住み込みの女の観てきた!クチコミ一覧

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私たちは何も知らない

私たちは何も知らない

ニ兎社

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2019/11/29 (金) ~ 2019/12/22 (日)公演終了

満足度★★★

ネタバレ

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二兎社の『私たちは何も知らない』を観劇。

『ザ・空気』シリーズでは、世間が周りに気を使い過ぎ、個人の意見が何も言えない現代の風潮を風刺した作品から一転、明治時代に、正々堂々と、社会に向けて、主義主張をした平塚明(らいてい)達が、青鞜社という婦人雑誌社を立ち上げた話である。
この手の作品にありがちな、個人vs社会の構図にはならず、恋愛、不倫、妊娠、雑誌社の台所事情など、個人事情を多いに踏まえてながら女性たちを描いているからか、非常に登場人物たちの生き方に共鳴する事が出来、そして彼女たちを通して、当時の社会を見る事が出来る様になっている。
そして令和と明治で、『これほどまでに我々は変わってしまったのか?』と改めて認識させてくれる作品でもある。
 新版 オグリ

新版 オグリ

松竹

新橋演舞場(東京都)

2019/10/06 (日) ~ 2019/11/25 (月)公演終了

満足度★★★★

ネタバレ

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スーパー歌舞伎(セカンド)の『新版・オグリ』を観劇。

市川猿翁のスーパー歌舞伎シリーズはほぼ観尽くしたが、
市川猿之助になってからは、今作で三作目。
既に猿翁が今作を作っているので、今作は新版という事で、戯曲を一新したようだ。(共同演出に、木ノ下歌舞伎の杉原邦生が関わっているのは見逃せない)。

このスーパー歌舞伎シリーズは、内容、キャラクター、派手な舞、激しいアクションなど、舞台で出来るあらゆる限りをやり尽くしている。
更に物語とキャラクターも深く掘り下げていて、それを演じる俳優が全員上手いので、もう大満足である。
そして今作は舞台を三次元的に捉え、映像、照明、フライング、マッピングなど最先端の技術は使われているので、楽しいのなんのと言う事なしである。
そしてそんな最新技術の応用ばかりに目が行きがちだが、実は猿翁版と比較してみると、大事なシーンの芝居の箇所にはかなり時間を割いていて、効果音や技術などを一切用いずに、直級勝負で、シェイクスピアでも観ているのではないか?と思わせる程、丁寧に描いている。
流石に猿翁もここまでは拘っていなかっただけに、完成度の高さには圧倒される。
猿翁版を含め、今までのスーパー歌舞伎の中で、今作が最高傑作ではないかと思う。

かなりお勧めだが、残念ながら、明日で千秋楽だ。
終わりのない

終わりのない

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2019/10/29 (火) ~ 2019/11/17 (日)公演終了

満足度★★★★

ネタばれ

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イキウメの『終わりのない』を観劇。

家族と友人と一緒に湖畔にキャンプにきた少年・悠理が湖で溺れる。
そして気がつくと1000年後の世界に居て、そこは宇宙船の中だ。
温暖化によって地球が滅び、富裕層のみ生き長らえて、次なる住まいの惑星を探している。
そしてそれに愕然とし、宇宙空間に逃げ出した悠里は、今度は人類が神によって作られたばかりの惑星にいる。
そして再び現在の地球に戻って来るのだが…。

量子力学、世界温暖化への危機、そして少年が自我に目覚めいく話である。

今までの「奇ッ怪シリーズ」は、日本古来の話で、「昔ばなし」という馴染み易い言葉がキーワードであり、それによってすんなり嘘の世界に入って行く事が出来た。
だが今作は、想像がつかない未来、人類が生まれたばかりの惑星、と想像すら出来ない世界にどの様に誘っていくのかと思いきや、「量子論」という言葉をキーワードに、その論理を解りやすく噛み砕きながら、「これから必ず起こるであろう出来事」とし、その異世界にすんなり入って行けるのである。
何気ない日常の隙間から異世界に誘うのがイキウメの旨さだが、今作は論理を応用して、いつも通りに我々を異世界に連れて行ってくれたのである。

