ミスターの観てきた!クチコミ一覧

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レバア

レバア

西瓜糖

テアトルBONBON(東京都)

2018/04/18 (水) ~ 2018/04/29 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/04/28 (土) 14:00

座席1階D列10番

28日午後、中野のテアトルBONBONで上演された西瓜糖第六回公演『レバア』を観てきた。西瓜糖を初めて観たのは数年前。その舞台が気に入り、以後、椿組とのコラボを含め今回が4回目の鑑賞となる。

舞台は終戦まもない東京のある洋館。持ち主は作家先生で、戦災で宿無しの被災者を無償で住まわせている。その洋館に住む、先生以下、焼き鳥屋、黒紋付きの芸者、キャバレー?の女給、たばこを作る爺さん、どこか育ちの良い家庭の母子、先生の娘、そして一番新しく住むことになる復員兵が織りなす人間悲喜劇。後半、この話『レバア』というタイトルに関わる主人公が復員兵と先生の娘であることが明らかになるが、それが衝撃的な印象を与えるのは、それまで舞台で繰り広げられてきた戦後の日本を生き抜くために各自が知恵を絞って生み出した活きる術。それを描く過程の脚本の密度の濃さと、役者達の巧みな演技に、気持ちも身体も舞台に釘付けとなる。登場人物が全員重要な鍵を握っていて、それが連鎖的に各自の運命に関わっていく。恐ろしいというか、悲しいというか、滑稽というか、その生き様に思わず自分の人生を振り返り重ね合わせ嘆いてしまう観客がいる。
役者達は、いずれも芸達者。主人公も脇役も重要性は均等に持たされている。その脚本の完成度と、演出の巧みさに思わず脱帽状態。

今年に入って幾つか良い舞台を観てきたが、この西瓜糖の舞台を観てそれらがみんな吹き飛んでしまった。実に充実していて中身の濃い、言葉に言い表せない重みを含んだ舞台であった。
西瓜糖、恐るべし。脚本と演出と役者に人を得ると、このような重みのあり内容の濃い芝居が作れる見本のような作品になる。こうした作品に出会えて嬉しい。

その恋、覚え無し

その恋、覚え無し

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2018/11/27 (火) ~ 2018/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

11月30日夜、すみだパークスタジオ倉で上演された劇団桟敷童子『その恋、覚え無し』を観た。これは、知人の役者・もりちえが出演した関係からである。この劇団は自分のお気に入りの劇団の一つ。毎回最後に見せる大がかりな舞台転換が一つのウリにもなっていて、今回も最後にどのようなセットが現れるのか期待しての観劇であった。


舞台は九州のとある山村。その村では、年々かに一度訪れる盲目の祈祷師の一団をもてなし、祈祷をしてもらって神隠しをはじめとする災難を避けることを常としていて、今年もその村に4人の盲目祈祷師達がやってきた。物語は、彼女たちが村に滞在していた間に起こる、複数の事件が交錯してあらわとなる祈祷師たちと村人達の間に芽生えた恋。そして悲しい結末。祈祷師達の頭であるタケは老齢で村に到着してすぐに病に倒れ、医者の勧めもあって村に定住することになる。祈祷師達の二人目のコマメは4人の中で一番若いが、病のタケに代わって村のために祈祷を行う。彼女は村人の1人に好意をもっていたが、今は相手に婚約者がいることを知らされる。そんな折、村の娘が行方不明となり、コマメは自分の祈祷が不十分だったからと自分を責め、最後に1人山の中で自らの命を絶つ。3人目の祈祷師・ウタは盲目になったきっかけとなった銃の暴発事故を起こしたかつての連れ合いが今はこの村にいて、ハルという女性に銃を教え、ハルはイノシシ猟の中心的存在となっていた。一番新入りの祈祷師・カイ口が悪く粗暴なところもあるが、村人と良い仲になっていく。しかし、祈祷師達は定住は出来ない存在で、一定の期間村に滞在した後、祈祷師を辞めて定住するタケ、村人達には神隠しにあったことにしたコマメを除く2人に、水車の事故で盲目になったハルを加えた3人のグループとなって紅葉が美しい村から旅立っていくのであった。

舞台に作られたセットは、祈祷師達の寝起きする小屋が上手に、その世話人の詰め所が下手に、そしてそのセットと客席の間に池という手の込んだもの。嵐の場面では池に向かって水が振る注ぎ、最後のシーンではセットが左右に移動して舞台後方全体に美しい紅葉が現れ、観る者は息をのむ。
役者では相変わらず女優達が素晴らしい演技を魅せてくれた。特にコマメ役の大手忍、カイ役の板垣桃子、ハル役の松本紀保は熱演であった。男優ではハルに銃を教えた不知火役・深津能暁が、難しい役を上手くこなしていたのが印象的だった。

劇中歌も印象的(作曲・もりちえ)。上演時間は約2時間。笑いあり涙ありの演技と素晴らしいセットは今年観た舞台ではトップクラス。来年は3作品を上演予定だそうだ。この劇団は、今後も観続ける事になるだろう。

「うるさくて、うるさくて、耳を塞いでもやはりうるさくて」

「うるさくて、うるさくて、耳を塞いでもやはりうるさくて」

劇団時間制作

劇場MOMO(東京都)

2017/03/29 (水) ~ 2017/04/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/04/02 (日) 14:00

2日午後、中野の劇場MOMOで上演された、劇団時間制作第13回公演『うるさくて、うるさくて、耳を塞いでもやはりうるさくて』を観てきた。過去に知人の役者が数回客演しており、観に行くたびに「難しいテーマをよくここまで舞台として作り込んだなぁ」と感心させられる劇団なので、今回も観に行くことにした。AB2チームが交代で演じている舞台のうち、自分が観たのはBチームの舞台。


