隕石 公演情報 SPIRAL MOON「隕石」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2026/06/12 (金) 19:30

     『―隕石―あるいは、主よ人の望みの喜びよ―』は選択の物語です。
    何か(それが形あるものでなければなお)を選ぶのはとても勇気のいることで、だからこそ自分とは勇気の結晶でもあって。
    今を生きる私たちはいつか辿り着くどこかに向かってたくさんの選択を繰り返しながら、各駅停車の旅を続けていくのですと言うように、CoRichやチラシのあらすじを読んだだけでは、かなり抽象的で、今時なかなか無いほどに、劇の内容が全然入ってこなかったが、それがむしろ、想像の余地を生み、怖いもの見たさも相まって、劇場に観に行った。

     1960~70年代のアングラ演劇やATG映画を観に行く観客の心境も、あらすじが大して書かれていないどころか、劇場やテントの近くをたまたま通りかかって、配っているチラシやポスターに惹かれて、その場限りの体験をしたのか何て、思いを巡らせると、心が自然とワクワクドキドキした。
     実際劇を観たら、日本の過疎化が極端に突き進んでいたとある地方に、隕石が落ちて、崩壊して、人々は、VRでまるで本当に旅行に行った気分になれたり、仮想空間で友達やご近所さんと話したりと気付くと自宅からほぼ出なくて生活が成り立ってしまい、その関係で、交通機関も殆ど動かなくて良くなり、電車も各駅しか止まらない上、その各駅も毎回本数が徐々に減る関係から、毎日駅の電光掲示板を変えるのが馬鹿らしくなり、スマホで駅に設置されたQRコードを読んで時刻表を確認する形式に変わったという、日本のとある地方の終末SF不条理劇だった。

     しかし、この劇が興味深いのは、完全なディストピアでも、ユートピアでも、独裁者が支配したり、AIに管理される社会でもなく、何かハッキリとした脅威がある訳でもなく、かと言って日常系SFほのぼのコメディと言う訳でもなく、劇全体や複数出てくる登場人物たちの会話に一貫性がなく、主人公の中年の女性が、この駅を出ようとするのを全力で止めようとする理由を駅員に聞いても、曖昧で、どこか論点をずらして、答えにならない答えしか帰ってこない。

     その他の劇の場面でのお兄さんと弟、その弟の奥さんの会話で、奥さんから、「あたし、離婚しようと思うの」と言う会話に対して、弟が理由を聞いても、大した答えが帰ってこず、会話がお互い一方通行で、噛み合わないというような場面が何度となく繰り返されることからも、この劇の脚本を書いた、劇作家が非常に別役実の不条理劇の作風に多大に影響を受け、リスペクトしているのではないかと感じた。

    ネタバレBOX

     劇に出てくる派手な服装で怪しすぎる空気感だが、自称財務局の布袋が、人の記憶を相続させて、その記憶を相続した人は、その人が生前体験する筈だった体験を、その人が病気や事故、自死等で体験できなくなった代わりに体験出来ると言うようなことを中年女性の榎本や奥様に強く勧めるのが出てきたりと、駅員含めて、にこやかで、時に親切にも思えるが、絶妙に不穏さを何気なく匂わせていたり、不条理さを漂わせる人物が多々登場し、露骨に分かりやすい悪人や、闇感が色濃い人物こそ登場しないが、どこから急に不条理な状況に置かれるか分からない、まさに、石の上に薄い板を置いて、その上に人が乗っかっているぐらい、グラついて不安定な場面も多く、それをほぼ、大したアクションを付けず、会話のトーンの細かな違いなどで表していて、その役者の演技力の高さに感心してしまった。

     似たような会話を延々と続けたり、相手と違う話を急に話し始めたり、そういった会話に重点を置いた、不条理で、時に皮肉も効いた笑いに、時に大いに笑えつつ、何ともなしに、時に背筋がす〜と寒く感じさせられたりといったバランスが、上手かった。

     このとある地方の町の駅に各駅しか止まらない上、本数が日々減らされているのは、少子化を抑えるため、この町に留まらせるため、また、人々があんまり家から出ない為、警察も要らなく、交番1つないと言うような世界で、細かいシステムのこととか町の外はどうなっているかとか、そんなことは考えなくて良いんです。今、幸せだったらそれで良いじゃないですか。そんな、考える必要なんてないですよと言うような駅員の言葉が、どこかナンセンスな筈なのに、どこかリアリティーも感じられ、ふと何とも言えず、怖く感じられた。

     自称財務局の布袋が、契約書の紙を実際にライターで火を付けて、燃やす場面が、その流れが、暗闇の中で燃やしているのだが、あまりにもさり気なくこなしていて、見事だと感じた。

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