見事である!
ビニールの城

ビニールの城

劇団唐組

猿楽通り沿い特設紅テント(東京都)

2019/10/05 (土) ~ 2019/10/13 (日)公演終了

満足度★★★★

ネタばれ

ネタバレBOX

唐組の『ビニールの城』を観劇。

今作は1985年に、唐十郎が「第七病棟」に書き下ろした伝説的な作品。
閉館した浅草常盤座での公演を観たのは、もうかれこれ34年前だ。

記憶は定かではないが、「第七病棟」の公演では、ビニールの城に閉じ込められたモモ(緑魔子)側から濃く描かれていたが、今回では腹話術師・朝顔の煮え切らない女性への男の弱さ前面に出している。

今作は「第七病棟」の為に書かれている戯曲なので、モモは緑魔子が演じるのが前提で、女性からの男性への強烈な愛のアプローチが主で、行動的で、直接的だ。
だが今作では、あの緑魔子はいない。
その代わりを演じた藤井由紀にもの足りなさを感じてしまったのは、彼女の役不足ではなく、演出の狙いで、女性側からではなく、男性側から描いた点だ。
石橋蓮司の演出と比較してはいけないが、やはり当時と同じ様なものを求めるのは、観客としては必然である。
それはあまりにも傑作であったからだ。
それと同じ様な事を感じた「ふたり女」も同様だった。
(やはり唐十郎が第七病棟の為に書き下ろした戯曲で、後日、唐組が公演している)
ただ比較する事は別として、この戯曲を男性側から描く事には成功していて、大半の男性客は、朝顔に感情移入してしまい、出来の良さを保っている。
それに演出が久保井研に変わってから、男女の秘めた愛を、ロマンチックに描き、戯曲の奥深さを追求しているのは、唐十郎の頃とはまた違った、紅テントが観れている事は確かである。

今回は稲荷卓央が久しぶりに戻ってきたからか、この様な展開になっと思われるが、「第七病棟」への書き下ろし戯曲はまだまだあるので、緑魔子バージョンならず、藤井由紀バージョンを観たいと思うと、紅テントファンは思っているのである。
「笑顔の砦」RE-CREATION

「笑顔の砦」RE-CREATION

庭劇団ペニノ

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2019/09/19 (木) ~ 2019/09/23 (月)公演終了

満足度★★★★

ネタバレ

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庭劇団ペニノの『笑顔の砦』を観劇。

漁師の剛史は53歳ながら、仲間を従えて、笑いの絶えない楽しい日々を送っている。
そしてある日、隣に母親が認知症の男性が越してくる。互いに挨拶はするが、特に付き合いがあるわけではないが、隣の部屋の物音が聞こえてきて、何気なく、気になってしまう。
そしてある日、隣の家の認知症の母親を見かけた瞬間、剛史の中で何かが変わっていくのである……。

今作の見所は、セットが真っ二つに別れていて、左が剛史の部屋、右が認知症の母がいる男の部屋で、観客は同時に芝居を観ることが出来る。
だが登場人物たちは隣同士で、壁があり、互いの生活が見えず、隣から聞こえる物音でしか相手を理解する事が出来ない。観客は、常に両方が見えているからか、登場人物たちが知り得ない情報を知る事が出来、両家族の視点から見る事が出来るようになっている。普通なら、登場人物の見たもの、感じたものに追随していく形で、観客は感情移入していくが、今作は登場人物よりも沢山の情報を我々が得ているからか、観客の感情が先に揺れ動いてしまい、登場人物と観客の感じる箇所と時間に微妙にズレが生じていき、何とも言い難い、体験をしてしまうのである。

この劇団を毎回観る度に、とても奇妙な感覚に陥ってしまうが、生の舞台の無限の広がりを感じずにはいられないのである。
桜姫

桜姫

阿佐ヶ谷スパイダース

吉祥寺シアター(東京都)