一口で内容を言うなら、統合失調症になった人間をめぐり、その周りの人間達の友情や家族愛のせめぎ合いと揺らぎを表していた。

友人どうしてアパートの大家をやっていた2人の女子のうち1人(山下麻子・役名。以下同じ)が恋人との別れがきっかけで統合失調阿庄となり、不可解な行動を取るようになる。それを支えようとする相方の小林佐枝子や2人の友人でアパートの住人でもある証紙の関谷春代。病気になっても麻子を支えようとしていたのは、アパートの住人達も同じ。しかし病状はますます悪化し、近所で通行人が暴行されて意識不明になる事件が起き、麻子が犯人では内科という疑念が人々の心の中に生まれ、麻子の兄は彼女を精神病院に入院させる決心をする。入院に賛成するものと反対するものとの口論、個々の気持ちの葛藤。暴行された被害者の恋人がアパートに弁当を納入してくれている弁当屋とうこともあり、自体はますます複雑に。結末は悲惨さと悲しさあふれるモノで、その直前に語る佐枝子の台詞に考えさせれれた。舞台タイトルは、その時の台詞の一節である。

個人的に、自分の周りにも統合失調症の知人が数人居るので、今回の舞台は他人事とは思えない気持ちで観ていた。むしろ、観ていて気持ちが締め付けられるというか、思いモノとなった。しかし、この難しいテーマを100分という時間に上手く収めた原作・脚本の谷の力にまず感心。縁者では、小林佐枝子役の前田沙耶香と関谷春代役の澤村菜央がなかなかの熱演。それにアパートの住人で関谷の教え子である長道里美役の西田薫子が地味ながら良い演技を魅せていた。

重いテーマで何度も観たいとは思わない舞台ではあったが、完成度としてはここ数回観た時間制作の作品の中ではずば抜けている。息抜きに笑える箇所もあったが、それがなかったら見続けるのはしんどかった。観る者を暗い気持ちにさせながらも舞台に集中させていく手腕の巧さ。恐ろしい劇団である。よい舞台を魅せてもらった。

奴碑訓

奴碑訓

Project Nyx

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2018/03/09 (金) ~ 2018/03/18 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/03/14 (水) 14:00

座席1階I列10番

14日午後、東京芸術劇場シアターウエストで上演されたProject Nyx 第18回公演 美女劇「奴婢訓」を観てきた。これは、知人のマルチパーフォーマー・若林美保が出演していた関係からであるが、そのほかにも他劇団公演で注目している役者、例えば傳田圭菜や綾野アリスなど複数が出演していたことも観に行くきっかけとなっている。

この作品は寺山修司の作で、天井桟敷の代表作で知られる。主人不在の館で、女中達25人が交代で主人役を演じるというもの。当然ながら、出演者は女性ばかり(が前提で、例えば寺山のそっくり人形を操る男性も登場したりする)で、舞台装置に負けないくらい女性達の衣装や雰囲気は華やかというか個性的。台詞だけでなく、時にはダンスあり、時には黒色すみれの演奏(ヴァイオリン&歌)あり、そして時には役者が客席に降りて客とやりとりするシーンもあって、途中休憩を挟んでの2時間10分の舞台はあっという間に過ぎ去った。まさに、寺山の世界、美術の宇野の世界、演出の金の世界が満杯の舞台であった。

役者たちの個性と存在感も凄くて、いつもなら印象に残った役者の名前を挙げるのであるが、今回は全員すばらしい。もちろん知人・若林が開演直後に見せた赤ロープと、終演直前に見せた白布を使った空中演技は菅らしかったし、注目していた傳田や綾野の演技も秀逸であった。また、クラシック音楽の使用場面も多く、個人的に舞台に入り込みやすかった。初見参の黒色すみれも印象的な存在。
この公演を一口に言えば、演劇・舞踏・音楽・美術の総合芸術的な内容と言えるだろう。

共感

共感

劇団時間制作

劇場MOMO(東京都)

2018/05/09 (水) ~ 2018/05/20 (日)公演終了

満足度★★★★★

15日午後、シアターMOMOで上演された劇団時間制作第十六回公演『共感』を観てきた。常に意表を突くというか鋭い問題意識から立ち上げるというか、その舞台の核心が衝撃的な時間制作の作品。今回の共感とはいかなる者なのか・・・

舞台は、十三工場という刃物を扱う町工場。従業員は、社長の息子である十三佑都(田名瀬偉年)と経理の酒井弥生(武井麻妃)以外は児童養護施設出身者。社長は痴呆症で寝たきりで、佑都の妹・亜子(基村樹利)が世話をしている。その佑都の幼なじみ薬師紗季(高橋明日香)は、ストーカーから助けてもらって以来佑都に恋心を抱いている。しかし、刃物作りに才能のある佑都は仕事に生きがいを感じず、人を殺すことに喜びを感じている。それを知らされた紗季は、何とかして佑都の気持ちを理解しようと努める。真っ直ぐな感情の持ち主・紗季と歪んだ感情の持ち主・佑都は果たして共感できるのか?この2人を軸に、従業員同士の恋愛感情、婦人警官の正義感と道徳心、父親への献身の限界に達する亜子などの感情が複雑に交錯していく。
結果として、佑都は目的とする弥生殺害に失敗するも、介護に限界を感じ父親を殺してしまう妹の身代わりなることで気持ちの収まりを付ける。一方、恋人たる紗季は佑都に共感できず、佑都の殺しに関する事実(既に女子大生を殺していた)を婦警に話して心の収まりを付ける。しかし、駆けつけた婦警の前には妹の身代わりになろうとする佑都と父親殺しに悲嘆する亜子の姿があった。

いやぁ、実に衝撃的な舞台であった。人に共感することの難しさ、喜び、悲しみを、1時間45分の中に織り込んで観客に提示した脚本と役者達には頭が下がる。特に、田名瀬と薬師の熱演が、この舞台を支えていた。脇役の工場従業員たちも、おのおのその役割をきっちり果たしており、劇団時間制作の凄さをまざまざと見せつけられた。
感動というのとは違った意味で終始舞台に集中させられた自分。それは、佑都の感情のかけらのような物を自分も抱いているかもしれないという不安感なのかもしれない。

