サザンカの見える窓のある部屋 公演情報 カムヰヤッセン「サザンカの見える窓のある部屋」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    気づきの瞬間、肌に振動を感じた
     近未来の日本の地方都市を舞台に、ある科学者とその家族らの数日間を描きます。ヒトの記憶をめぐるSFで、設定をわかりやすく説明してくれるので難解さはありませんでした。

     言葉の意味や感情に忠実なタイプの演技方法ですが、セリフの背景となる過去の事実や現在の気持ちなどがはっきりとせず、役者さんの演技の精度の低さが気にかかりました。例えば若い夫婦が私には「夫婦」に見えづらかったです。あとは舞台中央奥に可愛い花(サザンカ?)があるのに季節が肌では感じられなかったり、出演者5名(=登場人物5名)以外の人々を想像しづらかったり。
     でも、装置と演技が一変するクライマックスの場面が素晴らしかったです。その一瞬間のためにこの作品があったと思っても、不満はないぐらいでした。

     折り込みチラシを挟む紙(帯と呼んでみます)が劇団手製のものでした。作り手、観客、そしてチラシそのものも大切に思う気持ちを受け取りました。ひょっとこ乱舞の手製帯もパンチが効いていてかっこいいですが、カムヰヤッセンの帯は穏やかな優しさが伝わってきますね。その精神が作風にもあらわれているのだなと思いました。

    ネタバレBOX

     ICチップを体(首の後ろあたり)に移植し、記憶を脳にではなくチップに入れることができるようになった近未来。息子と2人暮らしの研究者は自分だけでなく息子にもICチップを装着させています。2人の家を訪ねてきた夫婦の夫の方は、実は研究者の長男なのですが、ある事情で研究者(父親)およびその息子(次男)の記憶から、存在自体が消去されていました。鍵は舞台には登場しない、死んだ(いなくなった)母親が握っています。長男は自分のことを思い出してもらうため、妻とともに対策を練りますが、スムーズには行きません。

     父親の記憶が復活する瞬間は、偶然にやってきました。食事をする際、長男は口を開いたまま噛むので、くちゃくちゃと音がするのです。父親は我慢できず「みっともないからやめろと言っていただろ!」と叫んで、覚醒。父親の気づきと同時に、天井から吊り下げられていた子供用のおもちゃやランドセル、絵本、ぬいぐるみなどが一気に床に落ちました。やっと父と子としての再会を果たした2人の体は震え、驚きと喜びに満ちています。装置がダイナミックに変化し、俳優が感情をフルに使った演技を見せ、奇跡の瞬間を実感のあるものにしていました。思わずホロリと来ちゃう名場面でした。

     チップ内の記憶を再現する場面は、謎解きの要素もあって面白かったです。家族の愛憎を描いたシンプルな物語なので、例えば過去と現在を同時進行させたり、客席に向かって独白をするなどの、実験的な演出も成立しそうだなと想像しました。

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    2011/03/09 11:55

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