2019/09/10 (火) ~ 2019/09/28 (土)公演終了

満足度★★★★

ネタバレ

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阿佐ヶ谷スパイダーズの『桜姫〜燃焦旋律隊殺於焼跡〜』を観劇。

以前に長塚圭史がコクーン歌舞伎に書き下ろしているが、今作はそれとは全く別物で、舞台は戦後の日本。
原作は鶴屋南北の歌舞伎『桜姫東文章』

同性愛者の岩井清玄は、愛する白菊と心中を試みるが、清玄は生き残り、白菊を失ってしまう。残ったのは白菊との思い出の光る玉のみである。
そして年老いた清玄は、戦争で身寄りのない子供達の為に、財産を寄付をしたりして、社会的地位を築いている。
そして孤児院の女性が清玄の前に現れる。その女性も光る玉を持っていて、清玄は白菊が蘇ったと感じてしまう。だがその女性は、家紋の入墨が、互いの同じ場所に入っている権助に運命を感じ、関係を持ってしまう。
そして清玄の家の前に赤ん坊が置かれ、それが清玄と女性との関係に疑われ、破滅に向かって行くのである。

鶴屋南北が原作だからか、荒唐無稽な話である。
上記の簡単な粗筋から、更に話が捻れ、各々の登場人物の悲惨な人生を描いている。
光る玉、家紋の入墨がどのように彼らの人生に絡んでくるかとワクワクさせながら、これこそが因果応報の物語だと思いきや、展開には一切関係させないのが長塚圭史の演劇である。当然それは意図であり、生きている上で、因果応報はなく、欲望の果ての結果に過ぎないと言っている。

観劇後の喜びはないが、観劇中に策略に嵌められて、喜びを与えてくれるのは、阿佐ヶ谷スパイダーズだけだろう。

さなぎの教室

さなぎの教室

オフィスコットーネ

駅前劇場(東京都)

2019/08/29 (木) ~ 2019/09/09 (月)公演終了

満足度★★★★

ネタばれ

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『さなぎの教室』を観劇。 

『夜、ナク、鳥』を改題して上演。
今作は2002年に福岡県久留米市で起きた、看護師による保険金殺人事件をモチーフにしている。

看護師になる為に実習を受けている仲の良い看護師志望の四人組。小難しい患者、慣れない注射など、大変ながらも皆で励ましあい頑張っている。
そして数年後、その四人は自ら学んだ医療知識を利用して、身内を殺害し、保険金を得ようと画策しているのである。
一人殺し、そしてまた殺し、皆がリーダー格のヨシダの言いなりになり、犯行を犯していく。
「彼女らは何故?そのような行為をするに至ったのか?」
「まるで弱みを握られているかのように、何故?ヨシダの言いなりになり、性行為すら強要されるのか?」
舞台では、ヨシダと看護師たちの歪んだ関係と、犯行計画が描かれ、「何故?」の疑問が、展開が進めば進むほど、湧き上がってくるのだが、その問いには答えようとせず、目を背けたくなるような人間関係をひたすらに描いていく。
そしてこの流れが終わりまで続くのだが、最後に回想で、看護師の夫を急性アルコール中毒で殺害している看護師四人の姿と実習をやっと終えた看護師四人の晴れ晴れとした姿を交互に見せられた瞬間、湧き上がってきた問の答えのようなものが一気に見え始めてきてしまうのである。
そして見え始めてきた後の余韻は果てしなく、重いのである。

傑作である。
糸井版 摂州合邦辻 せっしゅうがっぽうがつじ

糸井版 摂州合邦辻 せっしゅうがっぽうがつじ

木ノ下歌舞伎

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2019/03/14 (木) ~ 2019/03/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