こっちとそっち

こっちとそっち

劇団時間制作

萬劇場(東京都)

2018/11/14 (水) ~ 2018/11/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

17日の午後、大塚の萬劇場で上演された劇団時間制作『こっちとそっち』のBチーム公演を観てきた。この数年観続けている劇団でもあり、今回は久しぶりに知人の古川奈苗が出演するとあって、期待を大にして出かけたのであるが、まさしく素晴らしい作品であった。

ネタバレBOX

上演後にあった劇団員によるアフタートークでの作・演出の谷碧仁によると、最近作品を書くときには題材とテーマを別に考えているとか。それから考えると、今回の作品は題材が「地域差別」であり、テーマは「孤独を含めた人と人の交わり」という事になるのだろう。
舞台は地域差別を受けている谷々皆にあるアパート。大家夫婦の妻・秋与は何かにつけ地域差別を意識し差別をなくそうとしているが、逆にその行動が差別を受ける側として差別する側に対して壁を作っている事に気付かない、高校生の長男慶太は引きこもりがちであったが、地域差別をなくそうという運動を行っている学校の生徒会の会長と級友によって、徐々に心を開き始める。
101号室の一流漫画家志望の二人の女性のうち美奈子の実力が花壇のそれより優れていることから担当編集の女性の動きもあって、美奈子は有名漫画家のアシスタントのなり、二人の友情は壊れていく。ちなみに、この漫画家達のエピソードのは地域差別はほぼ無関係だ。
102号室には、地域差別によって単純労働の日雇いしか働き口のない日本人とその同僚の中国人とインドネシア人が仲良く共同生活をしていた。しかし、外国人労働者の麻薬と暴行問題で三人はちりぢりに。孤独に悲しむ日本人労働者・裕也だったが、消え去っていた中国人労働者が裕也を慕ってアパートに戻ってきた。
202号室の今村真奈は地元・谷々皆地区にいた恋人と別れ東京で暮らし、新たな恋人を伴って戻ってきたのだったが男と価値観の違いに喧嘩ばかり、結局は男がアパートを去ることに。そこに、元恋人が新しい戸籍を買って名前も変えて現れる。元恋人と去って行った男の間で揺れ動く真奈は、結局去った男を追っていく。残された元恋人は、名前も戸籍も変えたのに地域に取り残されて孤独感にうちひしがれる。

いやぁ、毎回のようにこの劇団は重いテーマを2時間という枠の中に上手く収める芝居をしてくれて脱帽である。舞台上にセットを4面作って4つのエピソードを同時進行の形で展開していく演出とセットの巧みさは評価できよう。途中から目頭が熱くなってくる。これは話の内容に感動してというのではなく、登場人物達の抱く切なさというか運命の重さに、観る者として無力感というか絶望感というかそういう感情からこみ上げる涙なのだ。
唯一の救いは、大家の長男・慶太が学校の同級生ゆいと仲良くなる結末か。しかし、ゆいはその代償として生徒会長の紗子との関係が切れ、同時に他の生徒からのいじめの対象にされるかもしれないということが想像できるから、すっきりとした結末ではない。切ない結末の一つなのだ。

役者たちはみな演技達者であったが、そんな中で大家一家の妻役・岡村多加江、漫画家花壇役・古川奈苗、今村真奈役・松嶋沙耶香の演技が光っていた。そうそう、男優では相変わらず田名瀬偉年が難役を上手くえんじていた。
こうもり

こうもり

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2015/04/21 (火) ~ 2015/04/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

小野絢子のダンスと演技を堪能
21日午後、新国立劇場バレエ公演『こうもり』初日を観に行った。このバレエは、ヨハン・シュトラウスが作ったオペレッタをダグラス・ガムレイがバレエ用に編曲にしたものにローラン・プティあ振り付けした作品である。初日の配役は、以下の通り。

ベラ     小野絢子
ヨハン    エルマン・コルネホ
ウルリック  福岡雄大

以上3名はプログラムに名前と写真が明示されたもの。
この他の出演者であるメイド・グランカフェのギャルソン・フレンチカンカンの踊り子・チャルダッシュ・警察署長に関しては、入場直後に手渡された配役表に出演日不明記で記載されたいた。どうやらプログラムの作成時には配役が決めかねられていたものと拝察。出演者にも観客にも配慮の足りない公演?のような先入観が頭のなかを過ぎった。

さて、肝心の舞台であるが、この作品の振付には芝居的な要素やコミカルな踊りなどがふんだんに取り入れられていて、ダンサーのダンス力の他に演技力も試される。そうした面を総合して観た限り、主役ベラを演じた小野絢子とウルリックの福岡雄大の出来は素晴らしいものであった。ヨハンを演じたコルネホも頑張っていたが、舞台後半での演技が少々雑になった印象。まぁ、これはこの作品自体、後半が雑な編曲と振付がなされているように思える点から、ダンサーにとっては損な役だったかもしれない。
とはいえ、常にこまめな動きを求められるソリスト陣は、総じて及第点を与えて良いと思う。
また、フレンチカンカンやチャルダッシュは新国立劇場のダンサー達が粒ぞろいであることを観衆に見せつけた点で、高く評価したい。

少々簡素化し過ぎのような舞台装置と、軽く流したような音楽(アレッサンドロ・フェラーリ指揮東京フィル)には若干の不満はあるのだが・・・・

次回の新国立劇場バレエ公演『白鳥の湖』は、千秋楽を鑑賞の予定。久しぶりに長田の踊りを楽しみたい。

シュレディンガーの猫たち

シュレディンガーの猫たち

激嬢ユニットバス

サンモールスタジオ(東京都)

