一万円おじさん 公演情報 株式劇団マエカブ「一万円おじさん」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「『情』と『理』で仕事を考えるコメディ」

     渋沢栄一の『論語と算盤』をもとにした絵本『しごとってなあに?』を題材にした現代劇である。「絵本の劇場カメレオン」のこけら落としとして上演された。開幕前から地元住民と思しき観客が入口に集い、誘導スタッフが丁寧に応対する様子は見ていて心地のいいものだった。

    ネタバレBOX

     公園でひとり缶ビールをあおっているカナコ(宮本はるか)は、捨てようとしていた領収書を眺めため息をつく。すると「これが1万円やったらなあ」という天の声とともに、ダンボールを敷き長髪をバンダナでまとめた男(三嶋孝弥)が語りかけてくる。男はカナコのビールを「ワシの作ったビール」と自慢するとともに、自分は渋沢栄一であると嘯くのだからいよいよ混乱が極まる。

     警戒心を抱き続けるカナコに、男はカナコがいい人ぶろうとするあまりに仕事やプライベートで損をしていると指摘する。図星を突かれたカナコは、じつは先程まで友人と飲んでいたものの内心は楽しくなかったのだと男に愚痴る。やがてその友人ハル(小川晴菜)がカナコを追って姿を現すと、男の怪しい点を理詰めで次々に暴き出す。ハルはその場からカナコを連れ出そうとするものの拒み、そこから日頃の不満が爆発し大喧嘩がはじまってしまう。しかし翌日公園に缶ビールを携え現れたハルは、男にじつはやりたいことを愚直にやっているカナコに嫉妬していたという本心を明けるのだった。

     情にもろいカナコと理論派のハルの対照的な二人に対する男の指摘は、社会人生活を送ったものであれば誰しも身につまされることばかりである。絵本では社会や仕事への疑問を渋沢栄一に問うという構成を、渋沢栄一を名乗るがらっぱちなホームレスに問いそれに答えるとした点がユーモラスである。やや教条的になってしまった感は拭えないが、鋭い指摘や高邁な理想が空々しく聞こえず、ときにハッとさせるうまい作劇であった。すっかり男に感化されたカナコとハルが、男の身の回りの世話をしているという幸三(岡田敬弘)と交わすやりとりも、人を食ったようでおもしろい。

     ちいさい空間なのでもう少し声のボリュームは絞ったほうがよかったように思うが、出演者は皆作者が腕によりをかけたセリフをうまく響かせていた。終幕以外はほぼ無音の状態で舞台を進行させた英断が活きていたように思う。男を演じた三嶋孝弥は体当たりの怪演ところといったところだが、借りたハンカチをハルに戻そうとするも拒まれ、それをたたむ所作がやけに丁寧で笑いを誘われた。上演中でも客席同士が小声で語らい、子どもたちも熱心に、楽しそうに鑑賞し、こうした客席を許容する空間づくりを実現していた。

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    2026/03/10 15:20

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