グランプリ発表
審査のポイント
審査員が第一次審査を通過した10作品を、日本各地の上演会場へ伺って審査し、最終審査会議においてグランプリの1作品、準グランプリの1作品、俳優賞6名を決定しました。
■審査基準
最終審査対象となった10作品について下記の6項目を[5段階]で評価し、審査員5名の採点を合計して平均値を算出しました。
1 | 脚本 (歌詞・テキスト) | |
---|---|---|
2 | 演出 | |
3 | 出演者 | |
4 | スタッフワーク(美術・照明・音響・衣装など) | |
5 | 制作・運営 | |
6 | 家族・恋人・友人同伴のお薦め度 |
■審査の流れ
審査員各自がグランプリに推薦したい3作品に投票し、それぞれの推薦理由を述べました。複数票を獲得した4作品について議論を始め、まずは4票を集めた作品がグランプリに決定しました。残った3作品から準グランプリを選ぼうとしたところ、議論が膠着したため、準グランプリに推薦したい作品について改めて、各審査員が1票ずつ投票し直しました。
グランプリを除く9作品の中から新たに選ばれた3作品もまた、ジャンル、作風、方向性、目指す完成度などが異なり、同じ俎上に載せて比較することが困難であるという意見が出ました。そのため、CoRich舞台芸術まつり!のグランプリ、準グランプリ審査の目的を問い直すことになりました。
グランプリは受賞作が2年以内に再演されるため、作品そのものの品質や団体の継続性などが重要な論点となります。翻って準グランプリについては、論点を作品、団体に偏らせず、より多角的に話し合うことにしました。作品の主たる創作者(劇作家・振付家・演出家・主演俳優など)の将来性、団体構成員の魅力と集団としての強度、団体が目指す観客および社会との関係性などについて議論を重ねた末に、多数決で準グランプリが選ばれました。
その後、俳優賞の選考に入りました。審査員各自が10作品すべての出演者の中で、特に強く印象に残った俳優・ダンサーを1~9名挙げ、支持する理由をそれぞれに述べました。男性と女性の人数のバランスを取ることもふまえ、のべ13名の中から計6名を選出しました。全ての審査が終了した時には、約3時間が経過していました。
グランプリ作品・団体について
落 雅季子 | 脚本の構成力はもちろん、所属俳優である小野寺ずるさん、日高ボブ美さんの持つ身体やキャラクターを演出家が“使いこなして”いること、アフターイベントの企画力や制作面の細やかさなど、全体としてレベルが高かったと思います。作家自身の中学時代の「思い出」がモチーフになっているようでありながら、安易で快い「記憶の反芻」に留まらない、客観的な創作意欲にあふれた作品でした。本作から感じられた「物語」の熱量は「もし、あの時自分がこうしていたら」という、人間の想像力の原点である問い掛けから発せられています。そうやって分岐した過去が自分の中で暴走する時、人間模様はドラマティックな渦を描き出すことがあるからです。これからも主宰の山田佳奈さんには、そうした「物語の力」で観客の心を残酷に撫で上げてほしい。今作の再演も、今後の作品も楽しみにしています。 |
---|---|
鈴木 理映子 |
□字ック『荒川、神キラーチューン』は、葬り去ったはずの汗臭く、青臭い青春をふたたび体験させられる、本当に臭い作品です。「あんな匂いは私とは関係ない」と言いたいのが人情ですが、本当に強い大人になるには、ふたたびあのカラオケボックスの匂い=忘れ物と対峙しなくてはならないこともあるでしょう。本作を貫く青春観は、思いのほかリアルで身近なものでした。主演の小野寺ずるさんはじめ、激しさと寂しさを同時に体現する俳優たちの姿にも圧倒されました。 受賞、おめでとうございます。ますますのご活躍を願っています。多少乱暴なところもあるけれど、そんなところもカワイイ、ロック少女なカンパニーでいてください。 |
高野 しのぶ | □字ック主宰の山田佳奈さんと初めてお会いしたのは2013年の冬。「音楽フェスのような演劇イベント“鬼FES”を主催します」と自己紹介をしてくださった時です。今回の応募団体に□字ックの名前を見つけた時、快活で礼儀正しい女性の顔がすぐに浮かびました。『荒川、神キラーチューン』は山田さんの成熟したサービス精神と、やんちゃな音楽愛が溢れんばかりに発揮された娯楽演劇でした。16ステージのロングランという小劇場演劇の世界では大規模な公演を成功させた、同劇団の集団としての実力も評価されました。 |
