メゾン・ド・ウィリアム 公演情報 劇団バッコスの祭「メゾン・ド・ウィリアム」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    現代劇もバッコスらしく
    DVD以外でバッコスの現代劇を観たことがなかったので、今回とても楽しみにしていた。ディケンズの「クリスマスキャロル」みたいな物語をシェイクスピアの味付けでやるのかな、と勝手に想像していたのだが、まるっきり違っていて、それでもいつものバッコスらしさは出ていた。
    抜群のチームワーク、アクロバティックな演技、感動的な結末。シェイクスピア好きとしては、終演後渡された解説文を読み、なるほど森山さんらしいなーと感心することしきり。シェイクスピアを予告文に書いたせいか、実際の劇を観て、関連性の薄さから不満を感じた観客もいたのではないかと思うが、これも趣向のひとつとして受け止めたい。翻案だけではない取り入れ方もあるという例で。1時間20分にまとめたことも評価したい。
    バッコスは着実に実力をつけてきており、安定感がある。ただ、回想場面ではこの劇団の初期のころのゴチャゴチャした未整理な印象を思い出した。
    もうひとつ、テーマに関して感じたことはネタばれで。

    ネタバレBOX

    今回、現代劇もののせいか、いつもに増して、1人1人の俳優に注目して観てしまった。
    客演陣が劇団カラーによく溶け込んでいるのがこの劇団の最大の長所。
    宇佐見輝の浪人生のオトボケぶりに愛嬌があり、笑いがわざとらしくならないのがいい。
    ボクサー志望の杉本仕主也はきっちりと役を作りこんでいる。
    丹羽顔負けの鮮やかな側転を見せる小宮忍にはビックリ。
    宝塚の男役のように口跡が鮮やかな探偵引野の古屋笑美が印象に残った。
    客演常連で、お母さん役を演じることの多い柿谷広美の占い師が新鮮だった。
    同じく常連の石井雄一郎は警官役だが、この人のコミカルな持ち味とキレのよい演技、存在感の強さにはいつも舌を巻く。
    教師役の上田直樹はいつもよりあまり目立たない役で少し残念。

    劇団員。
    いつもは凛々しい雨宮真梨のオーナーが少女マンガから抜け出してきたみたいに可愛い。
    稲垣佳奈美は回想場面の役の切り替わりが鮮やかで感心した。
    昨年から劇団員になった倉橋佐季は滑舌がいまひとつで、私にはまだ彼女の個性がみつけられないのだが、この集団で揉まれながら今後どう成長していくか楽しみ。
    今回の公演から正劇団員となった金子優子は「夏の夜の夢」のパックの役どころで、お披露目的なおいしい場面をもらっている。森山らしい配慮でもあり、出演者を脚本にどう生かしていくかをいつも念頭に置いているところは、橋田壽賀子・石井ふく子コンビを1人にしたみたいな人だ(笑)。
    金子は色の濃い役が似合う人だが、ほんわかした面もあり、今回はそれが出た。彼女が劇団員になってくれたことは心強い。
    ハムレットを思わせる公岡の丹羽隆博の個性の強さはいまさら言うまでもなく、素晴らしい運動神経と役の説得力で魅せる人で今回も見事な擬闘。立ち回りが往年の尾上松四郎のようで歌舞伎にもほしい人材だと思ってしまう。
    酒井役の辻明佳のすがすがしい笑顔を見ると、いつも「バッコスを観に来た」という実感が沸く。丹羽との息が合った芝居には今回もじーんとさせられた。辻のような雰囲気の俳優は昔は人情ものを得意とする劇団に1人はいたものだが、昨今では珍しい。

    いじめを受けて自殺した生徒が1人ではないため、回想場面の話と現在の場面が観ていてややわかりにくいことが難に思えた。
    何よりも公岡が、いじめをする側に反省が見られないからと言って、まるで必殺仕掛け人のように暴力で制裁を加えようとする筋立てには違和感があった。復讐というテーマがすんなりと自分には受け入れられず、いくら生徒を死なせたという自責の念にかられたとはいえ、暴力で解決するのでは教師の敗北でしかないし、救いがなさすぎる。そのへんの矛盾は、上田の演じる平良の台詞でも言わせ、公岡が罪を償うことを決意し、再会場面での酒井の言葉に救われることで補ってはいるが。
    最後に、公岡に協力した探偵の引野が共に出頭するとき、雪が舞う寒さなのに上着もコートも着ずに薄着で出て行くのもとても気になった。登場場面ではコートを着ていたはずなので、着せたほうがよい。
    違和感は感じたものの、観劇後それを上回る心地よさが残ったのは、森山さんの作劇の巧さと俳優たちのチームワークのよさだと思う。

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    2011/01/18 13:25

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