うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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白が染まる

白が染まる

演劇企画集団Jr.5(ジュニアファイブ)

駅前劇場(東京都)

2022/08/05 (金) ~ 2022/08/12 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/08/09 (火) 14:00

膨大な台詞量と切羽詰まった感満載の人間模様で
観ているこちらが疲労感を覚えるほど「正義」と「現実」の間を引きずり回される。
役者が身も心も痩せるような芝居の醍醐味を堪能した。

ネタバレBOX

●~〇~●以下ネタバレ注意●~〇~●

冒頭、何かを相談に来ているヒトミ(高野志穂)の逡巡する様が
かなりの時間を割いていて、この時間にどんな意味があるのだろうと思って観ていた。
事の重大さはこの後語られていく・・・。

看護学校を卒業後10年ぶりに再会した4人は
リーダー格のジュンコ(紺野まひる)に引っ張られるように、
同じ職場で再び“友だちの絆”を深めていく。

夫のゴウ(奥田努)の浮気と借金に苦しむヒトミは、
ジュンコから「そんな男は殺すしかない」と言われる。
政界にも警察にも顔が利く“先生”に金を払えばすべて解決するというのだ。
ミユキ(罍陽子)もカズコ(山崎静代)も、先生のおかげで救われたのだという。
追いつめられたヒトミは3人の協力を得て、看護師ならではの巧みな方法でゴウを殺す。

他の3人をコントロールする力を次第に強めていくジュンコ。
次はミユキの母を殺すしかない、と持ちかける。
同じころゴウの浮気相手とされたスナックの女性(大嶽典子)がヒトミの元を訪れ、
夫はスナックの女性と浮気などしていなかったことを知る。
ジュンコの言動に不信感を抱いたヒトミは「先生に会わせて欲しい」と告げる。
いつもの強い調子で“友だちの絆”を持ち出すジュンコだが
ヒトミは3人に背を向けて立ち去る。
そして冒頭の警察署内の場面に戻る・・・。

1998年に起きた「久留米看護師連続保険金殺人事件」を題材にした作品。
金のために、追いつめられた人々をターゲットに保険金殺人をさせる、
その説得が「私たち友だちでしょ」という中学生のような台詞であることの異様さ。
居もしない“先生”の存在を信じてジュンコに金を渡す従順さ。
やってもいない浮気や、その浮気相手の夫が自殺して訴えられている、という
デタラメを信じる盲目的な心はどうして生まれるのか。
追いつめられた結果、信じるべきものを見あやまる心理が今一つ弱い気がするが、
それよりもジュンコの強い、恫喝に近い説得や高圧的な態度が
事件の核心であるという描き方のように思われた。
その説得力を体現するのは、紺野まひるさんの他を圧倒する台詞と目力だろう。
華奢な身体からは想像もできないような“欲にかられた強引さ”を放ち、
時に罵倒し、時に猫なで声で3人をコントロールする様は見事。

ラスト近く、別居するジュンコの夫(大村浩司)が見せる
悲しみの色が、胸に迫るものがあった。
ジュンコを守りたいと思ってきたのに守れず犯罪に手を染めさせたと思うのか、
自分もいずれ殺されると思うのか、せめて自分が死んで償おうと思うのか、
その複雑な心境はいかばかりかと思われた。

浮気と借金で結局殺されてしまった夫を演じた奥田努さん、
自分勝手でいい加減で、人の信用を得られない酔っぱらいが最高に巧い。

カズコを演じた静ちゃん、いい感じに馴染んでいて少し驚いた。
キャラを活かした役どころで、横暴な人に従ってしまう、
横暴な人をさえ追いつめずに助けてしまう優しさを体現している。

奇しくも私は2019年9月に、この事件を題材にした
オフィスコットーネの「さなぎの教室」を同じ駅前劇場で観ていた。
人間の普遍的な“欲”を描いて、どちらも秀作だと思う。
それにしてもジュンコ、すごいキャラだな、作家が書きたくなるのも肯ける。







アカデミック・チェインソウ

アカデミック・チェインソウ

MCR

ザ・スズナリ(東京都)

2022/06/22 (水) ~ 2022/06/30 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/06/26 (日) 14:00

やっぱり堀靖明さんはすごい!
1公演で痩せるだろうと思うほどの全力パフォーマンス(でも腹囲は順調)。
あの先生がいなかったら居並ぶ生徒たちのキャラがバラケてしまったかも。
個人的には伊達さんと櫻井さんにもっと暴れて欲しかったな。

ネタバレBOX

舞台は下手奥に向かって階段状に高くなっている。
ヤシの木の絵が描かれた壁、下の方にはキノコの絵も。
手前は砂浜のような白っぽい床。

修学旅行先でクジラを見る船に乗った教師と生徒たちが
クジラと衝突して無人島に流れ着く。
そこは“今日を繰り返す”タイムループする島だった・・・。

修学旅行前に抱えていた生徒たちの葛藤や悩み、
それをそのまま島に持ち込んだ彼らは
家族から離れ、クラスから切り離され、相手と濃密に向き合う中で
解決の糸口を見いだし、あるいは否応なく自覚しそれを受け容れていく。

担任である堀先生は、中でもシリアスな悩みを抱えていて
この修学旅行が終わったら教師を辞めようと思っている。
ほっぺぶるぶるの奮闘ぶりが、誠実さと
頑張りすぎて家庭を喪った男の哀愁を際立たせる。
一生懸命さが身体からほとばしる感じが、堀さんの一番の魅力だ。

飛び道具的な加藤美佐江さんの使い方が、パンチが効いて素晴らしい。
徹底した「どこのマドロスだよ?」的な佇まいと台詞回し。
笑っているうちにブレないスタイルが説得力を持ってくるから不思議だ。

櫻井さんってこんな“青春学園もの”も書くんだ、という新鮮な驚き。
どこかで血が流れるかと思ったら、明るいラストでちょっとほっとした。
血を見るのは次の楽しみにして、またブラックなやつもお願いします。

ナイゲン(2022年版)

ナイゲン(2022年版)

Aga-risk Entertainment

駅前劇場(東京都)

2022/06/21 (火) ~ 2022/06/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/06/24 (金) 14:00

「自主自律」とは何かというガチガチに固いテーマを、徹底的に高校生目線でバトらせる面白さ!練られた脚本と巧みな展開、豊かなキャラクターに最後までぐいぐい惹きつけられた。議長と監査委員長の進行が素晴らしく、会議の2時間で登場人物たちの成長が見える。この文化祭に行ってみたいです!

