公演情報
劇団俳優座「『100歳の少年と12通の手紙』『ベイビーティース』」の観てきた!クチコミとコメント
実演鑑賞
満足度★★★
『ベイビーティース』
タイトルの意味は乳歯。ミラは中学生なのにまだ乳歯が残っていてグラグラしている。
精神分析学の創始者、フロイトは生物が根源的に持つ生へのエネルギーの正体をリビドー(性的欲望、性衝動)だと定義した。全ての人間の行動の原理はこの変形に過ぎないと。(その後、晩年にフロイトはエロス〈生の本能〉とタナトス〈死の本能〉を提唱する。)
今作はそれを踏まえ、生きるということの表現に性欲を表出し解り易く提示。伊丹十三みたい。
オーストラリアのリタ・カルニェイによる2012年の戯曲、2019年に映画化された。映画ではミラは高校生にされている。
難病を抱える中学生のミラ(髙宮千尋さん)、精神科医の父親ヘンリー(脇田康弘氏)、精神が不安定な母親アナ(小澤英恵さん)。駅のホームで意識が遠のき鼻血を出すミラ。ベンチで見ていた薬の売人モーゼス(藤田一真氏)が自分の服で拭ってやる。「御礼という訳じゃないが少し金を貰えないか?」金目当ての半グレ。ミラはヴァイオリンのレッスン代50ドルを渡し「髪を切ってくれ」と頼む。
死を前にした少女の最初で最後の恋、ままごとのような。それにしても相手は屑過ぎた。父親も母親もうんざり。だがもう時間がない。猶予はない。「せめて娘を傷付けないで」とお願いするしかなかった。
余りにも小澤英恵(はなえ)さんが凄すぎ。「どうしてもこの役をやりたくて復帰した」とのコメントがあったがそれがよく伝わる。冒頭から落ち着きがなく躁鬱が交互に押し寄せる不安定な女性を表出。しかも一人娘は治る見込みのない死の病を抱えている。どうしたらいいのか分からない母親の苦悩。患者待ちの旦那に不意に性行為を求め、パンティを脱ぎ捨て服をはだけブラジャーだけになる。暴発する感情の制御が効かない。妙に性的魅力に溢れていて娘のヴァイオリン教師のギドン(河内浩氏)は下心を隠さない。怒濤のキャラクター像はまさに「ブレーキの壊れたダンプカー」。
異儀田夏葉さんに演技の感覚の種類が似ていると思った。原日出子や藤田弓子系の美人。この人の作品はもっと観てみたい。
※ゆで卵丸呑みは白身だけの奴を用意したのだと思う。
お隣に越してきた妊婦トビー(稀乃さん)はいつも愛犬ヘンリーを捜している。その妙な人懐っこさに隣家のヘンリーも悪い気はしない。
稀乃さんは辺見えみりみたいな美人。『カタブイ、1995』の沖縄防衛局職員だった!
いつもヘッドフォンを着けたまま夜遅くまで一人でうろついている少年トゥオン(長島安里紗さん)。高名なヴァイオリン奏者の方に特別出演して貰ったらしい。
ネグレクトのベトナム人移民設定らしいが判り辛い。
第二次世界大戦前後、ソ連による侵攻併合を受けてラトビア人難民の多くはオーストラリアに移民した。ヴァイオリン教師ギドンはそのラトビア人移民。演ずる河内浩氏は饒舌な吉幾三みたいな狂乱キャラに。ノリノリ。
今作の作家もラトビア系、父親がラトビア人移民。
藤田一真氏は『少年Bが住む家』の保護観察官役。今回は真逆の役を巧くこなす。内面を全く見せない男。キッチンで煙草に火を点け、小澤英恵さんに見付かり「家の中は禁煙よ!ここでは吸わないで!」が何度も繰り返される。
髙宮千尋さんはいつもぼんやりと何処かを見ている。目の前ではない何処か彼方を。
場内スタッフ、客席誘導員のスタッフとして清水直子さん、志村史人氏、斉藤淳氏···とは豪華過ぎ。全員主演クラスの看板俳優、世が世ならスーパースターだよ。恐るべし俳優座。