝塚の男装スターが女優として成功する代りに自分の肉体を失う話で、肉体の不条理性から美が立ち上がります… https://t.co/DBuh7KNuPm

    約4年前

  5. シアタートラムで邦生さん演出、唐十郎「少女仮面」観た。キノカブ四谷怪談で鷺を演じた森田さんが腹話術の人形だった。気持ち悪かった(誉めてる)。人形やれるって凄過ぎる。そして、若村真由美さんのヅカが格好良くて本物の宝塚を観たくなってしまったw。

    約4年前

  6. 今夜はシアタートラムにて、トライストーン・パブリッシング『少女仮面』(作:唐十郎、演出+美術:杉原邦生)。『少女仮面』競作、トップバッターは若村麻由美さん。 https://t.co/bLUT4jFtwk #theatre2020

    約4年前

  7. これから、唐十郎・作、杉原邦生演出、若村麻由美主演、トライストーン・エンタテイメント『少女仮面』@三軒茶屋・シアタートラム。李麗仙主演の新宿梁山泊公演@ザ・スズナリを観たことはあるが、他の公演は初観劇。 https://t.co/uiYc5EQ215 #少女仮面 #シアタートラム

    約4年前

  8. トライストーン・エンタテイメント『少女仮面』(杉原邦生演出)@シアタートラム - 中西理の下北沢通信 https://t.co/giPAqxw7Yl

    約4年前

  9. トライストーン・エンタテイメント『少女仮面』(杉原邦生演出)@シアタートラム - 中西理の下北沢通信 https://t.co/giPAqxewzL

    約4年前

  10. シアタートラムで唐十郎「少女仮面」の初日。杉原邦生の演出は、若々しくミニマリスティックで精緻な脚本を際立たせ、若村麻由美の春日野は、一幕花道からの登場で客席を完全に支配していた。永遠の名作。 https://t.co/qJuiDHLi0U #唐十郎 #少女仮面 #若村麻由美

    約4年前

  11. 宝塚歌劇団のスター女優に憧れる少女が、「肉体」という妙な名の喫茶店を訪れることからはじまる奇想天外な物語。岸田國士戯曲賞を受賞した唐十郎の代表作。〜唐十郎『少女仮面』〜

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  12. カヅラカタ歌劇団出身の鳥居留圭君が将来、唐十郎「少女仮面」や、清水邦夫「雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた」、寺山修司「星の王子様」に出演する可能性がなくはないわけだ。

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    4年以上前

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