2015/04/30 (木) ~ 2015/05/05 (火)公演終了

満足度★★★★★

個々の役者の個性が生きた秀作
今日3日の午後、サンモールスタジオで上演中の激嬢ユニットバス第2回公演『シュレディンガーの猫たち』を観に行った。

窓も鏡もない館に自覚無しに集められた葦原樹という漫画家・探検家・保育士・編集者・風俗嬢・大工・CA・主婦の8人の女性たち。8人相互では姿形は違うのだが、彼女たちは実は同じ葦原樹。人生で遭遇する選択肢によって派生した、それぞれの世界に生きてきた同一人物なのだった。
望むものは手に入るが決して出られない館がハコと称されるもので、実は集められた8人は現実の世界では今意識のない瀕死の状態であり、8人に内1人だけが最後に残り生き返るという事を知り、8人はそれぞれ自分が最後の1人になろうとする。お互いがお互いの人生の隠された過去や悲しみ・喜び・悩みを暴きあう。そして、最後に残って生き返ることになるのは・・・・・

まだ公演が残っているのでネタバレはやめておこう。
この個々の人生が暴かれる過程で、それぞれの役に扮した役者たちの個性がうまい具合に発揮され、観客から笑いや涙を起こさせるこの劇団の素晴らしさは、第1回公演以上の出来栄えではなかろうか。今回特に演技的に関心したのは、有栖川ソワレの演技に対する凄みと、ラストシーンで本物の涙を流しての演技が光っていた関根麻帆。
そのほか、うえのやまさおりも、1回公演同様に上手さが感じられた。
脚本や演出も良いのだろうが、この劇団、役者同士の演技のバランス感覚も素晴らしいなぁ。
この先も見続けていきたい劇団である。


普通

普通

劇団時間制作

サンモールスタジオ(東京都)

2017/06/28 (水) ~ 2017/07/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/07/02 (日) 14:00

2日午後、新宿のサンモールスタジオで上演中の劇団時間制作第14回公演『普通』のBチーム公演を観に行った。この劇団は毎回考えさせされるテーマを選んで上演するので欠かさず観るようになった団体。今回、Bチームには知人の高坂汐里が出演している。

ネタバレBOX

先にも触れたが、この劇団の上演演目のテーマは毎回重く、それを観客に見せていく過程も重い。これだけ重いと普通は観たくなくなってくるのだが、それが不思議と舞台の進行に観客はのめり込んでいき涙を流す。いやぁ、これは凄い事なのだ。脚本の谷、恐るべし。
今回のテーマも普通。その普通というテーマを浮かび上がらせるために使ったのが、姉弟妹の高木3兄弟の末娘が殺され、時効まであとわずかという状況設定。残された姉弟にとって、今現在、そして時効後、普通の生活は訪れるのだろうか。母親のやっていたスナック虹の従業員たちにとっての普通とは? 店出入りの酒屋で実は殺人犯の普通とは? 高木弟が周りの人々に問い詰める「教えてくれよ、普通って何なんだよ!」という言葉が、観る者の心に突き刺さる。
知人・高坂はスナック虹の雑用係役で出演。彼女の存在が舞台進行上に果たす役割が若干曖昧だったのが残念。これは、役者力と言うより脚本側の問題だろう。
演じ手としては、いつも張り切りすぎて空回り気味の田名瀬偉年(高木弟役)が今回は秀逸だったし、フォンチー(高木姉役)、高木弟の恋人でスナック虹従業員橋爪役の武井麻紀、酒屋で犯人役の熊野隆宏の熱演が目を引いた。

この劇団、欠かさず観たい。脚本の谷、もう少し洗練された脚本が書けるようになれば、鶴屋南北賞も夢では無いだろう。
「標〜shirube〜」

「標〜shirube〜」

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2017/12/12 (火) ~ 2017/12/25 (月)公演終了

満足度★★★★★

17日、知人・もりちえの所属する劇団桟敷童子の公演『標』を観てきた。最近、数人の団員が退団したのを受けて新しいメンバーに加え、演劇集団円から数名の出演も得て、新生桟敷童子の本格的始動開始第1回公演とも言うべきもの。

舞台は戦争末期から終戦後にかけての寂れた港町。生け贄を捧げると現れるという蜃気楼に死んだ夫などとの再開を夢見る女性7人が、脱走兵で生け贄になるのを承諾した男3人をいざ生け贄にしようとすると、蜃気楼を生むために必要な海風が止まってしまい困惑する一同。そこに脱走兵をを護送していた上官(実は彼も脱走兵)や生け贄行事を止めさせたい港町の人々が加わり、蜃気楼を巡って鬩ぎ合う。やがて、蜃気楼で夫が帰ってきたという女性や、上等兵の拳銃で撃たれて命を落とす女性も出てきて、7人の女性は1人となり生け贄行事も立ち消えに。蜃気楼を呼ぶ神への「ホ~ホ~ホ~。ホッダラホイヨ~」という呪文が耳に残り、最後に舞台全体に広がる紅の風車が目に焼き付く、笑いも起こるが悲しい物語。

見終わって思ったのが、この舞台の発想が、過去の上演作『風撃ち』を主軸に『海猫街』をスパイスとして加えたような印象であったこと。「生け贄」「最後には1人になって待つ女性」というテーマが、作者である東憲司の頭に染みついているようだ。

役者としては、主演ワタリを務めた演劇集団円の朴璐美の演技が秀逸。また、元教師で女7人衆の1人リュウを演じた板垣桃子の演技も良い。男性陣では脱走兵4人が時にはコミカル時には悲しい演技で魅せた。その他の役者達も、手堅い演技でさすが桟敷童子という思い。全18公演ほぼ完売という力はさすがであろう。次回作『翼の卵』も期待したい。

ラ・バヤデール

ラ・バヤデール

新国立劇場バレエ団

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2024/04/27 (土) ~ 2024/05/05 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★★