歴史的傑作が誕生!
ネタバレ。

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木ノ下歌舞伎『摂州合邦辻』を観劇。

18歳の時に初めて観た状況劇場『住み込みの女』の興奮と震えは未だに忘れられない。
それから数々の演劇人からそのような興奮を受けたが、特に震えたのは、
第七病棟の『ふたりの女』
第三エロチカ『新宿八犬伝』
劇団・離風霊船『赤い鳥逃げた…』
蜷川カンパニー『95キログラムと97キログラムの間』
つかこうへい『飛龍伝』
NODA MAP『The Bee』
ポツドール『新・人間失活』
シルヴィギエム『ボレロ』(但しこれはバレエ)
など多数だ。
最近では平田オリザの現代口語演劇の影響からか、小劇場から、熱く、興奮させて、震えさせてくれる作品が少なくなっている。それは平田オリザが始めた現代口語演劇によって、バブル時代に始まった熱い小劇場シーンの流れをすっかり変えてしまったからだ。そんな僕も平田オリザに傾倒しているくらいだ。
だが、そんな最中、久しぶりに興奮と震えが翌日になっても未だに止まない歴史的傑作を目撃してしまったようである。毎作ごとにどれも完成度は高く、満足いく作品ばかりだが、今作は演出家・糸井幸之助と女優・内田慈の出会いによって出来上がった作品は、演劇鑑賞人生において、ベスト3に入る勢いだ。
妙ージカルというと称す変わったミュージカルを作る糸井幸之助が作る哀愁漂う歌とダンスナンバー、浄瑠璃作品の伝説的な話を昔か今か未来なのか分からない時代設定、そして内田慈の魔性と狂気をはらんだ変幻自在な芝居、もうこれは白石加代子と緑魔子と並ぶ名演だ。
これは
『鈴木忠志と白石加代子』
『石橋蓮司と緑魔子』
『野田秀樹とキャサリンハンター』
そして『糸井幸之助と内田慈』という感じだろう。
何が何でも絶対おすすめ!
と言いたいが、どうやら全くチケットは取れないらしく、関係者ですらも。
ただ当日券はあるみたいだが,,,,,。
ピルグリム2019

ピルグリム2019

サードステージ

シアターサンモール(東京都)

2019/02/22 (金) ~ 2019/03/10 (日)公演終了

満足度★★★★

ネタバレ

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鴻上尚史が率いる虚構の劇団の『ピルグリム2019』を
鑑賞。『第三舞台」時代の傑作芝居の再演。

作家として連載を打ち切られ、創作意欲が欠乏したした作家・六本木。
そこに編集者から新たなる提案を打ち明けられる。それは六本木の作風とは真逆な、現在を問うた、世界観を構築する内容であった。
そしてその作風に登場するピルグリムたちの旅が始まるのである。
六本木が書いている書斎と旅するピリグリムたちの姿が同時進行で、舞台は進行して行くのである……。

かなり昔の作品で、内容は現代に合わせて脚色されている。
時代と世の中の環境は変われども、人間が求めている心のオアシス存在はそれほど変わっていないようだ。
そして以前より人間関係がややこしくなっているのは間違いないが、それは便利さを追求すればするほど、比例するように失って行くものも大きく、人間の苦悩はいつの時代も変わらない。
第三舞台の頃と変わらない、軽妙で、明るく、楽しい舞台であり、観客の感激度は満点で、最強だ。
そして「これこそが小劇場の面白さだ!」と叫んでいる。
だが描き方は変わらずとも、野田秀樹同様、描かれる背景は非常に重く、20代の頃の鴻上尚史は、今ではそこにはいない。
夢の遊眠社と第三舞台、小劇場時代のトップを争った劇団であったが、描く世界の向かう先が、互いに正反対になっていたのは驚かされた。
『ソウル市民』『ソウル市民1919』

『ソウル市民』『ソウル市民1919』

青年団

こまばアゴラ劇場(東京都)