橘 康仁 | 最終審査に残った10作品の中では、エンターテイメント性が高く、総合力で優れていたと思います。物語としてのひっぱり、解決感に関しては、若干物足りない感もありましたが、序盤から勢いやテンポの良さで飽きずに最後まで見ることができました。シナリオというよりは、演出や出演者の演技力が光ったと思います。他の作品は、どちらかというと演出家が自分の枠にはめていっている印象がありましたが、この作品は演出家と役者が出し合って作り上げている感が強かったというか、演出家には演出家の見せ場が、出演者には出演者の見せ場があった気がします。誰かの突出した才能というより、スタッフ、キャスト一人ひとりの役割が重なって、相乗効果が生まれたそのチーム力に拍手を送りたいです。 |
手塚 宏二 |
□字ックという団体をそのスタート直後から観ている人間にとって今回のグランプリ受賞は嬉しくてたまりません。山田さん心からおめでとう!正直、今回のまつりの最終選考団体に□字ックが選ばれたとき、世間の評価はダークホースという位置づけだったのではないでしょうか。 しかし、今回の作品は、圧倒的なパワーと際立つ存在感で観客を釘付けにしました。作品そのものからほとばしるエネルギーがあって、それが言葉でも音楽でもなくストレートに伝わってくるというところに山田佳奈さんの真骨頂があると思いました。 まさに山田佳奈さんの集大成でしたし、他の人にも是非見てもらいたいと思う作品に仕上がっていました。 小野寺ずるさん、日高ボブ美さん、名前さえも意表をついた劇団所属の個性派女優陣が今回の作品で見事に花開きました。また他の役者もそれぞれ個性的で魅力的でした。 □字ックという団体がどこにもない新しいものを生み出しつつあるということに大いに注目したいと思います。 |
※□字ックには、本日より2年以内に『荒川、神キラーチューン』の再演を実施していただきます。
再演時はCoRich舞台芸術!にて広報協力をいたします。
バナー掲出期間:2014年末までに初日を迎える次回公演の、初日1週間前から千秋楽まで(最長3週間)。
CoRichチケット!のチラシ広告(20日間)も同公演にてご利用ください。
※審査員がグランプリに推薦したい3作品を投票し、複数票を獲得した4作品はこちらです。
(上演順)
・笑の内閣『ツレがウヨになりまして』
・あやめ十八番『江戸系 諏訪御寮』
・□字ック『荒川、神キラーチューン』
・Baobab『TERAMACHI』
※審査員がグランプリを除く9作品から、準グランプリに推薦したい1作品を投票し、複数票を獲得した3作品はこちらです。
(上演順)
・笑の内閣『ツレがウヨになりまして』
・鳥公園『緑子の部屋』
・Baobab『TERAMACHI』
各団体の採点
■俳優賞(あいうえお順・敬称略)
俳優賞を受賞されたのは6名の方々です。
おめでとうございます! (あいうえお順・敬称略)
- 浅井浩介 (鳥公園『緑子の部屋』に出演)
- 審査員より(落)
わっしょいハウス所属の浅井浩介さんは、今回、鳥公園への客演での受賞となりました。彼はふわりと空気に溶け込むようでいて、しかしそこに鮮烈な残像を見せることの出来る、やわらかさと鋭さを兼ね備えています。ナチュラルであると同時に、リアルな「人間的語り口」のノイズを持っている人なのです。『緑子の部屋』では、居なくなった緑子の元恋人として、観客を彼女の「不在」に惹きつけていく確かな存在感が印象的でした。 - 岡本優 (Baobab『TERAMACHI』に出演)
- 審査員より(鈴木)
作品の世界にいったん寄り添い、同化したように見せつつ、気づけばグングンと存在感を増す岡本さん。そこには、単にエモーショナルに自らの内面を押し出すのとは異なる魅力、気持ちよさ、共感性がありました。ツンとすましたようで、動き出せばエネルギッシュかつ柔軟でユーモアもたっぷり。冒頭の「劇場にやってきたオバさま二人」の演技も存分に楽しませていただきました。 - 小熊ヒデジ (劇団B級遊撃隊『ぬけがら』に出演)
- 審査員より(高野)
幕が開くなり、ハンガーに力なくぶら下がる浴衣姿のおじいさんに目が釘づけになりました。小熊ヒデジさんが演じたのは認知症の80代男性。予想外の反応と言動が微笑ましく、大人用紙おむつから伸びる細い素足からも、愛嬌がにじみ出ていました。不敵な薄ら笑いの奥には、勇気に裏付けられた包容力が潜んでいます。自分を徹底的に晒して、全身で他者を受け入れようとする姿勢が、愛される理由だと思います。 - 小野寺ずる (□字ック『荒川、神キラーチューン』に出演)
- 審査員より(手塚)
今回観た全ての俳優の中で、私としては圧倒的に小野寺ずるさんが印象に残りました。自虐的な役を演じたら彼女に勝る女優はいないのではないでしょうか。