ネタバレBOX

2006年の初演以来劇団も再演を重ね、また多くの団体によって上演され続けている
“演じたくなる脚本”に興味津々で初めての観劇。
これが本当に素晴らしかった。

●~○~●以下ネタバレ注意●~○~●

開演と同時に、生徒たちが次々と登場、
舞台上に並んだスクール形式の机を、コの字型の会議形式にしていく。
これから始まるのは伝統ある「ナイゲン」、内容限定会議だ。
県立国府台高校の「自主自立」も今は形骸化して、
唯一文化祭のための会議「ナイゲン」として生き残っている。

1年生から3年生までの合計9クラスの代表がそれぞれの発表を終え
「あ~終わった」感が漂う教室にとんでもないニュースが飛び込んでくる。
9クラスのうち1つだけ、学校が参加を決めたキャンペーンにのっとり
環境問題をテーマにしなければならないというのだ。
「うちわを配布し、定期的に打ち水をし・・・」というイベントを引受ければ
自分たちのクラスの出し物は実施出来なくなる。
焼きそばを、アイスクリームを、縁日を、演劇を諦めることになる。
クラスの期待を背負う9人の代表は、
生き残りをかけて壮絶なつぶし合いを始める。

ここからのつぶし合いの“ネタ”が秀逸だ。
“似たような店だから一方は無くなってもいいんじゃね?”
“1年生は先があるから我慢するべきじゃないか”
“時代劇で似てるから演劇ひとつ減らしてもいいんじゃないか”
“その場所で水とか使うのってダメなんじゃないの?”
等々の案が出て、その都度挙手によって採決がなされていく。
様々な思惑から、採決の度に潰されるクラスは変わって行き
会議は嵐の中の小船のように波にもまれ翻弄されていく・・・。
幼さとしたたかさをフル回転させた高校生の泥仕合が演劇的にどハマリ。
進行役「議長」と「監査委員長」が会議の要となっているが
やがて形式的な立場から、会議の行方を大きく左右する行動に出るのも面白い。
各キャラクターの豊かな造形が不自然さを感じさせない辺りが巧みで
時にオーバーな芝居も、ムキになると暴走するあの世代らしさが出る。

一体どう折り合いをつけるのかと思っていると、あの結末だ。
正論を吐く一人の反乱が会議を硬直させ、タイムリミットを目前にして
追い込まれたメンバーが必死になって手繰り寄せたアイデアが素晴らしい。
さっきまで潰しのネタに使ってきたワードが、一転して救いの神になる。
全員の気持ちが真っ直ぐ伝わって来て
泣くような話じゃないのに、議長の表情に涙があふれた。
みんな最初はチンタラしてたのに、この2時間で大きく成長した。
そして観ているオバサンも、今さらだけど成長したと思った。
素晴らしい脚本と全員熱演、ありがとう!





花柄八景

花柄八景

Mrs.fictions

こまばアゴラ劇場(東京都)

2022/05/11 (水) ~ 2022/05/23 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/05/15 (日) 13:00

キャラの立った登場人物が生き生きとそこに居て素晴らしい。クセが強い役はテンションを保つことが難しいが、本当に隙の無いなりきりぶりで、あり得ない展開に強い説得力を持つ。初めての作品、初めての劇団にがつんとやられてマジ幸せ!

ネタバレBOX

20XX年、噺家花柄花壇師匠(岡野康弘)は、世間の注目を集める
「AIとの落語対決」に敗れ、落語界から総スカンを食っている。
AI噺家は”名人と呼ばれる噺家を再現”して大変な人気を博し、人間の噺家は絶滅寸前。
花壇師匠の弟子、プラン太(ぐんぴぃ)も、
期待に応えられなかった師匠に失望して去って行った。

荒れ果てた師匠の家は”心霊スポット”となり、そこへやって来たのがパンクロッカー
鉢(今村圭佑)と苗(永田佑衣)のカップル。
花壇師匠が橋の下で拾ってきた燐(前田悠雅)、
出て行ったプラン太も出入りするようになって、
一度は廃墟のようになった師匠の家は、不思議なにぎやかさを取り戻す。

そしてついにその日がやって来る・・・。

パンクバンドの鉢とその彼女苗が最高!何てキャラを作ってくれたんだ!
演劇には時折出て来るキャラだが、こんなに隙のないパンク野郎見たことない。
ライブの途中で語る「パンク芝浜」が最高に楽しい!
苗の“育ちの良さ”がチラ漏れしてしまうあたり、
「芝浜とか?」「冷蔵庫にポカリ作ってあるから」とかが絶妙。

何気に花壇師匠を支える不思議ちゃん燐、難しい役どころだが素晴らしかった。
師匠最期の夜にかけた言葉「要らないよ」「おやすみ」という
たったふたつの台詞が、彼女の存在意義を表し、芝居の要となる凄さ。
AIの対極を張るこのキャラが、伝統芸能継承の活路を見いだすヒントを感じさせる。

AIに敗れた師匠を見限って一度は落語から離れたプラン太も
落語への愛を失うことは無く、今や真打になった燐ちゃんから稽古をつけてもらう。

花壇師匠の言う「地獄には匂いが無いが、この世は甘い匂いがする」という言葉通り
師匠の家は燐が摘んでくる季節外れの花で、ほのかな甘い匂いに満ちている。
無くても生きていけるがあると幸せになる・・・
この甘い匂いって「芸術」のことじゃないか。
師匠は最後、幸せな甘い匂いに包まれて今度こそ往生する。

コロナで消毒しすぎて、いい匂いから遠ざかっていた私の生活が
笑いと幸せな匂いに包まれた80分。
Mrs.Fictions、次も絶対観たい劇団になった。


Melancholic Burtons

Melancholic Burtons

飛行天幕

雑遊(東京都)

2022/03/16 (水) ~ 2022/03/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/03/19 (土) 14:00

孤独な少年ウォルター(渡辺望)は、ある日不思議な一族と出会い、
夢のような1週間を過ごす。
ウォルターの語りが全編を牽引し、そこに登場人物が絡むかたちをとっている。
ファンタジーの始まりとしては十分な設定、ダークな展開が楽しみになる。

ネタバレBOX

駅で暮らす孤独な少年ウォルター(渡辺望)は、ある日バートンという紳士と出会う。
バートンに連れられて彼の家族と共に、夢のように楽しい1週間を過ごす。
バートン一家から「家族になったんだからまた来年も」と言われ、
不思議な1週間はそれから毎年続いた。
しかし11年目に集まったとき、ウォルターがしてしまったことは・・・。