2018/10/14 (日) ~ 2018/11/11 (日)公演終了

満足度★★★★

ネタバレ

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青年団の『ソウル市民』と『ソウル市民1919』を観劇。

再演である。

『ソウル市民』
1909年、韓国は日本による植民地が進んでいる。
そこで文具店を営んでいる篠崎家の家では、韓国人をお手伝いさんとして
数人雇っているほど、豊かな生活を送っている。
そんな篠崎家では、様々な客人の来訪、息子や娘の将来、何もしていない書生たちが日がな一日、平和な日々を送っているのである……。

『ソウル市民1919』
1919年の韓国では、日本の植民地支配からの脱却の為に、抵抗運動が盛んである。だがそんな事すら知らない篠崎家では、何かのお祭りかと勘違いをしているようである。
そして3月1日、篠崎家で働いている韓国人のお手伝いさんが、急にいなくなってしまうのだが、篠崎家はこれまた日がな一日、平和な日々を送っているのである……。

人が人を支配している恐ろしい様子を描いている。
だが描かれるのは、支配している側からのみ描いていて、全く支配すらしていることすら感じない、想像力の欠如の人たちの日常だ。
それを口語演出で描いているからか、その恐怖を観客が掴み取ることの難易度の高い芝居になっているが、それを掴まなければ登場人物と同じように、観客自身が想像力欠如の人間になってしまうのである。

30年前に、現代口語演劇が幕を開けた、初めての芝居である。

14歳の国

14歳の国

早稲田小劇場どらま館×遊園地再生事業団

早稲田小劇場どらま館(東京都)

2018/09/14 (金) ~ 2018/10/01 (月)公演終了

満足度★★★★

ネタバレ

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遊園地再生事業団の『14歳の国』を観劇。

再演である。
ちなみに今作の劇場は、早稻田小劇場(現在はscot)が拠点にしていた劇場である。

1997年に神戸のニュータウンで起きた、14歳の少年が犯した事件が背景になっている。

生徒が体育の授業で校庭に出ている間、先生方は生徒の鞄の持ち物検査を承諾なしに行なっている。
それは事件以降、生徒がナイフを学校に持ち込んでいるかもしれない?と疑心暗鬼になっているからだ。
先生方はそれが疾しい事と分かっていながら、教育という倫理を持ち出し、己の行為を肯定しているのである。
そしてナイフは見つかるのだが、それを手にした先生方は、驚く行為に走ってしまうのである…..。  

舞台は教室で、生徒は一切出てこず、先生のみで行われる芝居である。
先生側から見た、いや大人側から見た事件に対する何故?の問いかけから始まっている。
だが先生方がナイフを手にした瞬間、その答えらしきものに観客が行き着いてしまうのである。
それが答えかどうかは明確には提示してはいないが、その少年と同じような状況になって初めて、
少年の心中が見えてくるのではないか?という終わりになっている。
事件が起こると原因ばかり探ることに躍起になってしまうが、それでは事の本質を捉えていることは出来ない、と作家は言っているようである。
MAKOTO

MAKOTO

阿佐ヶ谷スパイダース

吉祥寺シアター(東京都)

2018/08/09 (木) ~ 2018/08/20 (月)公演終了

満足度★★★★

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阿佐ヶ谷スパイダースの『MAKOTO』を観劇。

生まれつき心臓に穴が空いている水谷の妻が、穴を埋める手術を行うが、医療ミスにより亡くなってしまう。妻を失った水谷は、悲しみの穴を埋めようと躍起になるが、上手くいかない。
そして思い出に残している妻の洋服を、少しづつ燃やす事で、忘却の彼方へ行こうとした瞬間、とんでもない力を得てしまうのである。

全く先の読めない構成の羅列で、「忘却」をテーマに過大に掲げているのが注目すべき点である。
以前にイギリス留学から帰ってきて作った大傑作『荒野に立つ』に近い作品だ(自分の失った目玉を探す話)。
水谷の「忘却」だけを頼りに、意図的に構成をずらし、一切回収せず、誰が観ても首を傾げて、困惑すらしてしまう展開になっている。
そして鑑賞後、「この芝居は一体なんだったんだ?」と観客は嫌でも考えざる得ない状況に追い込むのが、長塚圭史の芝居の後味の良さであり、面白さでもあるが、昔の阿佐ヶ谷スパイダースのファンは、きっと絶望する作品でもあるのは間違いない。

