煙の汽水域 公演情報 ムシラセ「煙の汽水域」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    三人芝居は鈴木(阿岐之将一)を中心に唯一の親友・宍道(池岡亮介)と女性(異儀田夏葉)の年代記(女性は一役ではない)。ある男の人生がその特徴的な断面を通して本質が焙り出される、といった趣向で書かれた脚本に見える。三名の人物特に鈴木の存在のリアル度(本質を射たと感じられるか)が評価に直結しそうだ。
    手練れの役者、己の見聞の範疇になかった人生模様の提起、面白く観た。吟味は後刻記してみる。

    ネタバレBOX

    不倫相手の部屋で焼け死んだ夫の葬儀から鈴木家の自宅に戻った母。見たくない母の代わりに息子が検死に立ち会い、黒焦げの父を見た。話題は学校時代の息子の友人に。「すすすーん」とした佇まいで一人キレイな姿が際立っていた・・と母は言う。母が風呂を浴びてる間にその友人である宍道が、ビールの入ったコンビニ袋を下げて訪ねて来る。もろオバサンの寝巻の母が出てきて驚きの対面も、年の差恋愛の要素よりむしろ息子の友人で居てくれて有難うの体。ぶー垂れながらも割り切った風の母と、感情に埋もれる事のない息子、父の影が元々なく母子家庭に見える。宍道は今回の事件を知らず、訪問の理由は友人の誕生日だった。事情を聴いて驚き、死体を見たという鈴木の内心をおもんぱかるように背中をさする宍道。平気な様子だった鈴木はそれにほだされるような表情を一瞬見せ、暗転。(この振りは、鈴木の「抑えていた感情」を引き出してやった宍道、と見せて実は、鈴木の側には慰めるべき感情が元々ない・・という所に帰着する。むしろ撫でさする宍道の行為が、伏線になる。)
    明転すると三十になった鈴木の誕生日、長年付き合った彼女から別れを切り出されて荷物をまとめる作業日となっている。二人の関係を知る、まだ友人の宍道もいる。宍道は完全に彼女の味方。仕事を理由に子どもを作らず海外出張もして会社での地位を確保する。鈴木にはそれが必須であった。煮え切らずに終わった鈴木を責める宍道だが、彼女の方はさばさばしている。数々付き合った中で彼女は一番風変りで鈴木には勿体ない理解ある女性だったのに・・。宍道がはけた後、なぜここへ来ての別れなのかが呑み込めていない鈴木は、宍道の剣幕に動かされるようにして、復縁を迫る。彼女は「もう十分話した」と言いつつ一応は耳を貸すのだが、結局仕事の都合で相手の希望には添えないという話に辿り着く。「ほらね」と彼女は十分悟った顔で去って行く。
    最後の場面は五十になった二人。鈴木は既婚者で、浮気相手の自宅にいる。だがここでも別れ話。自分を見てほしいと女は言い、ありきたりな展開に見えるが、鈴木の方は予想に違わず家庭内付和が進行して妻が出て行って別居が始まった所。これを「朗報」として伝える鈴木に相手は冷めている。「だから?」彼女が鈴木と「真の関係」を望んでいた事は読み取れるが、妻と別れて自分と一緒に・・というタイプなのか、結婚が叶わぬ関係でもよかったのか・・不明。鈴木は仕事優先でやってきたから妻にも出会え、この女にも出会えたと思っている口で、現在の状態を肯定している。宍道がまた訪ねて来る。誕生日のケーキを持って。この時宍道は鈴木への思いを伝えてしまう。気持ち悪がる鈴木・・薄っぺらな鈴木をなぜ宍道は好いてきたのか・・これも不明。だが阿岐之氏の風貌が、納得させてしまう。凡庸で世間の風に流され問題意識もない、だがその風貌が何か期待させてしまう、そういう人って居るよな・・。従って、なぜ長年付き合ったのに今別れるのか、なぜ不倫関係になって今このタイミングで別れるのか・・彼は相手の本質に対する関心がない、だから「私を見ていない」と思われる。それが理由。
    鈴木を見続けてきた宍道もその言葉を突き付ける。ある種の報い。何となく生きて、何となく終わって行く人生。唯一の友人の存在も大して有難がってはいなかった鈴木は、その存在にも去られた後、何かを考え始めるのか・・芝居は鈴木を「絶望」へ追いやっておらず、闇から覗く「光」も見えない。それは特殊なあり方ではなく我々の多くがそうしている姿でもあり、孤独を噛みしめて死に行く存在。鈴木のぼんやりと空を見つめる姿が、のしかかるような不幸に見えないのも事実。作者が描きたかったものが何かは分からないが、人間の断面を見た気はした。

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    2026/07/13 08:35

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