天幕旅団の浮遊感とはかなさを思い出させるスローモーションとストップモーション。
“失いたくない”という執着心の暴走という、人の心の複雑さが事件を起こす辺り、
ダークファンタジーらしい苦味が効いていて素敵だ。
キール(瀧のぞみ)のみずみずしさが、空間に清涼感を与えてくれる。

#1とあるように、これは#2以降も続く前提で創られた作品。
ファンタジーとしては十分な謎だらけの設定で、続きが知りたくなる点は成功している。
だがウォルターのひとり語りが主軸である分、
他の登場人物の魅力がイマイチ伝わってこない。
#1では「呪いをかけられて、一人で旅をしなければならない」バートン一族に
尽きない興味をいだかせてくれる。
お願いだから早く#2を作ってくれー!
朗読劇 「天切り松 闇がたり ~闇の花道~」

朗読劇 「天切り松 闇がたり ~闇の花道~」

ケイファクトリー

PARCO劇場(東京都)

2022/02/06 (日) ~ 2022/02/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/02/06 (日) 16:00

朗読劇の域を超える圧巻の熱量と台詞回し。
盗人噺にボロ泣きしつつ爽快感に浸る、この久しぶりの幸福。
原作の魅力のひとつにキャラの立った登場人物があり、それが歌舞伎のケレン味と相性抜群。
演者の気持よさそうな江戸弁に、聴いている方も酔いが回るように引き込まれる。
控えめながら差し込まれる映像と効果音も効果的。
あー、あの台詞、また聴きたい、ずっと聴いていたい!

ネタバレBOX

客席に向かってロビーを歩いているとき、聴こえて来た曲にまずやられてしまった。
トム・ウェイツの、大好きな、泣ける一曲。
― ひと弱さを認め、それを愛し、それを守る強さを粋と言う ー
かどうかわからないが、登場人物の熱いキャラに呼応するような選曲だと
勝手に感動してしまった。

さて、もはや獄中の名物となった「天切り松」の闇語りである。
近頃の若え囚人だけでなく、看守も居並ぶ中で、松蔵爺さんが語るのは
酒とばくちに溺れて娘を女郎屋に売り飛ばし、今また息子を
スリの大親分「仕立屋銀次」に預けに来たどうしようもない父親のこと。
その父親に「二度と息子に会わせない」と言い放ち金をやって帰らせる。
銀次から言いつかった安吉親分は、”これから仕立屋一家から金がもらえる”と踏む
小ズルい父親を完全に排除するのだ。

この一家を成す面々が実に魅力的でほれぼれする。
松蔵に天切りを仕込む黄不動の栄治、スリで絶世の美女振袖おこん、
松蔵の姉を苦界から救い出そうと手を尽くす漢気溢れる寅弥、
安吉一家の金庫番で頭脳明晰な詐欺師、書生常、
犯罪者である彼らが、松蔵を育て成長させていくそのプロセスに
珠玉のエピソードが散りばめられている。

ピカレスク文学に洗練と漢気が加われば最強だろう。
あとはもう私の好きな “ころんころん回る江戸弁”だ。
お願いだから噛んでくれるな、このカッコいい台詞を!
という私の祈りなど全くもって不要だった。
これ、シリーズ化してくれないかなあ。
芝居でも朗読劇でもいい。
この「台詞と侠気」に耐えうる役者をそろえて欲しい。
必ず駆けつけます。

客席中央に作者の浅田次郎氏が来ていた。
アフタートークで紹介されて、立ち上がりちょっと会釈した氏に
「この人からあのキャラが生まれたのか」と感謝の念でいっぱいになった。

帰り道、ボロ泣きしながら肩で風を切って歩きたい気分になった。
これが私の演劇体験最高の〆である。
                                                     
徒花に水やり

徒花に水やり

千葉雅子×土田英生 舞台製作事業

ザ・スズナリ(東京都)

2021/12/15 (水) ~ 2021/12/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/12/16 (木) 19:00

圧巻の会話劇。台詞に引っ張られてストーリーが転がる、観ている私の感情も動く、という感覚を楽しんだ。登場人物がみな生き生きとキャラを生きている。役者の力量を感じさせる舞台。

ネタバレBOX

昭和な感じのリビング。
ヤクザの組長だった父親がはめられて殺されたあと、残された4人の子供たちのうち、
一人は養子に出される。
親代わりとなった長女(千葉雅子)、3回結婚・離婚を繰り返しスナックをやっている
次女(桑原裕子)、単純でちょっと足りないヤクザな長男(土田英生)。
この3人が、養子に出されていた妹が東京から来るのを待っている。
わくわくソワソワして、楽しみでならない3人。
その妹(田中美里)は、輝くような笑顔でやって来る
しかも結婚を考えている相手の男(岩松了)を連れて来た。
その男こそ、父親をはめた張本人だとも知らずに・・・。

兄弟それぞれのキャラが立っていて素晴らしい。
特に次女と長男のやり取りが秀逸。
台詞のひと言一言に、性格と来し方が現れているような、吟味された言葉。
桑原さんが繰り出す間とテンポが素晴らしくて引き込まれた。

ラストのオチがちょっと軽すぎてカクンと来てしまったが
”家族の絆”を描くのを妨げるものではない。
人生はまさに徒花に水をやるようなものだなあとしみじみ思った。



ムサシ

ムサシ

ホリプロ

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2021/09/02 (木) ~ 2021/09/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/09/25 (土) 13:30

竹やぶのセットがざわざわしたとき、思いがけず泣きそうになった。このセットを創り動かし音を奏でている人たちの熱い存在を感じた。冒頭客席に背を向けて発する台詞が多く、発声も口跡も良いだけに残念な気がした。大胆なオチは、剣客の生き方を呆気なく変えるにはちょっと軽い気もするが、殺生そのものに焦点を当てるならば、作者のゆずれない価値観と見るべきか。それにしても芸達者が集まると、こんなに隙の無い舞台が出来るものなのだ。

ネタバレBOX

「小次郎破れたり!」の有名な場面は冒頭の4~5分か。
小次郎にまだ息があるのを確かめて「藩医殿、お手当を!」と言い残し立ち去る武蔵。
話はすぐにその6年後の鎌倉に移る。

沢庵和尚や柳生但馬守宗矩らやけに豪華な人々に囲まれながら、
武蔵は寺の作事を手伝っている。
そこへ現れたのが一命を取り止めた小次郎、もう一度武蔵と”公平な勝負”をしたい
という、その一念だけで復活を遂げたのだった。

果し合いの約束を交わし、再びの闘いを前に一触即発の二人を中心に、
滞在する寺には様々な問題を抱えた人間が集まって来る。
そしてもう一つの果し合いが同時に行われようとしたとき、真実が露わになる。

