KUNIO08『椅子』 公演情報 KUNIO「KUNIO08『椅子』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    高揚にドライブがかかって
    しっかりと作りこまれた前半によって
    中盤以降の展開が崩れることなく
    文字通り観る側を巻き込んでいきました。

    終盤、その場の高揚は
    さらに、強く鮮やかに昇華して・・・。
    終幕にがっつりと取り込まれてしまいました。

    ネタバレBOX

    イヨネスコの戯曲が上演されるのをみるのは
    これが初めて。

    劇場にはいると左右に3列の客席。
    舞台に当たる部分の上方と入口にモニターが並べられていて。
    椅子が二つおかれたその場所で
    静かに物語が綴られ始めます。

    前半、老夫婦の生活の実感が
    しなやかな役者の演技からしなやかに満ちていきます。
    台詞や動きの一つずつが
    繊細な描写と絶妙な身体によるデフォルメで場を形成し、
    そこに暮らす二人の人生のあり方を浮かび上がらせていく。

    夫の仕事のこと、
    妻の夫への愛情、
    変わらずに繰り返される暮らしのこと、
    息子のこと、
    人生に満たされたことと、裏返しの後悔と・・。
    夫婦が一つに束ねられるのではなく
    そこにはそれぞれの想いがあって。
    だからこそ、夫婦の実存感にぐっとひきこまれる。

    そのなかで、夫が語るべきことがあり、
    伝えるために人が招かれる予定であることが
    次第に明らかになってきます。
    客人たちの前で
    夫のメッセージが発表されるという。
    そのメッセージはとても有意義で、
    大切なもので、
    それゆえに夫自身からではなく
    有名な弁士によって語られるというのです。

    そして
    愛情にあふれた、
    でもどこか閉塞した
    二人の空気が十分に満ちて、
    さらなる行き場を探し始めたとき、
    ほぼ素舞台であったその場所が
    一気に色を変える。

    突然ラップで演出家が現れて
    ブレイクタイムのような感じで
    段取りが定められて行きます。
    なんだろ、突然、
    今様の演劇マシーンが舞台に持ち込まれたイメージ。

    それでも
    場はなめらかにテイクオフをしていく。
    そして、客人のロールを持った観る側が舞台に導かれ
    演劇としてのその場所に客が訪れるのです。

    少しずつ加速度をつけて
    観る側が舞台の一部に取り込まれていきます。
    最初はひとり、
    呼び鈴がなって、また、ひとり。
    彼らは夫の旧知の人物にも思える。
    続いてカップルが訪れ、
    新聞記者の団体が現れ、
    妻はその場に並べる椅子を忙しく探し始めて。
    それは夫婦それぞれの記憶や想いが
    溢れだしていく姿にも思えて。

    さらに留まることのない来訪者に
    妻は椅子の調達に奔走し、
    夫は対応に追われていきます。
    映像や音が舞台の高揚をがっつりと煽り
    気が付けば舞台は並べられた椅子で満ち
    来訪者に満たされ
    立ち見が出ていることまでが語られ
    挙句の果てにはパンフレットまでが売られ、
    夫婦それぞれが互いの居場所さえ見失っていく。
    次第に加速度をつけていく
    狂騒とも思える状況に誘われて
    椅子に移動してみると
    坩堝の中でのしっかりした混沌がそこにはあって・・・。
    最後に皇帝が現れるに及んで
    その広がりの常軌の逸し方が
    まるでドタバタ喜劇を観るがごとく
    どうしようもなく滑稽ですらある。

    そこまでに場が満ちたなかに
    満を持して弁士が登場。
    舞台上での老夫婦の高揚は頂点に達して。

    でも、舞台の熱や、
    夫婦の死を引き継いだ弁士の言葉は、
    聾唖者の態で語られるのです。
    彼は一生懸命伝えようとするのですが、
    よしんば何かの想いがあることは伝わっても
    それは言葉として明確に伝わるわけではない。
    想いに加えての苛立ちまでが
    喧騒が霧散して静まり返った舞台に
    貫かれた表現で醸し出されて。

    その、どこかシニカルな風景から
    夫婦の天に召されたすがたが現わされていくのには
    ぞくっとなりました。
    弁士の想いが突き抜けて、
    明確な言葉へと昇華した刹那、
    観客に老夫婦のともに生きた時間の軽さと重さが
    ともに降りてきて。
    観る側が自ら過ごした、
    さらには自分が今過ごしている時間の軽重に
    重なっていくのです。

    初日ということでもあり、
    演じる側にも多少のとまどいはあったように思います。
    観客を導くあたりで空気が一瞬止まったり、
    ラストのシーンで弁士が表現の場を作るあたりに
    若干の躊躇を感じたり。
    とはいうものの、
    それは、きっと公演を重ねるに従って
    進化し解消していくことにも思えて。
    役者たちの演じる力の確かさを思いおこすにつけ、
    さらにいろんなベクトルに育っていく
    作品なのだろうと思います。

    観客の間でも
    それなりに好みが分かれるお芝居なのかもしれませんが・・・。
    すくなくとも
    私にとっては
    作り手の常ならない創意と
    役者たちの秀逸に
    しっかりと圧倒された舞台でありました。







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    2011/02/20 08:26

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