新生、阿佐ヶ谷スパイダース、次回作も楽しみである!
ザ・空気 ver.2 誰も書いてはならぬ

ザ・空気 ver.2 誰も書いてはならぬ

ニ兎社

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2018/06/23 (土) ~ 2018/07/16 (月)公演終了

満足度★★★★

ネタバレ

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二兎社の『ザ・空気 ver2 誰も書いてはならぬ』を観劇。

前作が演劇界では話題になり、今作は続編。

ジャーナリストと政治家の癒着の話。

保守系大手新聞社の論説委員が、総理大臣に記者会見の質問内容を事前に漏らしてしまう。それを知った社員記者が内部告発をしようと、他社のリベラル系全国紙政治記者に相談する。
そしてそこにたまたま居合わせた弱小会社のネットジャーナリスも参戦して、総理大臣を追い詰めようとするが、大手新聞記者たちは会社からの圧力と己の保身により屈してしまう。
そして取り残されたネットジャーナリストは、事態を世間に広めようと孤軍奮闘するのである。
理想を持ったジャーナリストたちが、政治家を追い詰められないジレンマを描いているが、それは己の保身との戦いでもあるというのが、今作の見所である。
理想ばかり掲げるエリートの大手新聞記者が、結局は保身に走ってしまい、己の理想を成し遂げられなかった忸怩たる思いがあれば良いのだが、それすらない、いやその感性を意図的に脇においてしまうのが問題である。
今作はコメディー調のややふんわりした描き方とボカしながらもモリカケ問題を中心に描いているからか、見終えた後の余韻は長引きそうだ。

作品の出来も質も高く、一級品になっている。
そしてかなり面白い!
蛸入道 忘却ノ儀

蛸入道 忘却ノ儀

庭劇団ペニノ

森下スタジオ(東京都)

2018/06/28 (木) ~ 2018/07/01 (日)公演終了

満足度★★★★

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庭劇団ペニノの「蛸入道 忘却ノ儀」を観劇。

毎度ながら奇妙な世界に誘ってくれるが、今作は遥かに度が超えてしまったようだ。

今作は撮影スタジオでの観劇である。
スタジオの入り口で、教本と楽器を渡される。
そしてスタジオに入ると、そこは薄暗い寺の堂内のセットが組まれている(まるでセットに見えない)
そして演出家から蛸についての講義が始まり、8人の信者が登場し、太鼓の音と共に、お経を唱え始める。信者たちのがなり立てる楽器や踊りで、観客は蛸教の信者になったかのように覚醒させていき、終いには聖水まで飲まされ、一気に蛸教のお祈りが炸裂していくのである。演劇を観ているのではなく、宗教団体の一員になったのではないかと錯覚すらしてしまうのである。
もうこれは物語を通して語る演劇では成し得る事が出来がない、演出家・タニノタロウが考え出した、彼の世界観に没入させる新たなる手法といっても良いだろう。
そしてここで描いている蛸教は、何時ものタニノタロウの世界観だ。

果たしてこれは演劇か?と思うかもしれないが、そんな考えは邪道で、これもひとつの表現といえば表現で、あの寺山修司ですら考えつかない手法でもある。

だが、とてもお勧めは出来ない。
日本文学盛衰史

日本文学盛衰史

青年団

吉祥寺シアター(東京都)

