公演情報
TRASHMASTERS「「TOKYO SLUM」」の観てきた!クチコミとコメント
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/08/08 (土) 19:00
座席1階
綿密な取材の結果をよく練りあげた台本だと感じた。さすがトラッシュマスターズ。小劇場で展開する中津留ワールドは異彩を放っている。
舞台は都庁前の食料頒布の行列から始まる。拡大し続ける格差社会で、もはやホームレスだけではない、背広に革靴のサラリーマンや派手な衣装の若い女性まで列に並ぶという状況がスタート画面だ。最初、新宿西口近辺で段ボールハウスに住む高齢の男女3人が主役だと思ったが、実は、行列に並んだスーツ姿の若い男が物語の中心にいることが分かる。彼は人材派遣会社で営業職だが、派遣先で遅刻や欠勤する派遣社員の事情を聴き、新たな人材に差し替えるという仕事をしている。ある時彼は、遅刻を繰り返す中年女性の「事情」を聴き、派遣先企業での仕事ぶりが評価されていることから派遣会社の社長に遅刻の理由を説明し、派遣を継続してもらおうと試みる。
タイトルの「TOKYO SLUM」は象徴的だ。派遣社員や派遣会社の営業職員でさえ、個人的な厳しい経済状況を抱えてスラムのメンバーに落ち込むという主題となっている。新宿西口のホームレスたちをまとめる老人が「ここは誰もが来て、誰もが並んでよい場所」と言うが、一日の食事に事欠く人はもはや珍しくない。
今も新宿西口では大規模な再開発工事が進み、西口のバス停は工事に伴って移転を繰り返し、バス停へのルートが遮断されて大回りを強いられるなどの状況が正確に反映されている。現場の安全確保のための警備会社社員の人生も語られるが、例えば離婚した元妻子への送金など、それほど珍しくない「事情」がSLUMに引っ張り込まれる現実を、舞台は直視する。
終幕まで10分の休憩をはさみ約3時間の大作だが、長さを感じさせない。登場人物たちはきわめて普通の人たちで、その人生の描写には親近感がわく。社会保障政策は普通の人たちが何かのきっかけで困窮した時のセーフティーネットと言われるが、そのセーフティーネットで抱えられる人たちは一部であり、「自己責任」で生きざるを得ない日本の現実を、中津留は冷静な視点で描いていく。
舞台の救いとなるのは、「何かがおかしい」と派遣会社を辞めてホームレスに身を投じる若い男性の生きざまだ。登場人物たちに自分を投影し、共感し、劇場を出る。そんな意義ある時間となるのは確実だ。本日最終日。見逃すのはもったいない。