5seconds 公演情報 パラドックス定数「5seconds」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    実話をもとに構成された、緊張感溢れる舞台
    見始めたのが最近なので、まだ数本しか観ていないのだが、パラドックス定数にはいくつかの顔があると思う。
    そのうちのひとつに「史実(実話)をもとにして、物語を構成する」というものがある。『東京裁判』がそれだ。
    今回の『5seconds』は、まさにそれであり、日航機羽田沖墜落事故がその題材となっていた。

    2人芝居。1時間40分。まったくダレることのない、緊張感溢れる舞台だった。

    ネタバレBOX

    日航機羽田沖墜落事故は、いくつかの流行語が産まれたように、マスコミに大きく取り上げられ、騒がれた事件である。
    それを、パラドックス定数の視点から観客に見せてくれた。
    事件後、事件の性格から機長の名前は伏せられたが、ここではきちんと実名にしている。

    舞台は警察病院の1室で、数日にわたり、羽田沖に墜落した日航機の機長が、弁護士に接見を受けるという設定。
    机には電話1台。2人は向かい合って座る。
    観客はそれを取り巻くように2人を見つめる。

    弁護士は当時、機長には責任能力がなかったとして無罪にしたいと考えている。
    機長には心身症がある。しかし、その病気では無罪とすることはできない。

    機長は猜疑心の塊となって、弁護士に対峙する。
    弁護士は機長のことを、そしてなによりも事件の真相を知りたいと思うのだが、機長は心を開かない。
    機長の言葉には不穏な空気が混じりはじめる。明らかにおかしい。
    事件の真相は? 「5秒間」に何が起こったのか? そして、墜落させるとき、機長は何を思って操縦桿を握っていたのか? 

    明るい室内で観客は役者2人を取り巻いている。
    つまり、観客同士の顔もわかる。
    また、内容も内容なので、緊張感は凄まじい。
    正直、身体をちょっと動かすのにも緊張してしまうほど。だから、ポップコーン片手に観劇なんてまったくできない(いや、普通の演劇でもダメだけど・笑)。
    しかし、役者の後ろにいる観客の顔さえ消えてしまうような瞬間があるほど、集中して観てしまう。
    単なる緊張感ではない、緊張感の作り込み方がうまい劇団だ。

    この設定は、この舞台では成功していると言っていいだろう。役者2人に観客の緊張感が注がれ、それが観客にフィードバックしてくることで、さらに芝居としての緊張感が高まる。もちろん緊張させることだけが舞台の主眼ではないのだか。
    そして、いいタイミングで緩和もある。役者が舞台からはけ、脇に行くというところがあるのだ。時間の経過を表しているのだが、それはとてもいいインターミッションとなっていた(観客は、ほっと息を吐いたりするのだ・笑)。

    ほとんどの座席では、役者の一方の顔しか見ることができない。
    時間の経過ごとに席を入れ替わってくれればいいなと思っていたのだが(両方の表情が見られるので)、ラストのシーンでそれをやってくれた。
    さすが! と思った。観客のことをきちんと考えて演出をしているということだ。こういうセンスがいいのだ。

    2人の役者は、その役柄として冷静な弁護士(井内勇希さん)、感情の起伏がある機長(小野ゆたかさん)のコントラストが良く、やはり2人の表情が見られるのはとてもいい。

    2人の会話は最初から機長がイニシアチブを取っており、後半になるごとに、それに弁護士も巻き込まれていくという細かさがなかなか。
    この舞台環境では、役者も逃げ場がない。その中で、これだけのクオリティで演技を続けるというのはどれほど大変なことか、想像を絶する。
    しかし、2人はそれを見事にこなしていた。大拍手モノだ。

    そして、ラストシークエンスの展開はとにかく素晴らしい。350便の墜落までの様子を、順を追って追体験させていく。もうゾクゾクする。畳み掛ける感じ、そしてラスト。
    ある意味、事件の真相に大胆な仮説が繰り広げられ、刺激的である。
    史実(実話)と虚構(解釈)のバランスが絶妙な瞬間であったと思う。

    個人的には、機長はもっと淡々としていて、感情があまり表面に現れていないほうが、ラストの展開がさらに衝撃的に感じたのではないだろうかと思う。
    つまり、今回の設定とは逆に、熱血弁護士と冷静な機長の対峙ということだ。
    さらに言うと、もう1歩突っ込んでほしかったなとも思う。もちろん、それはとても素晴らしい舞台だったからこそ、もっと、もっとと思ってしまうからだ。


    全員にかどうかはわからないが、入場のときに「うどんですかい」シリーズのカップ麺(小)のプレゼントがあった(日航だから)。チケットも搭乗券風。しかし、350便は墜落したんだよなあ(笑)。

    そして、今回の企画のもう1本への期待が、もの凄く高まっている。

    0

    2011/03/10 08:57

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大