剣客を生業とし、その道で頂点を極めるという目標しか知らずに生きてきた者が
成仏できずに彷徨う亡者に請われてそれを翻すという、呆気にとられる展開。
「剣客のプライド、それがどうした、命が最優先だろ」という絶対価値観が
井上ひさしの真意なのだと思う。

今ノリに乗っている吉田鋼太郎さんの自在な演出と軽やかさが光る。
悲壮感漂う若武者二人の緊張感が素晴らしい。座長はさすがの貫禄。
それと白石加代子・鈴木杏の軽妙な掛け合いの鮮やかな対比が楽しい。
鈴木杏の声の良さ、舞台映えする所作の美しさに驚かされた。

冒頭から声佳し口跡佳しで魅了される。
鍛えられた役者陣にゆとりが感じられて安心して観ていられた。
あー、楽しかった♪



オーレリアンの兄妹

オーレリアンの兄妹

EPOCH MAN〈エポックマン〉

駅前劇場(東京都)

2021/08/13 (金) ~ 2021/08/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/08/18 (水) 14:00

小沢さんのひとり芝居は何度か観ているが中村中の声が素晴らしい存在感を放ち、彼とここまで絶妙な掛け合いを成立させることに驚かされる。次第に明らかになる重いバックグラウンドと、それにつれて緊張感を増す台詞、引きずり込まれるような75分間。

ネタバレBOX

駅前劇場で隣の椅子がこんなに間隔をあけて置かれたのを初めて見た。
隣の人の動きが気にならないのが快適で、ずっとこのくらいならいいのにな、と思う。
劇場としてはもっと詰めたいところなのかもしれないが。

レンガの壁が客席に迫っていて、一番前の客席と舞台の距離が異様に近い。
嵐のような、強い風のような音が客入れの時からずっと続いている。
定刻開演。

兄と妹が客席中央の通路に登場、クマ除けらしく缶か何かを叩きながら
夜道を歩いてくる。
舞台上のレンガの建物に気付き、恐る恐る二人が中へと進むと
壁は舞台中央から真っ二つに割れ、二人を奥へと誘う・・・。

この後建物内部のセットが小沢さんらしい工夫に溢れていて秀逸。
驚きと楽しさ満載でわくわくする。

兄妹はなぜこんな嵐の夜にクマ除けを鳴らしながら歩いてきたのか。
その背景が次第に明らかになる過程が切なく巧い。

オペレッタのように歌が挿入されてリズムが生まれる。
互いにかぶせるような台詞の応酬が緊張感と切羽詰まった状況を際立たせる。
兄と妹の違いが浮かび上がり、意見の相違はやがて別々の道を選択させる。

中村中さんの、意思を感じさせる強い声が魅力的。
歌はもちろんだが、台詞に迷いが無くて爽快だ。

小沢さん、兄が衝撃的な体験を語るところが素晴らしい。
同じ現実が自分の身にもうすぐ起こることを予感して愕然とする。
その言葉は、聴いている私が息苦しくなるほど。

二人とも、まだ大人になっていない故の不安と恐怖が生々しく痛ましく、
一種凄みがあった。

これは逆境から逃げ出す話ではない。
逃げ出してから自分の人生を選択し切り開く物語だ。
兄はどうする?
妹はどうなる?
舞台は終わって、ここから二人の人生が転がり始める。

忖度裁判

忖度裁判

ワンツーワークス

シアターX(東京都)

2020/10/31 (土) ~ 2020/11/08 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/11/05 (木) 14:00

その忖度、誰のためですか?と問い続けた2時間。
ストップモーションの動きが、思考停止のようで印象的。
いじめも結局は忖度の果てのひとつか、と思われた。
裁判員6番の迫力に一票!

ネタバレBOX

お受験ママ友同士だったのに、そのママ友の娘を自分の車に乗せ
放置して死なせたという裁判が開かれる。
本当に雑事に紛れて、乗せていることを忘れてしまったのか、
ママ友に対する嫌がらせだったのか、
ライバルの子を、殺意を持って放置したのか・・・。
集められた裁判員6名、補充裁判員3名はそれぞれ本名を名乗らず
番号で呼び合っている。
世間が注目する、マスコミも注目する、判決には前例がある・・・。
緊張し、翻弄され、忖度だか先入観だかもうわからなくなっていく裁判員たち。

中で6番(奥村洋治)の家庭でのやり取りが挿入されるのがミソ。
彼の娘は職場でいじめに遭っている。
ある時娘は父親に職場の写真を見せる。
この中の全員が彼女を無視しているのだと言う。
そこに写っている上司は、裁判員3番の男だった。
「自分で何とかする」と言い張る娘、娘にまかせようという妻。
だが父親はある方法で3番の男に立ち向かう。

法廷ものの群像劇としては、バラエティに富んだキャラや
裁判のシステムを上手く説明していて、楽しめる。
最も影響力のある忖度をしている人物は
裁判長をはじめとする裁判官側ではないか。
世間の注目度や過去の判決事例を、合理的と言えば言えなくもないが
常にバランスを取ろうと躍起になっている。
中道路線から外れまいとするように見える。

さて、職場でいじめを受けている娘をどうやって助けようか。
父親である6番はどれほど知恵を絞ったことだろう。
その結果が、裁判の休憩時間に語られる「夢の話」だ。
誰かを罵倒し続ける夢を見る、という彼の話は最終日
「昨日あなたが夢に出て来た」と、3番の男に向けられる。

裁判員たちを、常に上から目線で仕切り続けた3番の男は、
完膚なきまでに論理の皮をひん剥かれ、罵られる。
この迫力が素晴らしい。
誰かを守ろうと闘う強さに溢れている。

法廷と並行して、この6番の娘のいじめを持ってきたことにより
罪の意識の無い“忖度”が急に身近になる。
いじめる部下たちは、この上司である3番の男に忖度している。
同僚たちにも忖度している。
忖度の連鎖は、やがて一人の人間の命を追いつめるかもしれない。
父親の罵声には、その危機感があふれていて、それが
単なる罵声でなく、正当な批判として突き刺さる。

「自分で何とかする」という娘の気持を尊重したいという
父としての“究極の忖度”がここにはある。
その忖度の強い優しさに打たれる。


「獣の時間」「少年Bが住む家」

「獣の時間」「少年Bが住む家」

名取事務所

小劇場B1(東京都)

2020/10/23 (金) ~ 2020/11/02 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/10/30 (金) 14:00

