通る夜・樽水家の場合 公演情報 劇団芝居屋「通る夜・樽水家の場合」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い。
    説明にある通り、樽水家当主の故 勝利の四十九日 納骨式を行うまでの約85分をリアルタイムで描いた物語。この話には 大きな山場が2つあって、まず当事者同士の憎悪・確執による口喧、次に 自分自身の存在に苦悩する人物の激白によって、その場にいない人物の思いが立ち上がるよう。少しネタバレするが といってもキャスト6名は記されている。登場しない7番目の人物として故 樽水勝利の人柄なりが浮き彫りになってくる。始めの山場は伏線であり、激白した人物と人知れず寄り添った人物の思い、それが北国の しかも厳冬にも関わらず、心温まる話へ。

    始めの山場の後、一息ついたところで露天商組合長 瀬村五郎(作・演出 増田再起サン)が現れると、口喧していた者同士が「男なんて しょうもない」と共闘しだす。このコメディーリリーフ的な役回りを通して 次の山場に繋げる上手さ。人の機微を巧く表す役者陣、劇団芝居屋の真骨頂を覗くようだ。
    (上演時間1時間25分) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は、上手/下手に引き戸、中央奥にストーブ、その前(客席寄り)に大きな座卓と座布団の2セット。全体はシンメトリーで外では吹雪(または寒風)いているような音が寒々と聞こえる。また各人の年齢を明らかにし、関係した歳月の長さと 年齢相応の喜怒哀楽を表現しているよう。

    舞台は、大乗寺の本堂に通じる控えの間。11時から四十九日 納骨式が始まる迄の物語。故人 樽水勝利(行年79歳)の妻である辰子が早々にやってくる。その後 故人の長女 (水原)弘子が来て、母に父との馴れ初めを聞き始める。辰子は この街の売れっ子芸者で、父が通いつめ求婚してきた とまんざらでもない様子。そこへ亡き父と駆け落ちした愛人 森田裕子(還暦)がやってくる。驚いた辰子は裕子を詰り罵るが、逆に裕子は辰子の知らないことを言い出す。勝利は更年期障害で悩んでおり、裕子が気遣っていたと打ち明ける。そして男女の仲へ…。諍いの張本人が亡くなり 今更揉めても しょうがないと諦める2人。そこに辰子の気っ風のよい芸者ぶりが表れている。表層の丁々発止だけ観れば、この場面だけが山場のようだが…。

    そこへ村瀬五郎(80歳)がやってくる。女2人の口喧が収まり 一息ついたタイミングでの登場。故勝利の女癖 女遊びは村瀬が教えたことと 辰子と裕子が一緒になって責め立てる。それが「男なんて しょうもない」という呆れ文句。先の修羅場を和ませ 次に登場する人物の激白をお膳立てするかのような場面。

    最後に裕子の息子 森田幸助(24歳 市役所勤務)が仕事の合間を縫ってやってくる。納骨式が終わり次第 仕事に戻るため作業着に喪章をしている。彼は勝利と裕子の間に生まれた子、弘子(46歳)の腹違いの弟になる。辰子と裕子の間だけの問題で簡単に解決出来ればよかったが、自分が生まれたことで浮気事情が複雑になった。自分のせいではないが、それでも自身の存在に悩み苦しんできた と泣きながら激白する。故勝利は生前 弘子に腹違いの弟がいることを話し、彼女はそれとなく年の離れた弟の様子を覗っていた。故勝利の最期は誰にも看取られず孤独死。

    故人は、幼い息子(幸助)のことを心配し 腹違いの弘子に話してしまう。結婚する時の忠実(まめ)さ、女癖の悪さ その割に優しく謝り上手で ついつい許してしまう等、悪口とも惚気ともつかない会話で故人を偲んでいるような。登場しない人物の人柄が四十九日にしみじみと語られる人情劇。それを役者陣が実に上手く表現しており見事。ちなみに、ストーブや音響(吹雪or寒風)から冬を連想するが、死因が熱中症で 四十九日の季節感に合致するのかな?
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/12/27 17:45

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