かわいいめいしゃ展 公演情報 sons wo: +ぽ・ぎょらん「かわいいめいしゃ展」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    あなたもわたしもここにはいない。
    まるですべてが白昼夢であるかのような作品を目指しているというsons wo:のポリシーが気になったので急遽観ることに。
    今回の公演は、ぽ・ぎょらんというアートユニットとの共作で、側面がガラス張りの近代的な三角形のギャラリーに一歩足を踏み入れるとゾンビや少女マンガ、ポップカルチャーなどがごった煮になったような、シュールでメルヘンちっく、それでいてちょっとグロテスクな人形、オブジェ、イラスト、マンガなどで満たされた空間が広がっていて、巨大なおもちゃ箱のなかへ入っていくような不思議な気持ちになった。
    はじまりのあいさつがあるととふわふわとしたドリーミーな気分は一転し、張り詰めた空気がながれこんだ。

    ネタバレBOX

    すべてに対して極めて客観的であろうとつとめる『めくら』の妻と、それを全力で受け止めようとする『めいしゃ』の夫のすれ違いが描かれていたとおもうのだけれど、不可解なのは対話をしているはずのふたりの姿がどこにも見あたらないように感じられた、という実体のなさだった。

    ざっくりいうと夫が妻の目の手術を施行する晩を起点にした『もしもわたしが○○だったら』の未来像が空想/妄想/夢想/回想交えて話しつづける妻とそれにひたすら付き合う夫、みたいな構図があったのだけれども、そんな仲睦まじい夫婦の静謐な情景は、ほたるの光のようにぽつぽつとう浮かび上がったかとおもうと雲隠れして。どれだけ言葉を重ねても、どんなに追いかけまわしても『あなた』も『わたし』もそこにはいなくて。夜は明けなくて。そればかりか時間は進んでいなかったかもしれないという疑惑は濃厚になって。すべてが泡のように消えてなくなるような儚さの余韻を残しながら、真実が煙に巻かれていくようなギミックなつくりになっていた。

    まるでだれかの意識下にひそむ深い闇にもぐり、どこからともなく聞こえる声に耳をそばだてくっついたり、はなれたり、すれ違ったりするふたつの影を追いかけて行くような感覚。
    触角をひっこぬかれて方向感覚を失った蟻のように無様に身悶えをする夫の痛烈な悪あがき。
    私の、あなたのほんとうの姿をみつめることに『めくら』になって、魂のゆくえをくらます健気で汚れを知らない天真爛漫な少女のような妻。
    そんなふたりの悲哀はお互いが異なる時空にいるかもしれないことを、予感させる。
    あるいは誰も、何も、ここには存在しないことを強調しているようで、けれども、誰かの何かの気配がかすかに残る空間に横たわる軋んだ声のうねり、その記憶は残された者の自意識に飛び火して、脳内を無秩序に駆けめぐるその交り合わないちぐはぐな感じは死者の魂が人間というかりそめの『器』に憑依した狐にそそのかされているように不可解な、しかし奇妙な説得力を帯びていた。
    そして誰でもない『わたし』という存在を持て余しくすぶるような苛立ちや、どこかにいると信じている『あなた』への慈悲深さがほんのすこしだけ触れ合う温度は『せつない』とも『せつな』とも判然しない熱量で迸り。
    決して感動したわけではないのに。どうしようもなく胸を焦がされた。
    (ひょっとしたら誰かに何かを伝えることの難しさ、語りきれないことの多さ、に感傷的になっていただけなのかもしれないけれど。)

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    2011/03/07 02:13

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