冒頭から肩の力が抜ける暇もなく、ぐいぐい引っ張られていく。
正体不明の不気味な緊張感、登場人物がかかえる不安が
無駄の無い台詞と全身で表現する役者陣によって繰り広げられる。
ラスト観ている私がぼろぼろ泣いたのは、ほっとしたのと
この先が心配なのが混じって、胸が痛くなったからだ。

ネタバレBOX

手前に土間がある韓国式らしい家の造り。
小さな自動車修理工場を営む夫婦と20歳の息子が住んでいるが
言葉少ないやり取りは、妙な緊張感でピリピリしている。
息子への態度を巡って、夫婦は一々衝突する。

そこへ近所に引っ越して来たのでと、一人の女性が訪ねて来る。
無遠慮に入り込んで自分が主宰する「親子セミナー」に誘ったり
数年前にこの町で起こった中学生殺人事件の噂話を怒涛のように喋って帰るが
実はこの家の息子デファンこそが、その同級生を殺した犯人だった…。

小さな町で、公然の秘密を、身を固くして抱え込んでいるような家族。
父親は引きこもる息子に自動車修理の仕事を覚えさせようとし、
母親は理解できない息子を怖れ、息を詰めて今日が過ぎるのを待つ。
家を出ている長女は、母を気遣いつつもこの状態を打破したいと思っている。

周囲は加害者家族に対して容赦なく、無責任に思い出すたび指さして蒸し返す。
新しい隣人は親子問題の専門家を気取っているが
実はただの“ワイドショー好きな世間”の代表として描かれている。

少年Bという、デファンにしか見えない存在が効果的。
あの日の彼自身を超えていくことでしか、デファンは先へ進めない。
その暗く辛い葛藤が、7年も続くことの恐怖は計り知れず
14歳の少年がひとりで背負えるものとは思えない。
助けを求めようにもその方法さえ知らないデファン、
周囲もまた助ける方法を知らないという、状況の痛々しさ。

論理的だが情の薄い人間に見えた保護観察官が
雪の中で懸命に車の故障を直してくれたデファンに対し
温かな態度を見せた辺りから、状況は少しずつ動き始める。

外へ出て仕事をしたデファンの変化は目ざましく、希望の兆しが見えて来る。
誰かに信じてもらわなければ、人は立ち直れないし変われない。
デファンの場合はまず父親が彼を信じて仕事を教えた。
仕事して感謝されて、デファンは初めて自分に出来ることを見つける。
それは被害者家族への謝罪だった。

これから起こることが容易でないことは誰の目にも明らかだが
同時にデファンの表情が別人のように力強いことに安堵する。
びくびくと背中を丸めてろくに返事もしなかった冒頭のデファンはもういない。

絞り込んだ台詞に、悶々とする気持ちを込める役者陣が素晴らしい。
いつか爆発するのではないかとハラハラさせながら、
静かに変容を遂げるデファンの、ふつふつとした思いを肩や背中で表現する
堅山隼太(堅の字の下部が「立」)さんが秀逸。

デファンを見送った後、長女と母親は二人で柿を食べる。
この前まで渋くて食べられなかった柿が、今日は甘くなっている。
この家族に、普通の暮らし、普通の心理状態が戻ることが本当に嬉しい。


私たちは全力でホラーに挑みます!

私たちは全力でホラーに挑みます!

ライオン・パーマ

駅前劇場(東京都)

2020/09/23 (水) ~ 2020/09/27 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/09/23 (水) 19:30

凝った構成にエピソード満載、随所に織り込まれる笑いの要素でライオンパーマらしい作品。でもちょっとホラー感は薄れたかな。せっかくのホラーネタがもったいない。怖さは集中してこそ感じるもの、そこが若干散漫になったのが残念。久々の観劇、劇場・主催者のコロナ対策と努力に感謝します。

ネタバレBOX

天才漫画家・天堂幸一郎には秘密があった。
それは漫画家としての彼の原点ともいえる、9歳の時の出来事だった。

これからホラー漫画に挑戦しようとする天堂は
同業者でホラーの天才闇野霊太郎から怖い話を聴いて参考にするようにと
編集者からアドバイスを受ける。
そして闇野の話を聞いた後で、ふと遠い昔の出来事を口にしてしまうのだ。
“墓場まで持って行く”はずの、誰にも話さずに来た秘密を・・・。

天堂が秘密にしてきた昔の出来事と、
9歳の彼が描いた漫画のストーリーが絡み合って
平和な日常は次第に傾いていくというホラー。

“全力で挑みます”と銘打った作品なら、もう少し怖くても良かったような・・・。
核となるホラーには惹かれるものがある。
あの「魔界不動産」の話、もっと観たかったなあ。
すごく面白い設定だと思う。
だが何といっても挿入されるエピソードのボリュームが大きく
しかも笑いを取る場面が多いのでホラー感が持続しない。
このバランスとメリハリがくっきりしたら
ライオンパーマの新たな魅力になったと思うが、
いつものライパを楽しむという点では、安心して観ていられる。

野鴨

野鴨

ハツビロコウ

シアター711(東京都)

2020/03/24 (火) ~ 2020/03/29 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/03/26 (木) 19:00

くっきりしたキャラとキャスティングの妙を堪能。
深刻な事態を、離れたところから冷やかに見るイプセンは、だが
この愚かしい人間をこよなく愛している。
「正義」が己の行動の判断基準であるうちは結構だが、
他人の価値観を攻撃した時、それは単なる“はた迷惑”でしかない。

ネタバレBOX

舞台にはぴんと張った白いクロスがかかったテーブル、
赤いバラの細い花瓶が中央に置かれている。

明転すると、上手の隅にひとりの老人が立っている。
長いためらいの後、ようやく声をかけようと前へ歩を進める。
彼は奥へ通されるが「帰りは裏から出るように」と言われる。

実業家ベルレが仕切る町の、ここは彼の屋敷だ。
冒頭のみじめなエクダル老人はかつて彼と共に事業に携わっていたが
ある事件の責任を押し付けられて転落。
ベルレは罪滅ぼしのつもりか、エクダル老人に毎月“仕事”を渡している。

ベルレの息子グレーゲルスは、そんな父親を嫌悪し、激しく罵る。
自分の幼馴染でもある、エクダル老人の息子ヤルマールは
ベルレのかつての愛人ギーナを当てがわれて結婚、何も知らずに娘を育てている。
グレーゲルスは、すべての秘密を白日の下に晒して出直すのが正義だと主張、
ヤルマールにギーナの秘密を告げ、真実を知ってからが本当の夫婦だと言うが・・・。