現在上演中の新国立劇場バレエ団の『ラ・バヤデール』4公演目を観た。
主要な配役の内重要な4役を挙げると、ニキヤを柴山紗帆、ソロルを速水渉悟、ガムザッティを木村優里、大僧正を中島駿野が演じていたが、個人的には久しぶりに観る木村優里のファンである。
バヤデールというのは寺院の舞姫を意味し、主役はそのバヤデールの中でも美貌の持ち主・ニキヤ。このニキヤに恋した高潔の戦士ソロルの悲劇を描いたのがこの作品で、悲劇を作り出したのはニキヤに横恋慕する大僧正とソロを愛するガムザッティの愛憎劇。結局、ガムザッティの侍女の渡した花かごから現れた毒蛇によってニキヤや絶命し、ニキヤへの愛を貫こうとしたソロルは大寺院崩壊の下敷きになって絶命する。いや、元々は絶命するものの、2人は天上で結ばれるというのがこの作品の原作で4幕ものであったのを、初演後に近年一時4幕目をカットして上演していたものを、4幕目の内容を3幕内に取り込んで上演するようになっていたのだ。ただ、新国立劇場で採用している牧阿佐美版は天上で2人が結ばれるというハッピーエンドで終わらせず、ソロルは寺院崩壊で死に、ニキヤは天上へ向かうという演出となっている。『白鳥の湖』の結末のように、ハッピーエンドで終わらせていないのが、観客に訴えかける何かがある。
そう言えば、この作品は『白鳥の湖』と並んで「ホワイトバレエ」の代表作の1つに数えられているそうだが、3幕冒頭のコール・ド・バレエのシーンでアラベスクを繰り返してジグザグに山をおりてくるところがホワイトの印象が強かったが、その他の場面ではむしろエキゾチックな場面が多いように思われた。
音楽はミンスク作曲。バレエのファンで無くてはミンスクという作曲家の名前を知る者はおそらく多くはおるまい。チャイコフスキーほど洗練されてはいないが、ダンサーにとっては踊りやすい音楽だろう。
さて、ソロル役の速水はこの役でのデビューとの事だったが、無難に乗り切った感じ。ニキヤとガムザッティに対する対応に、もう少し差があっても良いのでは無かったろうか。
柴山は、まぁ無難なところ。ソロルに対する表情が豊かであってほしかった気はする。
ガムザッティの木村、こう言う気の強い女性もしっかり踊れるのには感心した。こうなると、小野や米沢のニキヤを観てみたくなった。

皮肉にも雨は降る

皮肉にも雨は降る

劇団時間制作

劇場MOMO(東京都)

2016/05/11 (水) ~ 2016/05/22 (日)公演終了

満足度★★★★★

人の思いと行動の矛盾を鋭く突いた問題作
東京・中野にある劇場MOMOで上演されている劇団時間制作公演『皮肉にも雨は降る』を観に行った。この公演は完全ダブルキャスト制で、自分の観たのは知人・古川奈苗が動物愛護センターの中核職員役を務めているBチームの公演である。
いつもならあらすじをを簡単に紹介するのであるが、今回の公演でのあらすじ解説は難しいので省略。この公演はいわゆる主人公と呼べる存在がいない。いや、登場人物すべてが主人公と言うべきか。ミントという老犬をペットとして飼っており、女で一つで育てた姉妹と長男のいる桜井家。長女は引きこもり、次女は動物愛護センターで働き、長男は悪徳ブリーダーから動物を仕入れているペットショップに勤め、その彼女はライターという設定。それに、その次女が勤めている動物愛護センターとその職員たち。この2つの場の人間たちが複雑に交差しながら、動物愛護というものの表と裏、人間がペットに期待し求めるエゴというものがあぶり出されていく。動物愛護運動の真実、ペットへの愛情の本質を知れば知るほど矛盾を感じ、力のなさを思い知らされる登場人物たち。観るものに動物愛護って何?ペットを思いやる気持ちって何?という課題を問いかけつつ、100分ほどにその難問の提示とひとまずの解決(本質的な解決ではなく、ひとまずの落としどころ)にまとめ上げた脚本をまず褒めたい。また、そのテーマの選択・設定も見事である。
登場する役者たちも、それぞれが担う役をうまく演じ、時には笑いも起こすが肝心の見せ所ではおちゃらけは消え、まじめな、それはまじめな本質を突く台詞を口にして観客の心にくさびを打ち込み涙を誘う。まことに見事な演出と言って良いだろう。
特に目立った役者を挙げようと思ったのだが、今回は全員が健闘していた。
自分の観たのはダブルキャストのBチーム。Aチームではどのようになるのか、観てみたい気が起こった。

或る日、或る時

或る日、或る時

森組芝居

座・高円寺1(東京都)

2015/10/17 (土) ~ 2015/10/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

西崎と三波の演技を堪能
今日の午後、高円寺にある座・高円寺1という劇場で上演された森組芝居『或る日、或る時』を観てきた。これは、何時だったか忘れたのだが、何かの舞台を観に行った時に貰った何枚かの他公演のフライヤーの中に、西崎緑と三浦豊和が主演するというこの公演のフライヤーが混じっていて、この2人の演技というものを観たくなったので早速チケットを確保して出かけてきたという訳。この時貰ったフライヤーは配布第一弾のもので、その後配られるようになった詳細な出演者や公演日程が刷り込まれたフライヤーを観ると、自分がお気に入りの激嬢ユニットバスという女性だけの演劇ユニットのメンバー南かおりも出演することを知り、さらに興味が湧いた舞台となったのだった。

さて、舞台は昭和8年の円山町(現在の渋谷区円山町)の花柳界。円山町だけでなく都内の花柳界有数の舞の名人と噂されていた芸者・藤香(西崎緑)が主人公。多額の借財を抱え、重病の母親を持つ藤香。本人はもちろん母親の面倒もみるという条件で身請けを迫る常連の橋本屋の旦那の申し出を受けかねていた彼女の前に新しい常連客として現れたのが、礼儀正しく慎ましやかな陸軍大佐の浅見(三波豊和)。しかし、橋本屋とは母親の死で身請け話も消え、浅見は満州へ行くため別れの宴となる席に藤香を呼ぶ。自分の頼るべき人、恋しく思う人が次々と自分から去って行き、人生の儚さに泣き崩れて舞台は幕を閉じる。核となる筋はそうなのだが、途中、見受けしてくれる橋本屋の夫人が藤香を訪ね、自分が同じ芸者出身であることや、橋本屋に嫁ぐために養子に出した子供がいることを語る緊張した場面も有り、しかもその養子に出した子が、藤香の妹芸者の元婚約相手だったりと、世間は狭いと感じさせる人間関係も垣間見せる。