2018/06/07 (木) ~ 2018/07/09 (月)公演終了

満足度★★★★

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平田オリザの新作『日本文学盛衰史』を観劇。

明治時代の有名作家の通夜の席での芝居。
一幕物だが、四場あり、全て通夜の場である。

毎回同じ面子が集まる通夜の席で、文豪達は新たなる文学の幕開けと
時代の不安感を感じながらも、故人に思いを寄せている。
いつもながらの永遠と続く会話劇で、通夜に集まっている人たちの会話の内容は、近況報告やら世間話ばかりだ。
場が何度変わっても、話のうねりはなく、まるで同じ場面を何度なく観せられている錯覚に陥る。だが毎回の場にうねりがなくても、時代背景が大きくうねっているのが見過ごせない点だ。
だから今作は、目の前で起きている出来事は、絶えず同じ物を永遠と観せられてはいるが、頭の中では、時代背景が絶えず忙しく動き回っている状態になっている。
そんな状況を2時間近く観せられていて、「何時もの如く、きっとこのままで終わるのだろうな?」
と思いきや、最後に全てを破壊してくれるのである。

いつもと違う平田オリザを存分に味わえるのである。

誰もが真似出来そうだと錯覚しそうな「平田オリザの現代口語演劇」は、
やはり本人しか作れないオリジナルだ。
吸血姫

吸血姫

劇団唐組

花園神社(東京都)

2018/05/05 (土) ~ 2018/06/10 (日)公演終了

満足度★★★

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唐組の『吸血姫』を観劇。

今作は「銀粉蝶」が客演しているのが大きな目玉だ。
過去では、「川村毅」以来の大物登場だ。

初っ端からいきなり舞台奥が開いたかと思うと、ステージに乗った銀粉蝶が登場だ。その姿はまるで李麗仙か緑魔子の幻影を見ているようでもある。その役どころも歌手デビューを目出している看護師で、前半は出ずっぱりながら、下劣で強烈な印象を残して行く。
しかし真のヒロインは引っ越し看護師・大鶴美仁音である。彼女と少年・肥後守のふたりが、関東大震災後の混乱最中、天職の探しの旅に出るのである。
混乱している社会背景に、大陸を股いでいく物語だが、話が進んで行かないのは毎度の事だ。
そして話の発端がなく、物語の無さに混乱をしながらも、その状況に投げ出されてしまった登場人物たちの葛藤が物語の軸となるのである。
そしてその葛藤と破茶滅茶な行動倫理も俳優のセリフと肉体を通すと、とても美しく、心地良い気分にさせてくれるのが、紅テントに通ってしまう秘密でもある。

だが今作の物語の混乱と登場人物の葛藤にはついていけず?という感じだった。
でも大鶴美仁音のヒロインはなかなかだ。
図書館的人生Vol.4 襲ってくるもの

図書館的人生Vol.4 襲ってくるもの

イキウメ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2018/05/15 (火) ~ 2018/06/03 (日)公演終了

満足度★★★★

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イキウメの『図書館的人生Vol.4 襲ってくるもの』を観劇。

今作は3つの短編で、時代設定が昔と未来ながら、僅かな箇所で繋がっている。

人はそれぞれが感じる感情や衝動、思い出を常にさらけ出す事はせず、時と場に応じてコントロールしている。
もしそれを抑制しないと社会では真っ当に生きていけないからである。しかし「その物が一体全体何処から来ているのか?」とその事を探求し始めると、己自身が制御出来なくなり、別な世界に入り込んでしまった可哀想な人と世間では思われてしまうのである。
そう今作は、誰でも現実的に簡単に行ける、異次元への入り口を教えてくれる芝居なのである。
ワレワレのモロモロ  ゴールド・シアター2018春

ワレワレのモロモロ ゴールド・シアター2018春

彩の国さいたま芸術劇場

彩の国さいたま芸術劇場・NINAGAWA STUDIO(大稽古場)(埼玉県)