「正義」を振りかざして余計なことをする青二才…、と思っていたら
言われた方のヤルマールも“愛と憎しみは紙一重”みたいに
罪の無い14歳の娘を拒否し、ひどいことを言って深く傷つけてしまう。
そして娘は「一番大事なものを手放すことがお父さんへの愛情の証」という
グレーゲルスのまたまた理想論に影響されて、
大事にしていた野鴨を殺すことを決意するのだ。

救いの無い展開ながら、欠点の多い人々が人間臭くリアル。
力のあるものがゴリ押しをして、弱者はそれを受け容れるしかないという構図は
いつの時代も変わらず普遍的なテーマだ。

撃ち損ねたために湖の底から犬に拾われ飼い慣らされた野生の野鴨は、
現実を受け入れた少女そのもの。
自らの胸を打ち抜いて野生に還る。
母ギーナのようにしなやかに生きるには14歳は若すぎるのだ。

終わってみれば、実業家ベルレと、その再婚相手セルビー夫人の
互いのことをすべて打ち明け合った上での結婚こそが
皮肉にも“正義の息子”グレーゲルスの理想形だ。

ベルレ(松本光生)とセルビー夫人(和田真季乃)が俗物的なのに大変魅力的。
14歳のヘドビックを演じた葵乃まみさんがドハマリで年齢の無理感ゼロ。
ベルレに影のように付き従う使用人ペテルセン役の井手麻渡さん、
極端に台詞の少ない役ながら、その微妙な表情や間で何と豊かに語ることか。
飲んだくれのレリング医師を女性にしたところは少し驚いたが、考えてみれば
別に男性医師である必要はない。
熱血漢らしい台詞に説得力があった。

ラスト崩壊した家族の跡に座るベルレにペテルセンが告げる。
「(グレーゲルスは)これからも理想を追求していくそうですよ」
ったく懲りない奴だ。
欠点ありまくりの人々がくり広げる劇的なドラマはイプセンの独壇場。
私の人生もまた俯瞰して見れば、こんな風に愚かしく可笑しなものなのだろう。



酔鯨云々

酔鯨云々

文化庁・日本劇団協議会

ザ・ポケット(東京都)

2020/02/12 (水) ~ 2020/02/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/02/13 (木) 19:00

2018年「日本の劇」戯曲賞最優秀賞受賞作品。
重いテーマを個人の感情に引き寄せるのは
勢いのある高知弁と畳みかけるような台詞。
ところどころにクスリとさせるユーモアを差し込みつつ
自分はどちら側につくだろうと考えさせる。
キャラと言葉は生き物であり、どちらも土地に根差している。
それを強烈に印象付けて素晴らしい。
中屋敷さんの演出がまた秀逸。

ネタバレBOX

舞台中央に旭日旗の柄、真っ赤な上下の若い男が登場する。
この赤い男は、人々が集まる料亭の座敷の中央に陣取り
膝を抱えて話を聴いていたかと思えば
人の話に合わせて口パクで台詞をなぞったりする。
他の出演者からは見えない体の、不思議な存在。

死刑制度が廃止されて8年、犯罪被害者や遺族の会、そして世論の中から
「死刑が無いなら自分が犯罪者となって復讐する」
という声が上がり、ついに“仇討ち”の復活を望むようになる。
出来た法律が「生命再興法」という合法的仇討ち。

高知県で起きた無差別殺人事件の遺族が料亭に集まり、
仇討ちに誰が志願するかを相談する。
反対する者と激しいやり取りが続く中、まだ来ない一人に
志願させようと画策が始まる・・・。

受刑者と遺族は、白装束に着替え帯刀して向き合う、という
何とも古風な方法が可笑しい。
おまけに仇討ち志願者はクーポン券がもらえる、とか言うので
結構、国が考えそうなことだと笑ってしまった。

高知弁にはストレートな物言いが良く似合う。
本音以外口にするものか、という力を感じる。
キャラも強いし口調も強い。
役者さんは疲れるだろうな。

ラストの“天皇降臨”には思わずポカ~ンだったが
考えてみれば仇討ちといい、志願の押し付け合いといい
極めて日本的感情のような気がする。
そういうことは国が法の下でやればいいのに、
的なところも含め。
天皇の登場はその象徴のようなものか。

亡くなった方のプロフィールを丁寧に拾う
新聞の社会面が示すように
日本は死に対してとてもウエットだ。
義理人情や自己犠牲、そして究極は“お国のために散る”・・・。
そう考えるとあのラストシーンは
そんな日本人を揶揄しているように見えて来る。

中屋敷さんの演出がとても面白かった。
赤い男が、見えない存在としてずっとあの輪の中に居る。
加害者であり、被害者であり、日本人であった。






ゴールドマックス、ハカナ町

ゴールドマックス、ハカナ町

桃尻犬

OFF OFFシアター(東京都)

2020/02/05 (水) ~ 2020/02/11 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/02/07 (金) 19:30

テンポの良さが身上の掛け合いが素晴らしく
怒涛の台詞に惹き込まれていく。
中でも堀靖明さんの“ピュアで思い込みの強い”キャラが
存分に活かされていてとても良かった。

ラストがハカナ過ぎて思い出しても哀しい。
人の幸せってなんだろう?

ネタバレBOX

親に捨てられてから、年の離れた妹を一人で育てて来た兄・中條はじめ。
彼の人生はすべて“妹・小春のため”にある。
パチンコ屋しかないこの町で仕事をするため、
そのパチンコ屋に就職し、恋人もなく、妹の心配ばかりしている。

その小春は高校卒業を前に、兄から自立したいし、
自分のためにだけ生きているような兄がやや疎ましい。
自分の幸せを見つけて、と言っては兄妹喧嘩になる今日この頃。

職場の仲間も妹も、みんなで兄に恋人を当てがおうとする。
そしてはじめに一方的に告白し、同じパチンコ屋で働き始めた女、
るり子に白羽の矢が当たる。
やがて妹は家を出て結婚、兄はるり子と暮らし始める。
すべて上手くいったと思われた時、
驚愕のラストシーンが待っていた・・・。

まず役者陣の振り切れ方が素晴らしい。
怒涛の台詞をよどみなく繰り出し、価値観を激しくぶつけ合う。
堀靖明さんの、あの台詞回しが大好きだ。
”ヘンなキャラ”が”極端なピュア”になってしまう。
だから憎めないし、むしろ次第に共感していく。
その妹(神崎れな)も、兄の理屈に負けていない。
最後は自分の思うように家を出て結婚したのだから大したものだ。
パチンコ屋の常連で小学校の先生(徳橋みのり)もぶっ飛んでいて素敵だ。