横長の舞台を、上手に料亭の離れ座敷、下手に料亭の女将の部屋に二分割し、左右を交互に、時には同時に使って進んでいく手法は、大道具のセットの立派さも含め小劇場系とは思えないもの(終演後の挨拶の中で、三波豊和も小劇場系ながらセットが素晴らしいと発言していた)。
また、いわゆる小劇場系のテンションが高く大声でセリフを言い合うというものでなく、張り詰めたテンションを静かに抑えつつ語られるセリフと、三波の歌・服部妙子の三味線で踊る西崎の舞(一度ではなく、数度の踊りの場面がある)は、小劇場系というより商業演劇を思わせ、じっくり舞台を鑑賞することが出来た。

舞台の成功のカギは主役二人だが、緊張感溢れる場面を生み出した橋本の妻役・葛城ゆいの演技も立派。
料理屋の小間使い・フミを演じた南かおりの表情豊かな演技も楽しかった。というより、役の幅の広さに関心しましたよ。

こうのように感情を抑えての演技ながら、客席から涙を誘っていた舞台。森組芝居、恐ろしやとも思えた空間だった。この感動を深めたく、次回公演にも行ってみたい。
蛇足ながら、公演中に地震があり場内が一瞬ざわめいたが、演技は途切れることなく観客をすぐに舞台の世界に呼び戻した。

翼の卵

翼の卵

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2018/05/29 (火) ~ 2018/06/10 (日)公演終了

満足度★★★★★

好きな劇団の一つである劇団桟敷童子の『翼の卵』を2日午後に観てきた。知人の役者・もりちえが出ている上に、今回は客演として原田大二郎も出ると言うことで、初日を迎える前で全公演チケット完売という人気であった。

ネタバレBOX

舞台は九州のある地方。炭鉱が栄えていたときは活気のあった街も、炭鉱が閉山すると活気がなくなる。農園を経営していた篠塚一家も例外ではなく、今は母屋を解体業者・浦辺組の宿泊所として貸し出し、母で農場主の登紀子(鈴木めぐみ)、次男・史彦(深津紀暁)、三男・繁彦(松本亮)は敷地内のバラック住まい。そこに、10年前に家を出た長男・毅彦(坂口候一)が連れ子・恵子(大手忍)のいる頼子(板垣桃子)と結婚したものの借金に追われ逃げ帰ってきての大騒動。妻に暴力を振るう毅彦。彼に仕事をさせる浦辺組社長・源之助(鈴木歩己)、頼子に仕事の世話をする毅彦の幼なじみで今は西寺興業の社長・薫(稲葉能敬)と、毅彦一家を再生させようとみんなが努めるが、毅彦

がいっこうに改心しない。登紀子も頼子にまむし狩りを手伝わせてこき使う日々。その浦部組の従業員の中に、死に別れたと思っていた頼子の父親で元殺人犯・常藤耕作(原田大二郎)がいたことが、物語の核となっていく。耕作と仲良くなる頼子の連れ子・恵子(実は耕作の孫)。やがて、耕作が父であることが頼子にも分かる。しかし、母親への思いや元殺人犯という事実が親子の間に感情的な壁を作る。そんな矢先、恵子がまむしに噛まれ、命を落とす。その悲劇がきっかけとなって、耕作と頼子の間に和解の糸口が出来ていく・・・・。




いやぁ、悲劇である。耕作と恵子の関係に一筋の光が差し込んではいるが、全体的には悲劇である。偶然と必然が交錯してわき起こった悲劇である。実に悲しいが、ラストシーンで涙が出る以外、そのすさまじい悲劇に涙も出ない。

そんなすさまじい舞台を支えた中心は、原田大二郎と大手忍。そしてその脇を固めた板垣桃子と鈴木めぐみの4人であった。他の役者たちも重要な役どころをこなしていたが、上記4人の好演がなければこの舞台は成り立たない。そうした役者を揃えられたのが、桟敷童子の凄さなのだろう。

また、恒例でもあるラストシーンでの大道具(セット)の破壊的な大転換も観る者の心を打った。

東憲司、恐るべき主宰者である。




追記

劇中、数年前に上演された『エトランゼ』と重なる脚本というか演出があった。脚本家の頭の中には、「こういう状況を表すにはこんな演技が必要」というパターン化された思考があるのかもしれない。その点が残念であった。


震えた声はそこに落ちて

震えた声はそこに落ちて

劇団時間制作

劇場MOMO(東京都)

2016/11/02 (水) ~ 2016/11/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

密度の濃い舞台に感心
ここ数回、知人の役者が客演していた劇団時間制作の舞台を観に行った。実は今回の公演には知人は出演していなかったので最初は行こうとは思わなかったのだが、その役者が観に行くことを勧めてくれたのと、この劇団のテーマの選定が人間の生活の根源的な問題に直結する物ばかりで奥深さを感じさせられていたこと、加えてコリッチから招待券をもらえたことが重なり、11日の午後の公演に出かけたという訳だ。


ストーリーは複雑で難しい。誘拐・監禁にあって声が出なくなった三姉妹の次女が主人公。長女夫婦の営む高松食堂を舞台に、事件を忘れることが一番と信じて生きていく被害者一家。正体がバレていたいことを良いことに、高松食堂のバイトとして一家の生活の中に入り込み笑いを起こすことで被害者への謝罪とまっとうな生活を送っていると思い込みたい共犯者。もと誘拐事件の加害者一家の一人として苦しみ、今回の事件の関係者の本心を探ろうとする雑誌記者、そして、今回の事件の加害者男性の動機が被害者の親から受けた被害者意識から生み出された物だったという複雑さ。人という生き物は、時として加害者にもなり同時に被害者にもなり得る危うい世界に生きているという現実。そして、贖罪とは何をすることが正解なのか、まっとうな生き方とは何なのかという問いを観客に突きつける。やり場のない加害者と被害者の心の悲鳴に、多くの観客は涙していた。感動というか、やりきれない思いからの涙だろう。


