ある夜をめぐって 公演情報 パンケーキの会「ある夜をめぐって」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    『壊れたガラス』

    この演出家は要チェックだと思う。名取事務所の作品が好きな人は観ておくべき。配役がズバリで役者全員魅力的、照明への過剰な拘り、効果音の入れ方も繊細。チェロ奏者の中田鉄平氏が生演奏。ある台詞を切っ掛けに演奏が始まったり、作品と生々しく連動し空間を濃密に染め上げる。

    1994年初演、アーサー・ミラー78歳、晩年の代表作とされている。

    水晶の夜=クリスタル・ナハト。あぶらだこの「クリスタル・ナハト」を思い出す人も多いのでは。家族がドイツから追放され難民キャンプ生活となった17歳のポーランド系ユダヤ人青年がパリのドイツ大使館員を射殺。これをいい機会とヨーゼフ・ゲッベルスはユダヤ人社会への実力行使をナチ党員に扇動。1938年11月9日、10日にナチスの統治するドイツ、オーストリア、チェコスロバキアでユダヤ人に対する大規模な集団暴力行為が発生。267のシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)が破壊され、ユダヤ人の経営する7500軒の商店のショーウィンドウが叩き壊された。割れたガラスが国中の道路を埋め尽くし、月に照らされて煌めく。

    1938年11月、ニューヨークのブルックリン、裕福なユダヤ系アメリカ人夫妻。息子は米国陸軍士官学校に入学していてここにはいない。
    新聞にドイツのユダヤ人弾圧の記事。薄着のユダヤ人の老人達が歯ブラシで道路を磨かされている。這いつくばって。それを囲み嘲笑する群衆は厚手の外套をまとっている。彼等の罵声が確かに聴こえた。佐乃美千子さんは突然下半身が麻痺してしまう。原因不明の車椅子生活。夫の井上裕朗(ひろお)氏は医師の大原研二氏に紹介されて診察を受けさせる。医師の妻であり、秘書の岡本易代さんがお喋りで笑い上戸、爆発的に場を盛り上げる。医師は肉体的には何処にも異常が見当たらなかったと伝え心因的なものではないかと推測する。心当たりはないか?

    井上裕朗氏は住宅ローンブローカー会社のNo.2にまで上り詰めている。WASP(英国系白人上流階級)の仲間入りをユダヤ人である自分が果たした自負。息子もウエストポイントの唯一のユダヤ人だと誇る。だが本当はユダヤ人であることが嫌で自分自身のことも嫌っていて鏡も見ない。自己否定と繰り返す劣等感の補償行為。

    井上裕朗氏は後期氷室京介や梶原善、板尾創路を思わせる。とにかく熱演。会話の畳み掛けるスピード感。声がまた良い。妻を愛し崇拝し、それと同時に自分への当てつけで歩けない振りをしてるんじゃないかと疑う。妻の佐乃美千子さんは適役。その妹、豊田可奈子さんもしっくり来た。医師の大原研二氏も巧い。人間性が透けて見える。その妻の岡本易代さんも凄腕。柳原可奈子の爆発力。登場するだけで場の空気が盛り上がる。会長、ひのあらた氏も文句なし。宝田明みたいにダンディ。

    ネタバレBOX

    精神分析学の創始者、フロイトはヒステリー(解離性障害)の原因を抑圧された性欲だと分析した。今作の医師もそう予想して夫婦の性生活について尋ねる。井上裕朗氏は週2,3回と答えるが妻の妹の豊田可奈子さんはそれを否定する。直接、妻の佐乃美千子さんに訊くと出産して以来20年性交渉がないことを告白する。当時心配になった佐乃さんは自分の父親に相談してしまう。そのことを第三者に知られた井上氏は深く傷付く。

    実は性的不能の原因は妻への過度の崇拝であると井上氏は告げる。出産を終えた後、妻の横で眠るとまるで胎児になったような心地良さを感じたと。妻が性的対象ではなくなってしまったのだろう。

    惜しむらくはラスト前が混乱してしまっている。公演中に何度も戯曲を改訂し、芸術監督の頼みで1シーン追加したそうだ。それが医師と主人公の対話シーンらしい。「人間は誰しもが迫害されている。ヒトラーですらユダヤ人に迫害されている。」自身の加害性に目を向け相手を許すこと。そして自分をユダヤ人であることを許せるように。
    この辺の遣り取りが哲学的で作品と巧く噛み合っていない気がする。

    ブルーハーツ 「チェインギャング」
    世界が歪んでいるのは僕の仕業かも知れない

    自分もこの世界の加害者であることの自覚。じゃあどうすりゃいい?

    ※両面客席なので対面の観客が見えてしまう。居眠り客はやたら多かった。暖房のせいか?

    ※アーサー・ミラーはマリリン・モンローと撮影現場で出会い不倫、妻と別れ結婚。だがそれも長く続かず写真家インゲ・モラスと不倫し彼女と一緒になった。彼女との二人目の子供、ダニエルはダウン症で生後一週間で施設に送られた。妻は育てようとしたが拒絶する。アーサー・ミラーはこのことを生涯隠し通そうとして死後マスコミに叩かれた。今作の夫に崇拝される美しい妻にはマリリン・モンローの姿がだぶる。

    ※ステーキでビンタ。

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    2026/02/01 15:48

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