そして登場からして異様な女・るり子(青山祥子)、彼女はサイコパスか?
中盤では、愛情のなせる業みたいに思ったりもしたが
あれはやっぱりサイコじゃないか。

結局はじめの幸せって何だったのだろう?
妹のために生きていた方が幸せだったんじゃないか?
あの結末、あれでははじめが可哀想過ぎる。
皆の意見に従って生き方を変えたら、あんなことになっちゃった。

あのハカナ町という名前は、彼のためにあるような気がする。
誰かのために生きたってきっといいのだ。
依存していても幸せならきっといいのだ。

真ん中辺のクイズ、あれは何だったのだろう?
あの演出の意図が良く解らなかったが、
はじめの価値観がひっくり返るには、一度死ななきゃならなかったのだろう。
それほどの価値観の強さが、堀さんの台詞にはあった。
だからハカナ町の哀しさが際立つのだ。









デッドストック・トーキョー

デッドストック・トーキョー

キコ qui-co.

駅前劇場(東京都)

2020/01/23 (木) ~ 2020/01/26 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/01/25 (土) 19:30

和服の着こなしも粋な和尚、じゃなくて噺家が狂言回しとして登場。
4つのストーリーをつなぐキーワードは“記憶媒体くしび”。
極めて現代的なそれは、意外な物質だった・・・。
SFと江戸噺の融合という着眼点が新鮮。
そこを貫く“記憶媒体”の生々しさが強烈な印象を残す。

ネタバレBOX

第一話「その夜の妻」
夜野(森田陽祐)は車いすの妻(外村道子)と廃ビルで暮らしている。
道子は、彼が密かに研究を重ねて創り出した違法なAIだった。
だがまもなく、特定の製造年月日以前のヒューマノイドは
寿命を終える日が来る。
世間はアップデートに躍起になっている。
そしてこの夫婦にもその日がやって来る。
寿命を終えて動かなくなったのは・・・夫の夜野の方だった。
夜野の意思は、道子の意思を反映したものに過ぎなかったのだ。

人は「言って欲しい言葉を相手に望む」ことがある。
望んだ言葉を言ってくれると幸せを感じる。
だがAIにそれを言わせることは、本当の幸せなのか?
動かなくなった夫の姿が衝撃的で、妻の孤独が深まる。

第二話「デッドストック・スタージョン」
姿かたちは十分大人だが、知性は15歳のクローンたち。
新しく赴任して来た女性教師が、「クローンに教えることなど無い」と
上司から言われながらも彼らと交流し、助けたいと奔走する。
クローンたちの多くは作家の名前をコードネームとして名乗るが
“お七”は、あの八百屋お七を思わせる設定だ。
火事の避難所で出会った男に、もう一度会いたくて、
江戸の町に放火し、火あぶりの刑に処せられた女。
お七の生きざまにどうしようもなく惹かれるクローン。
ラストで明かされる、彼らの身体がほとんど水でできており
東京の水不足を補うためにストックされているという設定が秀逸。
ちょっとカズオ・イシグロ的なところもあるが斬新な発想がとても魅力的だ。
スタージョン(北川義彦)の15歳の若者らしい初々しさが良かった。

第三話「東京物語」
運び屋の原嶋(音野暁)は、「くしび」という怪しげな物を運ぶ依頼を受ける。
依頼主のシングルマザーに惚れてしまった彼は次第に彼女と親しくなっていく。
その依頼主チロの住む近隣では、連続殺人事件が起こっている。
チロを取り巻く人々、元亭主・その新しい女・迷惑な姉など、
チロにとって消えて欲しい人間は複数いる。
そしてついに原嶋が、チロの正体に気付く日が来る。

第四話「twilight valkyries」
当日パンフにも“シークレット”とされていたが、
八百屋お七(小口ふみか)が江戸の大火を引き起こす様を描く。
二役からお七に替わっていくあたり、役者さんの力を感じた。
ストーリーテラーの小栗剛さんもそうだが
着物の着付けがきれいで、こなれた感じが良かった。

「くしび」とは何か・・・?
霊的な、不思議な物とされるようだが、人の血に乗って
時代を流れ災いをもたらす、何かコントロールし難い狂気のようなものか?
お七を狂わせ、チロを狂わせ、連綿と続いて行く不思議な力。
どんなに科学が進んでも、解明し難いことが起こり、
人はそれに翻弄され、時に人生を狂わされるという事か。








鶴かもしれない2020

鶴かもしれない2020

EPOCH MAN〈エポックマン〉

駅前劇場(東京都)

2020/01/09 (木) ~ 2020/01/13 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/01/12 (日) 14:00

2014年にも観た作品だが、その進化のエネルギーに圧倒された。
創意工夫と緻密な構成、そしてラジカセとの完璧な掛け合い。
後半の一人二役の切り替えも見事だった。

ネタバレBOX

凹凸のあるメタリックな壁、椅子がひとつだけの舞台。
路上で泣いていた女にティッシュを差し出した男の家に
女はお礼に「何でもします」と訪ねていく。

キッチンで料理を作るシーンの軽快な動き、
壁だと思っていたら次々と出て来る仕掛け。
劇場の個性と見せ方の工夫で芝居が何倍も楽しくなる。

「つるのおんがえし」の朗読が流れ、それに沿って物語は進む。
昔話の鶴は自分の羽を抜いて布を織ったが、
現代の鶴は自分の身体を売って金を稼ぐ。

女は男の夢を叶えたいと思ったのだが、他の方法を知らない。
全てを知った男が去ったあと女はひとりつぶやく。
「あたしの足を引っ張るのはいつもあたし」(という意味だったと思う)
どんなにもがいても、元の場所に戻ってしまう自分を自虐的に見ている。

終盤、全身全霊で機を織る姿に思わず涙がこぼれた。
この必死な姿を描くために、物語はあったのかと思うシーンだった。

あらかじめ録音しておいた音源に合わせて台詞を言うのは
その容赦ない進行という点で、心理的に緊張を強いられると思うが
それを全く感じさせず、まるで小沢さんがリードしているかのよう。

自分でハードルを上げつつ毎回乗り越える。
2020のエポックマンに幸あれ!