役者では、共犯者だった佐藤凪役の倉富尚人、三姉妹の三女・神崎美鈴役の庄野有紀、加害者の周防孝道役の平岡謙一の演技が秀逸。熱演としては、三姉妹の長女の夫で高松食道の店主・高松浩司役の三関翔一郞、周防の幼なじみ・古野奈々与役の肥沼歩美が良かった。


しかし、本当のこの公演の立役者は、この密度の濃い脚本を作り上げた谷碧仁であろう。

エトランゼ

エトランゼ

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2015/08/19 (水) ~ 2015/08/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

舞台に作った湖を効果的に使った密度の濃い舞台
昨日、お気に入りの劇団の一つ桟敷童子がすみだパークスタジオで上演中の『エトランゼ』を観に出かけた。この劇団は、知り合いの役者・もりちえが所属しており、今回の公演では重要な役を担っているということと、水を多用するということで、大いに期待して出かけたのだが、なるほど、期待以上の舞台が仕上がっていた。

山間の辺鄙な町で山の恵みを採取する女性たちの山母兵糧師、山岳信仰で様々な祈祷・お祓いをする女性・神業師、そして山主一家。彼らが生活する場に現れた不吉な湖。それを待っていたかのように村い戻ってきた兵糧師の元夫と、村を捨てた山主の長男の遺骨を持って現れたその妻とその仲間。村の人々と舞い戻ってきた者や部外者たちが、過去の思い出したくない出来事に振り回されつつも徐々に心を開いて忘れかけていた故郷というものを意識させていく。総じて話の核心は重く悲しい物なのだが、時折笑いを誘うセリフや演技で重苦しさを和らげる工夫も。その舞台に広々と設営された湖に飛び込んでびしょ濡れになりながら熱演する役者たちには拍手を贈りたい。
個別の役者としては、舞い戻ってきた元夫に翻弄される兵糧師・彦原志乃役の板垣桃子、その娘役の大手忍、山主の長男の妻・奈緒美役のもりちえの演技には引き込まれた。また、山主役の原田健太郎や、兵糧師のマキ役川原洋子の渋い演技も光っていた。
特に話が進むにつれて凄みを増していくもりちえの演技と湖の中での高笑いは、やや荒削りで進行が雑になりかけていた後半の脚本の欠点を吹き飛ばした感があった。

残念だったのは、主要登場人物を含め、人物像というものの輪郭作りと、舞台全体で観客に伝えたいテーマというものがやや曖昧だったこと。

それにしても、桟敷童子は毎回密度の濃い舞台を作り上げて感心させられる。
10月から三ヶ月連続で上演する炭鉱三部作にも期待したい。

朝劇 下北沢「リブ・リブ・リブ」

朝劇 下北沢「リブ・リブ・リブ」

朝劇

VIZZ (ヴィズ) (東京都世田谷区北沢2-23-12 Mビル1F)(東京都)

2014/05/25 (日) ~ 2015/07/20 (月)公演終了

満足度★★★★★

朝から演劇の充実した週末
先日、大人の麦茶という劇団の公演で受け取ったチラシから知った、下北沢で土曜と日曜の朝9時から上演しているという朝劇。土曜と日曜で演目が違い、ロングラン中だそうである。これは面白いと思い、昨夜観劇がてら都内に宿泊したのを機会に土曜の朝劇を観てきた。会場となったのは、下北沢にあるカフェレストランVIZZという店。ちなみに、チケット代金にはドリンクと朝食代が含まれているというありがたいものであった。

さて、肝心の劇の内容だが、下北沢にあるカフェを舞台に、その店長・常連客・常連客を演じたい男と、上京してきたその男の妹という4人が繰り広げるある日常の一場面。笑いを誘う演技に満ち、ちょっとほのぼのさせる男の妹の本音語りなど、朝みる舞台としては十分な軽さと面白さを兼ね備えた公演だと言えるだろう。そう感じさせたのは、役者4人の好演にほかならない。開演時間になってごくごく自然に店内で始まる店長と常連客との会話から、「あれ、もうこれ本番がスタートしてるの?」と思わせるところは憎い演出だ。
時間が許せばリピーターとして何度観ても飽きることは無いだろう。この朝劇、下北沢以外では現在渋谷でも行わているらしく、近々新宿でもスタートするとか。朝から舞台をみるという生活が当たり前になったら、それはそれで演劇ファンとしては嬉しいところだ。

海猫街・改訂版

海猫街・改訂版

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2014/04/21 (月) ~ 2014/05/03 (土)公演終了

満足度★★★★★

魂の熱演
個性豊かな劇団が熱演をみせる!!

ネタバレBOX

劇団にとって、『海猫街』は8年ぶりの再演らしい。前回は第61回文化庁芸術祭優秀作品となっており、今回も平成26年度文化庁文化芸術振興費補助金の助成を受けている、小劇場系としては本格の公演。
会場に入ると、舞台上は多くの丸太を組んだ立体的な構造に仕立てられていて、シーンごとに実に上手く活用されていたのには関心。それはともかく、上演前から大道具で圧倒・感心させられた。
話は北海道の海猫が多く集まる辺鄙な集落。ここに、政府お墨付きの大企業が港を作るかとうかの視察に来るというので、部落民たちは全員で企業幹部の接待をしようと張り切る。しかし、やってきた企業幹部の本心は、港を作るのではなく、集落近くに埋蔵されている石炭が目当て。しかし時は遅く、企業が部落民の反対で石炭採掘を諦めた引き上げた後の部落は、嵐などで傷めつけられ徐々に民は一人また一人と部落を離れ、最後には海に出た龍次を待つ瑞枝とイサナ二人だけに。そして二人もついに息を引き取り、海猫だけが舞っている土地となっていく。
企業幹部の接待に端を発して、海賊末裔と奴隷末裔の対立が浮き彫りになったり、軍二・龍次・瑞枝の三角関係が持ち上がったり、白髪白肌のイサナの存在が部落の存亡を左右するようになったりと、次々と展開する出来事に、観客は巻き込まれ、涙する。号泣するような強烈な山場があるのではなく、全体を通してなぜか目が潤む場面が続き、舞台に釘付けになってしまうエネルギーの凄まじさには感服するばかり。

