海の凹凸 公演情報 serial number(風琴工房改め)「海の凹凸」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    初演の俳優座で岩崎加根子さんが演った石牟礼(いしむれ)道子さんをモデルにした役を竹下景子さんが演ずる。竹下景子さん72歳、未だ変わらぬアイドルのような輝きと可愛らしさは観客を唖然とさせる。1969年に出版された石牟礼道子の『苦海浄土―わが水俣病』はそれに触れた者達の人生を大幅に変えたルポルタージュ小説。大企業の垂れ流す公害と地域住民の受けた生涯に渡る地獄を宗教的叙情詩にまで高めた文学。

    杉木隆幸氏が演じた役のモデルは宇井純氏。東京大学都市工学科衛生工学コース助手の宇井純氏は公開自主講座「公害原論」を1970年より開講。実名で水俣病を告発した為に出世の道は閉ざされ、万年助手のまま冷遇された。(1986年、沖縄大学法経学部教授に招聘されるまで21年間)。
    川田希さんが演じた役のモデルは加藤タケ子さん。元ほっとはうす施設長、現「きぼう・未来・水俣」代表理事。

    1984年、横浜で市民学習会を開催している川田希さんはドキュメンタリー映画『水俣』(土本典昭監督)のフィルムを無償で貸してくれるという印刷所を訪れる。そこでは東大助手の杉木隆幸氏が一般市民を相手に公害をテーマにした公開自主講座を開いていた。場所を提供し印刷所に寝泊まりまでしてそれを支援する西原誠吾氏。丁度、『苦海浄土』の著者である作家(竹下景子さん)が上京するとの事でそれに参加してみる川田希さん。講座に集う者達の情熱と公害を必要悪と黙諾する日本社会の欺瞞を知り、のめり込んでいく。

    かんのひとみさんは膝上ミニスカートのいつもと違うキャラクター。
    西原誠吾氏の奥さん役の荻野友里さんが綺麗だった。もう少し物語に組み込んでも良かったと思う。

    遅発性水俣病という、ある程度歳を取ってから発症する人々が多数いる。それを水俣病とは認可しない行政との闘争。自分は関係ないと思って生きてきた人間がある日突然発症し当事者になる絶望。

    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    初演で一番衝撃を受けたシーンは安元栄司(志村史人氏)の夢に石邑美奈子(岩崎加根子さん)が立ち、告げる台詞。「仇をいつまで憎んでみても自分の苦しみが癒える訳ではない。こんな苦しみを抱え続けるのはもう嫌だから赦そうと決め、手を離したら心が軽く楽になった。他人の苦しみは何処までいっても他人のもの、自分のものにはならない。他人の苦しみや他人の歓びではなく、自分自身の歓びを。生きることはそれ自体が歓びであれ。」今回も強烈。(今回演じたのは西原誠吾氏と竹下景子さん)。

    自分的には初演の方が良かったような。今回はテーマが限定されてしまい中盤が退屈。市民運動組織の内部崩壊のようで描かれる世界が小さい。何故、水俣病運動に触れると人々の人生は変わるのか?そこが一番興味深い点。重要なのは石牟礼道子の綴る神話の語り部のようなこの世界への幻視。人間と世界とが対峙する全ての問題と答が水俣にこそあるのではないかと錯覚させる程、強烈。苦しみだけではなくその先にあるものすら感じさせる。
    「あねさん、魚は天のくれらすもんでござす。天のくれらすもんを、ただで、わが要ると思うしことって、その日を暮らす。これより上の栄華のどこにゆけばあろうかい」

    作家の興味は個々の生き甲斐に向いているのかも知れない。作品の重要な問い掛けに「何故チッソは有機水銀を垂れ流すことで住民が水俣病になることを知りながら排出し続けたのか?」「宇井純氏の研究は社会的に有意義で価値があると皆が知りながら大学内で冷遇され続けたのか?」というものがある。それが人間の本性か?それが人間の世界の当然の仕組みなのか?人間というものの見たくない正体。「大義親を滅す」の正体。何処まで行っても他人は他人でしかない。自分と他人の間に掛ける橋。もっと高レヴェルの人間観、人生観。死を超えたその先。

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    2026/03/02 18:48

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