私は元々小野寺ずるさんはただものではないと思っていたのですが、今回の作品で、大女優としての一歩を踏み出したと感じました。あれだけ負のオーラをまき散らす女優はいません。その負のオーラが最近、磨かれて美しくなってきました。これぞ山田佳奈マジックだと感じました。
存在感というのが俳優の一番の生命線だとしたら、彼女ほど存在感を感じさせる女優はいません。そのずるさんがあの役と出会って見事に化学変化しました。新しい時代のヒロイン誕生と作品を観ながら感じました。
- 金子侑加 (あやめ十八番『江戸系 諏訪御寮』に出演)
- 審査員より(橘)
この作品が初見で、かつ今回の役は作りこまれたキャラクターだったので、素がどんな人かも、普段どういう演技をする女優さんかも分かりませんでしたが、とても印象に残るキャラクターを、品ある方向でうまく作り上げていたと思います。
- 平塚直隆 (劇団B級遊撃隊『ぬけがら』に出演)
- 審査員より(高野)
平塚直隆さんが演じた『ぬけがら』の主人公は、気は優しいが優柔不断なダメ男。自業自得で平凡な人生から転落した不幸な人物ですが、ボロ雑巾のようになっても悲壮感が漂い過ぎることがなく、無責任に愚痴って甘えても不興を買いません。それどころか観客の共感を呼ぶ愛らしいキャラクターとして、お芝居を最初から最後まで引っ張っていました。平塚さんがご自身を笑いの対象にするのが巧みなのは、人間を憂いながら、大らかに見つめる目があるからだと思います。
審査を終えて
落 雅季子 |
実現しようとしている世界観、そこに表れる作家・演出家の価値観の異なる作品について、それぞれ評価をおこなう難しさを実感した審査でした。10作品の中から、順位をつけてグランプリ、準グランプリを選ぶという意味について非常に考えさせられましたし、そのために長い議論が尽くされました。結果としては、「公演としての総合力」を評価するということで、□字ックと笑の内閣の受賞が決まりました。劇団ごとの作家性(そういうものが仮にあるとしてですが)、将来的な継続性、軸のブレなさということまで考え抜き、単純な点数だけではなく、全員で答えを出したことは私にとっても大変重要な経験だったように思います。 私は、グランプリのための三票を、□字ック、あやめ十八番、鳥公園に投じました。その後、準グランプリについて再度投票をおこなうことになりましたが、そこでは鳥公園に入れました。挑もうとしている問題の大きさ、抽象度が高まることによって上がる難易度にも、ひるむことなく臨む手つきが感じられたからでした。 最終の10作品には残らなかったものの、気になった作品には出来る限り足を運びました。中でも青年団若手自主企画の河村企画は緻密でシニカルで、不気味な後味が素晴らしいものでした。AnKも、若い物語作家の格闘の痕跡を感じさせ、それでいて甘ずっぱく爽やかな空気もある、これから先も楽しみなカンパニーでした。 |
---|---|
鈴木 理映子 |
舞台芸術の魅力とは、効用とは何か。その答えの幅の広いことといったら! 作品一つひとつの評価だけでなく、「CoRich舞台芸術まつり!」として、これからの舞台芸術にどんな夢を描くか、どんなメッセージを残すか、悩みに悩んだ審査会でした。 グランプリ推薦票は、□字ック、笑の内閣、Baobabの3団体に投じました。泥臭いロック魂とエンターテインメント性を併せ持った□字ックの舞台の完成度と熱量には、多くの票が集まり、まさに「勢い」を感じさせる勝利となりました。 一方、準グランプリについての議論はかなり膠着しました。娯楽と芸術表現の間を行き来しながら、観客を日常の中の異世界に引き込むBaobab『TARAMACHI』には、大きな「発展の可能性」を感じました。彼らの受賞がCoRich舞台芸術まつり!ではあまり注目されることのなかった、ダンスへの関心を高める結果になればという気持ちもあり、推薦を決めました。また、笑の内閣『ツレがウヨになりまして』では、前説・アフタートークを含めた公演自体の構成、それに取り組む姿勢に強く惹かれました。ライトな笑いをまぶしつつ、多様な視点から社会的課題を見せようとする公演づくりに、昨今の小劇場にはない観客との関係性の模索があったように思います。なお、審査会では、鳥公園『緑子の部屋』についても、準グランプリ候補として、多くの議論の時間が割かれました。知的な視点・設計がやがて生理を揺るがす違和感を導く『緑子の部屋』には、確かに演劇でしか味わえない奇妙で、特別な時間が流れていました。 結局、長い議論と数度の投票の末、準グランプリは笑の内閣に決定しました。作品評価だけでは高得点とはいえませんでしたが、粗削りでも誠実に「上演」を社会に開く姿勢とそこに生まれる熱気が審査員を動かしたのではないでしょうか。 それにしても難しい審査会でした。娯楽性重視か芸術性重視か、社会性はどのように評価されるべきか、コンテンポラリーダンスにおける実験性と娯楽性のバランス、ベテランの洗練と若手の可能性……さまざまな軸が浮かび上がり、議論されました。思えばあの長い膠着状態こそが、舞台芸術の多様な可能性の証であったのかもしれません。その可能性に大いに気づかせてくれた、10団体・10作品に敬意を表します。 |
