サザンカの見える窓のある部屋 公演情報 カムヰヤッセン「サザンカの見える窓のある部屋」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    劇団の力量がしっかりと伝わる
    ちょっと複雑な物語も
    すっきりと伝わってきました。

    キャラクターの伝わり方が
    とてもしなやかで、
    それゆえに、
    物語のコアとなっている「記憶」の形状
    鮮やかに観る側に訪れました

    ネタバレBOX

    劇団員だけの舞台、
    登場人物は5人。

    物語は、現代をすこしはみ出した
    近未来の態で描かれていきます。
    記憶をチップに収めるという
    今の技術ではありえないけれど、
    すいっと観る側に存在してしまう
    その仮定がまず秀逸。
    それを戯画化しての説明にも
    何かをシンプルに伝える手練が感じられて。

    しかも、チップ化という概念は
    次第に記憶そのものの確かさや危さ、
    さらには自らの記憶のありようや、
    そこに紡ぎこまれた恣意の姿にまで
    観る者を導いていきます。

    あたかもチップのごとく厳然とした記憶があって、
    その一方で記憶自体が
    抹消されたり改変されていく姿に
    人が自らについて積み上げていく物語の
    書き込みや読み込みの不完全さの必然が浮かび上がる。
    その絵姿や感覚に
    観る側が柔らかく深く閉じ込められてしまうのです。

    語り口がとても安定していて、
    決して単純な物語ではないにも関わらず
    内包されたロジックにそのまま惹きこまれる。
    コンパクトに観る側の掌のサイズに組み上げられ
    その中に彼らが共有する真実が
    しなやかにその場をうずめていきます。
    ちょっとした仕草をトリガーに
    天井に吊られた物たちがその場に降りて
    記憶がメインメモリーに蘇る刹那が
    驚愕にとどまらない
    インパクトをのせた切っ先としてやってきて。
    終盤のサザンカとボタンの散りゆく姿の比喩も
    観る側に語られた「記憶」の肌触りを
    すっと形に束ねて観る側においていく。

    様々な表現に込められたニュアンスの
    ひとつずつがほんと秀逸。
    しかもそれらが単発で訪れるのではなく
    重なりあって
    生きることの質感にまですら昇華していくのです。

    しかも、この舞台、
    役者たちの出来が本当によくて・・・。
    カムヰヤッセンの役者たちひとりずつが
    単にシーンを支え広げる筋肉のようなものに加えて
    空気の粒子を個々に染めていくような繊細な表現を
    しっかりと身につけていることを実感できました。
    客演などで鍛えられた側面もあるかもしれません。
    とにかく観る側がそれぞれのお芝居へと
    そのままにゆだねられるのです。

    父子の物語として、3人の男優がきっちりと
    個々のキャラクターを作り上げていきます。
    2人の女優は物語のなかでは
    傍系の位置にあるのですが、
    彼女たちの醸し出す空気が
    物語の枠や色をしなやかに編み上げていく。
    それぞれがそれぞれに映えるようなバランスのとり方が
    しなやかで、安定していて、ぶれない。

    初日ということで
    多少のギクシャクらしきものはあったものの、
    作品全体としてはまったくの許容範囲。
    作・演出の才能の発露に加えて
    劇団としての演じ伝える実力を
    しっかりと感じることができる舞台であったと思います。

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    2011/03/08 06:55

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