五稜郭残党伝

五稜郭残党伝

温泉ドラゴン

サンモールスタジオ(東京都)

2019/12/11 (水) ~ 2019/12/19 (木)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/12/15 (日) 13:00

スピーディーな場転でテンポよく進み、歴史と仕組みを上手く説明してくれる。
主人公と一緒にそれを理解することで、彼の“逃げる目的”の変化に気づく。
逃げる側のキャラが最高に魅力的で、一緒に逃げているような一体感の中で観た。
追う側の人物像も立体的なのでストーリーの厚みが増す。
この国はいつもこうして失敗してきたのだ。
“ざんねんな”国の理不尽さに血が煮えたぎった2時間5分。

ネタバレBOX

戊辰戦争の終末期、「箱館戦争」の後日談だとういうこの作品は、
降伏が決まった直後に五稜郭から逃げた“脱藩者”二人の逃走劇である。
冒頭、二人が脱藩を決意して一緒に逃げようと決めるまでが簡潔で見事。
一気に惹き込まれて、後は行く先々で助け助けられ、いくつもの出会いに
観る側も転がるように巻き込まれていく。

二人が出会うのは皆「生きる場所が無い」隠れるように暮らす人々だ。
生きる場所を失った者同士、共感して行動を共にし、命を懸ける。
アイヌの人々、隠れキリシタン、混血・・・、皆繋がり、信頼し、危険を冒す。
次々と命を落としていく人々の無念を思い、脱藩はやがて新しい夢へと方向を変える。

一方追う側は「生きる場所」こそあるものの、それにしがみつき、もがいている。
「その先に何があるんでしょうね」という荒巻(佐藤銀平)の台詞に象徴される、
目的を見い出せないまま走り続ける疲労感がひしひしと伝わって来る。
目的の無さを振り払うように、がむしゃらに追い続ける彼らもまた痛々しい。

追いつめられながらも前向きで、強く真っ直ぐな蘓武源次郎(いわいのふ健)が素晴らしい。
次第に夢のような構想をいだき、しかし現実には遺書を残す冴えた頭脳を持つ男。
蘓武を信じて共に脱藩する銃の名手・名木野勇作(五十嵐明)、
二人と行動を共にするアイヌのシルンケ(筑波竜一)、
彼らを狂ったように追い続ける隅蔵兵馬(阪本篤)のキャラが秀逸。

「お前は逃げろ、クナシリで会おう」と言われながら、
やはり戻って源次郎の最期を見届けるヤエコエリカ(サヘル・ローズ)が
ラストシーンに相応しい力強さを見せて思わず涙があふれた。
源次郎の遺書を見つけ大音声で読み上げる。
この無念と希望こそが、作品を貫く大動脈であると思う。

こんなに悲劇的な結末を、終わってみれば“冒険活劇”に仕立てたのは
原作者・佐々木譲氏と脚本・演出のシライケイタ氏の力に他ならない。
まさに、“創り手の矜持”だと感じた。



死に際を見極めろ!Final

死に際を見極めろ!Final

ライオン・パーマ

駅前劇場(東京都)

2019/12/11 (水) ~ 2019/12/15 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/12/13 (金) 14:00

finalと銘打っているだけあって、昭和の刑事もの”全部のっけ”みたいなてんこもりストーリー。滑舌の悪さも噛み、いや神対応で乗り切る百獣の王の力技は健在。ボスの声、素敵。と〇やの羊羹と「曲選べるのか?」に笑った。

ネタバレBOX

最高の殉職シーンを求めてさすらう刑事スリム(石毛セブン)が巻き込まれる
ひたすら荒唐無稽な世界観を描く。
そこには台本はあって無きが如し。

久しぶりに観た“石毛”が相変わらずトレンチコートが似合う
イケメンで嬉しかった。

ボス(岩田智世)の声、艶やかな低音が素敵で、場が締まる。
昭和のTVドラマを体現する個性が素晴らしい。
この方の他の芝居も観てみたいと思った。

イザベル(山根愛未)も往年の大女優を彷彿とさせる存在感で
荒唐無稽なストーリーに重みが出る。

母(瀧澤千恵)が巧くて北海道シーンが面白かった。
明るいニート(草野智之)のキャラが良かったなあ。

とらやの羊羹の使い方が(使いまわしも含め)秀逸。
宇宙に支店が出来たというのも笑える。
あの紙袋は、まさに昭和のブランド感を醸し出している。

小ネタでつないで広げていくにはちょっと長いかな。
2時間ドラマくらいの長さが昭和的だと思う。

殉職シーンを追及するなら、スリム自ら爆弾を持って
宇宙とかに行ってほしかった気もするけど。
でも、ラストシーンが決まって良かったね、スリム!


酔いどれシューベルト

酔いどれシューベルト

劇団東京イボンヌ

小劇場てあとるらぽう(東京都)

2019/11/27 (水) ~ 2019/12/01 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/11/28 (木) 14:00

悪魔と天使というメンタルの葛藤と、リアルな経済事情とのバランスが面白かった。後半の緊張感溢れる展開の方が作者の本領発揮、という気がする。悪魔が大変魅力的で、シューベルトならずとも誘惑に負けるだろうと思わせる。生歌・生演奏でなくても、テーマは十分伝わると感じた。

ネタバレBOX

31年の人生で600曲の歌曲を作ったシューベルトの苦悩・・・。
舞台は場末の酒場。
酒樽のテーブルが2つ、その傍に椅子が2つずつ、カウンターと酒瓶の棚。
曲が作れなくて酒浸りのシューベルト、
それを見守る幼馴染のクラウディアは、病気の父親と弟妹の為
成金のバロンと結婚することを決意する。
曲も作れず、クラウディアも失い、失意のシューベルトは
ついに悪魔と取引をする。
その内容は、必ず売れる曲1曲と、寿命1か月を交換するというものだった・・・。

物語は、美しいラストシーンに向かって後半に集約される。
シューベルトは、悪魔との取引によって得た成功の後、
真の苦悩に苛まれることになる。
自分の才能ではなく、悪魔の作った曲で成功したことが
彼を絶望へと追い立てる。
加えて悪魔から、残りあと1か月の命と告げられて
取り返しのつかない過ちを悔いる。

シューベルトが息を引き取る前、クラウディアが彼に告げる言葉が
物語の全てを語っている。
「悪魔も天使も、あなたの心の中にいる。
だから作品はすべてあなたが作ったものだ」
人生の最期に、彼を救う言葉だ。
この美しいラストシーンに向かって転がる後半に
クラシック音楽と演劇の融合を感じた。
作者の持ち味も、後半は自然に出ていると思う。

キャラクターの中では悪魔(米倉啓)が出色。
魅力的で、これなら誰もが誘惑に負けるだろうと思わせる。
力のある役者さんがキャラにハマって素晴らしい。

劇中、もっとたくさんシューベルトの作品が流れても良いと思った。

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