2018/05/10 (木) ~ 2018/05/20 (日)公演終了

満足度★★

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岩井秀人の『ワレワレのモロモロ』を観劇。

ハイバイの岩井秀人の芝居はもう観ないと決めていたが、ゴールドシアターなので観劇を決意。

自分自身の体験を下に、私小説演劇として『て』『ヒッキー・シリーズ』などで新しい劇の流れを作り出した劇作家である。
今作は演じる人の人生経験の話しを下に、岩井秀人が構成して、人生経験者本人に自演させているシリーズである。
今作の興味深いところは、人生経験豊富なゴールドシアターの自作自演なので、何が出るか?と期待大ではあったが、どうやら何も出ず?という感じであったようだ。経験者の体験した出来事の掬い出している箇所がとても平凡で、それが本人が演じる事によって何か違う風に見えたり、違う視点で見えてくるというのがこのシリーズの狙いのようだが、素人が演じるか、上手い役者が演じるかのどちらかでないと、狙いは上手くいかないのではないか。特に中途半端に小慣れているゴールドシアターの俳優人には無理のようであった。いや俳優より演出の問題が多分にあると思う。

とても退屈な芝居であった。
紛れもなく、私が真ん中の日

紛れもなく、私が真ん中の日

月刊「根本宗子」

浅草九劇(東京都)

2018/04/30 (月) ~ 2018/05/13 (日)公演終了

満足度★★★★

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月刊・根本宗子の『紛れもなく、私が真ん中の日』を観劇。

中学生で、お金持ちの山中さんは、毎年誕生日会を行っている。何時もはお金持ちの4人の友人だけで行うのだが、今回はクラス全員(女子のみ)を呼んで行う事になった。だがいざ集まってみるとお金持ち、中級家庭、貧乏家庭と子供ながらでも階級の格差が生じてしまう。
そしてそんな最中、山中さんのお父さんが淫行事件を起こし、逮捕された事から、一気に子供達が階級を超えた、女性特有の感情の大爆破が起きてしまうのである……。

今作も前作同様、短な出来事を、物語らしい展開すらなく、台詞と俳優の熱量で一気に攻め立ててくる。俳優が上手い下手などは一切関係なく、キャラクターの持っている役柄を、俳優が組み取り、演じている様だ。まるでそれは唐十郎の「特権的肉体論」の基本である、舞台は戯曲からではなく、俳優の肉体のみよって作られるという論理を、作・演出の根本宗子が継承しているとも受け取れるが、作風からは唐十郎の影響は一切受けていない様であり、ただ演劇の論理が似ているだけであろう。
そして今作は、毎作ながらの感情の爆発の後に感じる、スカッとした気持ち良さで終わる事なく、後味の悪さを感じさせる終わり方に、新たなる根本宗子の作風を感じとる事が出来たのが大きな発見だ。

紛れもなく、今作も圧倒的に面白いのである。
革命日記【青年団・こまばアゴラ演劇学校“無隣館”】

革命日記【青年団・こまばアゴラ演劇学校“無隣館”】

こまばアゴラ演劇学校“無隣館”

こまばアゴラ劇場(東京都)

2018/04/14 (土) ~ 2018/04/30 (月)公演終了

満足度★★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

平田オリザの『革命日記』を観劇。

舞台は現代。
マンションの一室では、新左翼の革命家たちが、管制塔と国会議事堂を占拠する計画を練っている。そんな最中、隣人が町内会の役員になれとしつこく迫ってきて、作戦会議が邪魔されてしまうのだが、一般市民を装っている手前、無下に出来ずに対応してしまう。そしていざ会議が始まると革命についての熱い議論が交わされるが、またもや同じ隣人に邪魔されてしまう。そして再び作戦会議が始まりだすと、外で事件が起きてしまい、それどころではなくなっていくのである…….。

今作は、目的は違えども集団が出来上がる過程と既に出来上がってしまった集団の姿を描いている。
善意で地域に貢献しようとしている人達が、人を集めて、町内会を作り、何かを成し遂げようとしている姿と既に確立されている集団が、善意で、国家の為に正義を知らしめようとしている姿である。
そんな二つの異なった姿を見せられるからこそ、必ず起こる集団での狂気の原因が何なのか?を否が応でも垣間見ようとしてしまうのである。

何時も面白い平田オリザだが、今作は格別に面白い。

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