浮標(ブイ) 公演情報 葛河思潮社「浮標(ブイ)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 観劇。
    台詞をこれほど美しいものと感じたのは初めてかもしれない。耳に入ってくる台詞ひとつひとつに生命のエネルギーが宿っている。前日に観た「アンナ・カレーニナ」では音楽に震えたが、今日は三好十郎の台詞に震えた。俺泣きすぎだよ本当に。でもただただ泣くしかできないんだ。

    二村周作さんの美術と、小川幾雄さんの照明が秀逸だった。砂浜の上、ひとりの人影が左右にふたつ映し出される。まるで海の沖合で浮標が揺れるようにゆらゆらと、人が生と死との狭間を漂うように…。その境目は僅かな紙一重であるというのに、ひっくり返った瞬間にすべてが変わってしまうのだ。

    そして晒しの舞台上で負けなかった役者の根気に、何よりの拍手を。田中哲司に藤谷美紀、大森南朋の迫ってこんばかりの演技が身体に染み渡る。安藤聖は演技力こそ伸びしろがあるものの美しい声。しかし1日2ステとか馬鹿じゃないのかと本気で思う。観る方ですら憔悴する芝居だというのに。

    断っておく必要があるのは、激しい集中力を使うことで体力的に憔悴する芝居でありつつも、精神的には生命の活力がみなぎり溢れた芝居ということだ。生きて生きて生き抜くパワーが伝わってくる。倍の値段払っても全く惜しくない芝居に出会えるなんて、そうあることじゃない。素晴らしかった。

    最後に、パンフレットからの知識の引用となるが、一言書いておこう。幕末の国難を乗りきった一度目の奇跡、第二次大戦敗戦から復興を遂げた二度目の奇跡を我々日本人は経た。そして今、三度目の奇跡を果たすべく、未曾有の社会状況に立ち向かっていかねばならないという。まさに時代の過渡期にある。

    今こそ我々には生きることを強く願う意思が必要だ。執拗なまでに生の讃歌を歌い上げるのだ。戦渦にあった三好十郎が書いた台詞を、「生きて生きて生き抜け」という言葉を、後世の日本に引き継がんためにも。

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    2011/02/08 05:14

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