存在感のあったのはイサナの椎名りお、堂園千草の板垣桃子、それに婆の鈴木めぐみ。一歩下がって軍次の桑原、龍次の深津、片腕源蔵の原口あたり。蟹奴のもりちえが奏でる三味線の音は、一服の清涼剤として時々の舞台のシーンに色を添えていた。

こうしたストーリー、難しいのは結末をどうするかであるが、瑞枝とイサナに焦点をあて、時間の経過を静かに感じさせてフェイドアウト的に締めくくっていたのは上手い処理だろう。
「蝉の詩」

「蝉の詩」

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2017/04/25 (火) ~ 2017/05/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/05/04 (木) 14:00

4日午後、すみだパークスタジオ倉で上演された劇団桟敷童子公演『蝉の詩』を観た。
始めに書いておくが、今年観た舞台の中で、脚本・演出・役者の3点すべてが充実していた大変優れた舞台であった。

ネタバレBOX

舞台は、元自宅のあった周辺に出来た公園でホームレスを始めた元アイスクリーム屋の蝉への独白、そして子供の頃の回想で始まる。炭鉱から出る石炭運搬を主な仕事としている鍋嶋舟運送一家と、その中心的取引相手とは聞こえは良いが、要は舟運送に仕事を回してくれている土井垣鳴明堂。娘が刺し殺そうとまで思い詰める鍋嶋の親方で通称・鍋六は飲んだくれで金遣いが荒い。将来舟運送が下火になると察した長女・壱穂はトラックを使った陸運、次女の菜緒はアイスクリームが名物の食堂を始める。10代半ばで米兵に犯された過去を持つ三女の輝美は母親の好きだったレコードを聴きながら部屋にこもり、鍋六がどこからか連れ帰ってきた四女の織枝は高校へ進学する。土井垣から受ける仕事でなんとか続く鍋嶋一家。しかし、過労とヒロポンで壱穂は事故死、菜緒は病死、輝美は恋人にレイプされたことを告白した反応に悲観して自殺。すべては鍋六の放蕩三昧が原因とあって怒りの織枝は鍋六を包丁で刺すが、娘を殺人犯に出来ぬと舟に乗って姿を消す。残った織枝。そして土井垣の女社長が取り出した自社製オルゴールから奏でられた音楽は、輝美が愛したレコードの音楽のそれであった。
菜緒から製造法を伝授された織枝はアイスクリーム屋を営むが、結局上手くいかず今は年老いてホームレスとなって故郷に戻ってきたのであった。
苦労が大きく幸せは一瞬という人間の生涯を、蝉の一生に重ね合わせた悲劇の連鎖劇。

テーマが悲しく重いからであろうか、桟敷童子にしては笑える演技をいつもより多くちりばめて悲しさを和らげていたのは、観客への配慮か、脚本・東の執筆中の心の痛みを和らげるためか。いずれにせよ、それはそれでよい効果を上げていた。
役者としては、鍋六役の佐藤誓、その長女・壱穂役の板垣桃子、土井垣の女社長役のもりちえ、開演前から舞台で演技をしていた老婆(晩年の織枝)役の鈴木めぐみの4人が出色。四女・織枝役の大手忍も好演で会った。
名前は挙げていない他の役者達の熱演も素晴らしかった。
客演役者をも巻き込んでの桟敷童子魂炸裂。よい舞台を見せてもらった。
獣唄

獣唄

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2019/12/03 (火) ~ 2019/12/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

15日、東京・錦糸町のすみだパークスタジオ倉で上演された劇団桟敷童子の『獣唄』千穐楽を観てきた。これは、知人の役者・もりちえが出演出演していた関係からである。
今回の作品は、劇団主宰者で脚本家の東憲司が俳優・村井國夫主演を想定して書き下ろした作品で、自分も当初は公演中日あたりの日程で観劇する予定であったのだが、村井が公演前半に軽い心筋梗塞のため降板し、数日間の休演の後に主役を副座長である原口健太郎が代役として演じ、一部配役を変更して上演再開という自体となり、鑑賞日程を千穐楽に振り替えたという次第であった。

舞台は貴重な種類の蘭の花が採取出来るというとある山村。そこでハナトと呼ばれる蘭採収人である梁瀬繁蔵と彼の3姉妹トキワ・ミヨノ・シノジの間で起こる愛憎悲劇。そのきっかけを作るのが、東亜満開堂という花屋で、時代は太平洋戦争中。花で東亜の繁栄を夢見る満開堂社長の望みは、蘭の中でも最も珍しい品種「獣唄」であった。その獣唄を観たことのある繁蔵と、蘭採取人の後を継ぎたい長女トキワ。この二人の葛藤は、満開堂だけでなく妹たちや村人達をも巻き込み、最後には3姉妹がそれぞれ命を絶っていく。
いやぁ、悲しい。実に悲しい。その悲しみを舞台から観客全員に伝える繁蔵役の原口、3姉妹を演じる板垣桃子、増田薫、大手忍の熱演が特筆される。
もりちえは、満開堂社長夫人の役を熱演。キノコ取りの名人役・鈴木めぐみの怪演も光っていた。

久しぶりに差し入れなどを持って行ったのだが、うっかり役者と言葉を交わすと泣きそうになりそうだったので、挨拶も簡単に劇場を後にした。
将来、村井國夫での再演を期待したい。

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