白が染まる 公演情報 演劇企画集団Jr.5(ジュニアファイブ)「白が染まる」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2022/08/09 (火) 14:00

    膨大な台詞量と切羽詰まった感満載の人間模様で
    観ているこちらが疲労感を覚えるほど「正義」と「現実」の間を引きずり回される。
    役者が身も心も痩せるような芝居の醍醐味を堪能した。

    ネタバレBOX

    ●~〇~●以下ネタバレ注意●~〇~●

    冒頭、何かを相談に来ているヒトミ(高野志穂)の逡巡する様が
    かなりの時間を割いていて、この時間にどんな意味があるのだろうと思って観ていた。
    事の重大さはこの後語られていく・・・。

    看護学校を卒業後10年ぶりに再会した4人は
    リーダー格のジュンコ(紺野まひる)に引っ張られるように、
    同じ職場で再び“友だちの絆”を深めていく。

    夫のゴウ(奥田努)の浮気と借金に苦しむヒトミは、
    ジュンコから「そんな男は殺すしかない」と言われる。
    政界にも警察にも顔が利く“先生”に金を払えばすべて解決するというのだ。
    ミユキ(罍陽子)もカズコ(山崎静代)も、先生のおかげで救われたのだという。
    追いつめられたヒトミは3人の協力を得て、看護師ならではの巧みな方法でゴウを殺す。

    他の3人をコントロールする力を次第に強めていくジュンコ。
    次はミユキの母を殺すしかない、と持ちかける。
    同じころゴウの浮気相手とされたスナックの女性(大嶽典子)がヒトミの元を訪れ、
    夫はスナックの女性と浮気などしていなかったことを知る。
    ジュンコの言動に不信感を抱いたヒトミは「先生に会わせて欲しい」と告げる。
    いつもの強い調子で“友だちの絆”を持ち出すジュンコだが
    ヒトミは3人に背を向けて立ち去る。
    そして冒頭の警察署内の場面に戻る・・・。

    1998年に起きた「久留米看護師連続保険金殺人事件」を題材にした作品。
    金のために、追いつめられた人々をターゲットに保険金殺人をさせる、
    その説得が「私たち友だちでしょ」という中学生のような台詞であることの異様さ。
    居もしない“先生”の存在を信じてジュンコに金を渡す従順さ。
    やってもいない浮気や、その浮気相手の夫が自殺して訴えられている、という
    デタラメを信じる盲目的な心はどうして生まれるのか。
    追いつめられた結果、信じるべきものを見あやまる心理が今一つ弱い気がするが、
    それよりもジュンコの強い、恫喝に近い説得や高圧的な態度が
    事件の核心であるという描き方のように思われた。
    その説得力を体現するのは、紺野まひるさんの他を圧倒する台詞と目力だろう。
    華奢な身体からは想像もできないような“欲にかられた強引さ”を放ち、
    時に罵倒し、時に猫なで声で3人をコントロールする様は見事。

    ラスト近く、別居するジュンコの夫(大村浩司)が見せる
    悲しみの色が、胸に迫るものがあった。
    ジュンコを守りたいと思ってきたのに守れず犯罪に手を染めさせたと思うのか、
    自分もいずれ殺されると思うのか、せめて自分が死んで償おうと思うのか、
    その複雑な心境はいかばかりかと思われた。

    浮気と借金で結局殺されてしまった夫を演じた奥田努さん、
    自分勝手でいい加減で、人の信用を得られない酔っぱらいが最高に巧い。

    カズコを演じた静ちゃん、いい感じに馴染んでいて少し驚いた。
    キャラを活かした役どころで、横暴な人に従ってしまう、
    横暴な人をさえ追いつめずに助けてしまう優しさを体現している。

    奇しくも私は2019年9月に、この事件を題材にした
    オフィスコットーネの「さなぎの教室」を同じ駅前劇場で観ていた。
    人間の普遍的な“欲”を描いて、どちらも秀作だと思う。
    それにしてもジュンコ、すごいキャラだな、作家が書きたくなるのも肯ける。







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    2022/08/10 01:59

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