パール食堂のマリア 公演情報 青☆組「パール食堂のマリア」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    戦後、連合国軍将兵と娼婦(を含む日本人女性)との間に「GIベビー」と呼ばれる混血児が多数誕生した。連合国軍40万人の内、約10万人が横浜に駐留、土地と施設を大規模に接収した為、横浜出生の割合は大きかった。育てられない赤ん坊が横浜外国人墓地に毎夜棄てられ、当時の墓守りが個人で根岸外国人墓地に埋葬していたという。その嬰児の数、ざっと900体。運良く育てられても白人や黒人、一目で日本人でない容貌はずっと差別の対象とされ、「あいのこ」と蔑まれ生まれながらに不幸を背負わされた。

    舞台美術の濱崎賢二氏は凄いな。まるで童話の挿絵、しかも薄っぺらく嘘臭くない。この世界を成立させている。紙風船みたいな幾つもの外灯も美しい。

    テーマは「痛みと美しさ」。

    ネタバレBOX

    前回、『星降る教室』を観たが世界が綺麗過ぎた。優しい善人達の思い遣りに満ち溢れた透き通った世界。自分の世界ではなかった。今回もヨコハマメリーをモデルにしていると知ってちょっと不安。彼女について自分が知るのはほぼドキュメンタリー映画を観ただけだが。(ラストに老人ホームに入居中の本人の映像が映る衝撃。実は無許可の隠し撮りだったらしい)。かつて西浅草周辺のラブホにも老婆の立ちん坊が複数いて常連らしき老人客とホテルに入るのをよく見かけた。とても美しい話なんかではない。心の病んだ頭の壊れた浮浪者なんかそこらここらにいた。とてもメルヘンには成り得ない。自分もいつかこんな境遇に陥るのではないかとの漠然とした不安。他人事のような気がしない。痛みと恐怖。孤独な浮浪者の発するあの臭い。あてもなく西友の食品売場をうろつき、電話ボックスや公園のトイレに閉じ籠もり、嫌われ罵られ追い払われ一日中逃げ回っている。それは野良猫ともよく似ている。この暑さで野良猫が駐車場の車の下で鳴き声を上げて助けを呼んでいた。身動き出来ないようだ。エナジーちゅ~るを4本あげたが無事だったろうか?もっと何かするべきだったか?(※後日、無事を確認)。

    だが今作は好き。松本紀保さんの存在も大きいと思う。(開演前から立っていたが本人とは思わず、なんか似てるなと思ってた)。ああ成程、メリーの痛みが伝わってくる。

    一条さゆりをもじったストリッパー、小瀧万梨子さんが綺麗過ぎて恐い程。杉本彩にさえ見えた。何か魔法がかった感じ。
    ストリップ劇場の支配人、代田(しろた)正彦氏はヘタウマな味。この役作りは独特で癖になる。
    黒人の血が入っているのだろう紫音琉花さんも魅力的なキャラ。

    「パール食堂」の店主、藤川修二氏。亡き妻、松本紀保さん。店に全てを捧げ自分を犠牲にしてきた長女の福寿奈央さん。次女の土屋杏文(あずみ)さんは大学まで行かせて貰い教師になった。もう一人、死産した弟がいる。米兵に輪姦されて孕んだ子供。死産で外国人墓地に藤川修二氏が埋めた。松本紀保さんはずっとその子のことを夢に見る。どんな子だったのか?本当に死産だったのか?墓参りに行きたい。例え夫婦の間の子供ではなくても育てたかった。この痛みこそが今作を貫くテーマ。誰にも益しない産まれてくるべきではなかった存在について。彼等は悲鳴を上げる心の傷でずっと後を引くトラウマでどうしようもない罪悪感で···、その痛みはもう自分自身そのものだ。自分自身をどうにかして救いたい。抱きしめてやりたい。

    イタリア人ハーフの川尻アンジェロ氏は昔の知人に似ている。その彼もモデルだった。クレモンティーヌから習ったトマトを使った惚れ薬レシピ、賄いとして福寿奈央さんにそっと提供し続ける。

    野良猫のノワを演じる蓑輪みきさんがMVP。ゲイバーを経営するクレモンティーヌがノワール(フランス語の黒)を縮めて名付けた。冒頭、ふと魂を抜かれたように死んでしまったノワ。死んだ彼女がこの街について思い返す構造。(『焼肉ドラゴン』もそうだった)。ナナシの猫や福寿奈央さんと紫音琉花さんの少女時代他も兼ねて演じる。

    シャンソン歌手・永登元次郎をモデルにしたのか、エスムラルダ氏演ずるクレモンティーヌ。彼が死んでいった猫達の名前を一匹ずつ確かめるように口にするシーン。一匹思い返す度にその猫が確かにこの世に存在していたことを知らしめる。記憶の蝋燭が灯る。

    土屋杏文さんの受け持つ生徒、高校生の百武宏洋(ひゃくたけ・こうよう)氏は帰っても家に誰もいないので時間を持て余している。絵が好きでメリーや死んだノワをデッサンしたいと思う。世界は痛みと美しさで作られた結晶。とても残酷でとても痛く、それが故に涙が出る程美しくもある。ステッドラーの高級鉛筆、「マルス・ルモグラフ」(?)に憧れる。その母・大西玲子さんは女手一つで美容院を経営。何とか息子を大学まで行かせてやりたい。立ちん坊を罵倒し追い払う剣幕。だがこの態度こそが普通。弱い立場の者に優しく接してやる住民の方が変わり者。それがこの世界。

    同僚の教師・吉田智則氏と土屋杏文さんとが仄かに心寄せ合う日々の描写。

    メリーと猫の描き方に好感。断片を提示して物語を垣間見せ観客の頭の中で想像完成させる方法論。凄く良いと思う。逆に後半、水島家の物語ばかりが続き、比重が傾き過ぎたのは全体のバランスとしては勿体無い。ラストの佐賀県(?)から送られてきたクレモンティーヌの香りを嗅ぐ福寿奈央さんの表情はパーフェクト。他の終わり方がない。

    リュシエンヌ・ボワイエの「聞かせてよ愛の言葉を」やジャコモ・プッチーニのオペラ『ジャンニ・スキッキ』からアリア「私のお父さん」が使用されているようだが、何故か自分は映画『慕情』のサントラだと勘違いしていた。記憶の混同?

    夏に咲くピンクや白の花、芙蓉(フヨウ)。朝に咲いて夕に萎む一日花。生まれては死んでを繰り返す輪廻の花。また巡り逢おう。

    BLANKEY JET CITY 「ダンデライオン」

    夕焼けを見た 憶えているかい?
    屋上に座りオレンジ色を見た
    二人の間を流れてたあの風は
    今は何処を旅しているのか 空の下で

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    2026/07/18 23:45

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