ガラパゴス 公演情報 キルハトッテ「ガラパゴス」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「ヒリヒリする笑いで身体の尊さを問う」
     
     性や身体を自身で決める権利「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(SRHR)」について扱うという惹句に身構えつつ観はじめたが、肩の力を抜き終始笑いの絶えない上演となった。

    ネタバレBOX

     婦人科のリカバリールームで目覚めたサチコ(吉沢菜央)は、看護師のナスノ(冨岡英香)に体調を気遣われるものの、これからバイト先の社員採用面接で着用するスーツを買いにいくのだと言って聞かない。戸惑うナスノに菓子の箱詰めを渡そうとベッドを出たサチコは、足が緑に変わり尻尾が生えていることに驚愕する。担当医のイシダ(村田天翔)は、サチコの下半身はイグアナになってしまったため、当面の間入院し精密検査を受けろと諭すのだった。

     まもなくサチコのパートナーのユキオ(奥山樹生)が見舞いにやってくる。旅行代理店勤務のユキオは、出張のためサチコの入院に立ち合えなかったことを詫びるのだが、二人の会話から、どうやらサチコは堕胎手術を受けたことがじょじょに詳らかになってくる。やがて静岡からやってきたサチコの姉アキコ(尾鷲翔子)が甲斐甲斐しく世話を焼くなか、イシダはサチコが島の病院に転院することが決まったと告げる。怯えるサチコに考える暇は与えられず、あっという間に転院を迎えた日にアキコの運転で港へ向かうサチコ一行だったが、アキコはナスノの制止を振り切り一路逃亡を企ててしまい……

     奇抜なアイデアと周到なセリフによって女性の身辺に起きた重大事をコミカルに描く本作は、男性優位社会における女性の生きづらさを鋭く突くヒリヒリした観応えである。サチコは言わずもがなだが、男性医師の言われるがまま他者に合わせることで生きてきたナスノや、妹が実家を飛び出て以来母との関係に悩んできたアキコの爆発、シングルマザーとして生きているサチコのバイト先の同僚ウオズミ(中嶋千歩)の苦悩など、さまざまな背景の女性たちの声を、サラッと重層的に描き出している。管理社会の象徴のようなイシダの自主性のなさや、パートナーの見舞い先で看護師ナスノのプライベートを詮索し、幽霊になってもなおサチコを脅かすユキオを観ていて身につまされる思いにもなった。出演者は皆適材適所で観ていて不安を感じなかった。

     通りを行き交う人々がなかを見る一面ガラス張りの水性の空間をうまく使い、サチコや女性たちの心情を可視化していた点も評価が高い。ナスノやアキコが強引にピルやみかんをサチコの口に含ませ、眠りにつくところで簡易な照明変化やBGMを流すあたりの抑揚の付け方もうまい。狭い空間を病室や車内、焼肉店などに見立ててスムースに展開することにも成功していた。ジュディ・アンド・マリーや浜崎あゆみなどのヒット曲を巧みに使い、特に後半の女性だけの道中を描いたくだりに作者の眼目があったように思う。ただし病院内の場面が続く前半と逃亡劇の後半のつなげ方がやや牽強付会で、別作品を強引につなげている印象を抱いた。

     下半身がイグアナに変わったサチコは肉や酒を食べると体が受け付けず戻してしまう。吐瀉物まみれのなか、それでもサチコが禁じられているタバコを吸い「生きてるー…」と感嘆を漏らす幕切れが今でも目に焼き付いている。

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    2026/03/16 21:40

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