ベガスペガサス 公演情報 やみ・あがりシアター「ベガスペガサス」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「賭場の熱狂に湧く群像劇」

     15階のロビーで周囲を一望し清々しい気持ちで会場に入ると、薄暗くルーレットのテーブルを模した舞台面を取り囲む客席に意表を突かれる。そこで始まった阿鼻叫喚の2時間、客席は湧きに湧いた。

    ネタバレBOX

     大阪の夢洲でカジノが建設された数年後の近未来、東京都北区の複合文化施設で本公演の上演会場である「北とぴあ」にもカジノができることになった。観客参加型演劇である「イマーシブシアター」の座付き作家である牧師シックスティーン(カトウクリス)は、新しくできるカジノの顧客に参加させる芝居を書き進めていく。夢洲からやってきたマーケター(小嶋直子)の指導もあり、カジノの役者たち(さんなぎ、二宮正晃、田久保柚香、林瑠之介)の芝居、いわば場を盛り上げるディーラーとしての仕事ぶりが日に日に向上していく。

     カジノができたことで北区の住民たちの生活にはさまざまな変化が発生する。育ち盛りの子どもを抱えるある家庭では、夫(薮田凜)が妻(加藤睦望)に呆れられてNISAの積立金の半分でルーレットに賭け、没頭するあまりカジノに入り浸ってしまう。妻に泣きつかれた警察官(河村凌)が中に入ろうにも、ディーラーたちに言葉巧みに言いくるめられる始末である。上司から預かった50万円をガールフレンド(安藤優)に預けたまま失くした若者(中川大喜)は、兄(北原州真)から金を借りカジノで取り戻すことに躍起になる。定職に就かない女性(久保瑠衣香)は、道端に落ちていたその50万を元手に、学生時代花札で鍛えた才覚を活かし着実に儲けを増やしていく。儲けるたびに「むなしいなぁ」と叫ぶ男(東直輝)に嬌声をあげる港区女子(久遠明日美)や、カジノの役者の一人のおっかけの女(五十里直子)も巻き込み、終わりの見えない賭場の熱狂は加速するばかりである。

     昨今争点にあがるカジノ建設にイマーシブシアターを掛け合わせた本作は、作者が腕によりをかけた台詞を出演者が活かした秀逸な群像劇である。金の流れがひとを変え、それによって浮かび上がる因縁によって身ぐるみ剥がされていく様は、さながら黙阿弥劇に通じる生々しい感覚であった。賭場の熱狂と周辺の人間模様を積み重ねながら進行する作劇は、前半の高いテンションに瞠目するも中盤以降同じ効果音と暗転・明転の繰り返しも相まってややパターン化しているようにも感じた。しかし終盤で賭博のやりすぎで酸欠状態で床を這いながらも賭け続けているあたりまで観続けているうち、ドストエフスキーの『賭博者』を読んだときに抱いた身を滅ぼす興奮を想起した。並行してオンラインカジノにハマる人物を描いたり、ギャンブル依存症とその克服についての知見が入ればより深い内容になったようにも思う。

     いっぱい飾りながら三箇所に出入り口を設けあるときはカジノに、あるときは夫婦の部屋にとスムーズな転換を実現したことで、空間が実に広々と感じられた。三方を客席で囲んだ舞台を緑色のテーブルに見立て、真ん中に立てた棒を軸に布状に設えた赤黒の回転盤を出演者皆で持ち、「べーガス ペガサス」と呪文のように唱えながらルーレットを廻し続ける様は群舞のような迫力である。群像劇の書き分けと各登場人物の造形、伏線の張り方もよく考えられていたが、終盤ではそこまで盛り上がらずカジノの撤退とともにもとの生活に戻っただけなのはやや物足りないと感じた。たとえば夫を賭博で失いかけた女性と定職に就かない女性の回想のくだりは、堅実な生活設計とその日暮らしの生き方の対比を描く意図とは思うがやや説明的だったように思う。

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    2026/04/29 20:51

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