高野 しのぶ |
グランプリには私自身が「再演を観たい」「再演を機にさらに作品が育って欲しい」「より幅広い層の観客に届いて欲しい」と思った3作品を推薦しました。上演順に劇団印象-indian elephant-『グローバル・ベイビー・ファクトリー Global Baby Factory』、Baobab『TERAMACHI』、劇団B級遊撃隊『ぬけがら』です。 ストレート・プレイの2本は脚本の魅力に依るところが大きいです。戯曲が“テキスト”と呼ばれて作品の一素材として扱われることが多くなっていますが、戯曲が作品の核たる要素として揺るがず、座組みの道標として存在を示し続けるような小劇場作品にもっと出会いたいです。 準グランプリ選出のために改めて投票し直したのは、このフェスティバルが始まって以来初めてのことでした。社会問題を真正面から取り上げるドタバタ喜劇で、世の中と直接的に接点を持とうとしている笑の内閣を推しました。書籍『福島第一原発観光地化計画』の舞台化が楽しみです。 私が俳優賞に推薦した6人の中で、残念ながら受賞に届かなかったのは小山萌子さん(劇団印象『グローバル・ベイビー・ファクトリー』に出演)と吉岡紗良さん(Q『迷迷Q』に出演)。俳優の仕事を評価する賞が少ないという声を多く耳にしてきましたので、「観てきた!」クチコミでもなるべく言及するようにしました。 グランプリ選考期間にちょうど2012年度のグランプリ受賞作(FUKAIPRODUCE『耳のトンネル』)の再演があり、私個人としてはCoRich舞台芸術まつり!の継続の意義が再確認できました。今回のグランプリ受賞作も太く、大きく育って欲しいと思います。 |
橘 康仁 |
審査員として初参加の今年、ストレートプレイから、アートよりのものやダンスで構成されたものなど、色々なタイプの作品を通じて刺激をもらいました。その中で、テレビの世界にいる自分としては、「エンターテイメント」という視点にこだわり、観客へのサービス精神というか、飽きずにその時間が楽しめるもの、その上でテーマ性や気づきもあるものを評価していきました。 その意味では、全体的に“つかみ”や“ひっぱり”に欠けるものが多かった印象です。テレビとは違い「基本、最後まで見てくれる」というのは舞台の“強み”ではありますが、だからこそ「最後まで見たくなるものであるか」の検証、チラシや劇場空間の整備を含めて、絶えまぬ努力と工夫がもっともっと欲しかったです。最終的に残った作品は、そういう意味での評価が相対的に高かったものだと思いますが、あくまで相対的なものでした。まだ横並び一線というか、3年後にはわからない、そんな世界だと思いますし、皆さんの飛躍に期待しています。 |
手塚 宏二 |
私はグランプリには□字ック・あやめ十八番・笑の内閣を押しました。選考基準としては、CoRich舞台芸術!内の評価を参考に最終的には「この団体・この作品にグランプリを与える意義」という視点で投票しました。 今回は10団体とも粒ぞろいで、どの団体も期待はずれという作品がありませんでした。ただ、どの作品も「再演を繰り返して後世に残したいという作品」という観点では、決め手に欠けました。 その中で□字ックは新しい演劇のスタイルを生み出してくれるのではという期待を抱かせる団体でした。 劇団B級遊撃隊はさすがの面白さでした。個性的な俳優が次から次へと現れ、魅力的な俳優にしびれました。笑の内閣は高間響さんの人間としての面白みが芝居の中に凝縮されていて、これからどこへ行くのか楽しみでなりません。On7は新劇の若手女優陣が劇団を超えて集まるという新しい試みで、そのパワーと面白い作品を創造しようというエネルギーを随所に感じました。あやめ十八番は堀越涼さんという魅力のある俳優が、自分の才能を余すところなく見せつけるというような作品で、個人的にはとても好きな部類の作品でした。 あらためて、世の中には面白い芝居があふれているぞ!と感じさせてくれるまつりになりました。今まで演劇を敬遠していた人たちも是非、劇場に行きましょう。『CoRich舞台芸術まつり!2014春』に参加していただいた全ての団体、観客の皆さん、CoRich舞台芸術!をご利用いただいている全ての方、そして審査におつきあいいただいた審査員の皆さんに心から感謝します。どうもありがとうございました。 |
たくさんのご応募をお待ちしております!