「Collapse Of Values」Re:Mix 公演情報 SFIDA ENTERTAINMENT「「Collapse Of Values」Re:Mix」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2025/12/12 (金) 18:30

     私は、裏チームを観た。
     警視庁刑事部捜査第一課の佐々倉優希、山崎鈴音はとある事件の捜査を言い渡される。
     それは突如消えたサラリーマン2人の行方の捜査。
     なんとそのうちの1人は佐々倉の弟、優太だった。
     弟の行方を探す為、佐々倉は潜入捜査を開始すると言ったようなあらすじだったが、実際観てみると、刑事で正義感の強い佐々倉は怪しまれないよう名前と職業を変えて潜入するが、潜入した一軒家の中では、何処からか運ばれてきて地下に安置された遺体の解体作業に従事するという闇バイトの内実が分かってきて、高額バイトに釣られて応募してきた訳有りの複数の男女が実際には遺体の解体作業に1週間くらい従事しなければならず、家族や、職場に勘繰られないようにしなければならないというようなことが分かってくる。
     佐々倉はとんでもない場所に自分が潜入捜査で飛び込んだ事を実感し、自分の弟が殺されていないか不安になる。
     そのうち、この一軒家を取り仕切るインテリヤクザの男が、バイトの男女の中から、自分が気に入った女性だけ、自分の楽しみの為、女性が嫌がろうと、無理矢理にでも性的搾取をする構造も分かってくる。
     更には、この一軒家から逃げ出そうとする者は誰であれ殺されると言う救いようのない、負の連鎖のピカレスクダークサスペンス劇に驚愕し、当然のことながら最初に騙されてこの明らかに違法な遺体解体作業に従事していた女性がこの一軒家から抜け出さず、この作業に従事し、一見すると優しさもあるバイトリーダーに見えていた人物が実はかなりのサイコパスと化して、目的達成の為なら殺人も厭わない人物だったり、バイト仲間に殺人鬼が紛れていたり、過酷な境遇の中で、人間性が失われ、腐り切っていく、自分が助かる為なら平気で人を騙しさえする、そういった人の汚さ、綺麗事だけでは回らない不条理さ、そしてこの事件には警察上層部が実は?と言った感じで、佐々倉は追い詰められ、最後は……と言った感じで一切の救いが無く、胸糞悪差しか残らない。誰一人として本当の意味での善人は出てこないし、露骨な悪役も出てくるとは言えない。
     こう言ったことが、妙に現実味を帯びていて、実際の世の中に起きる事件はここまで救われなさ過ぎるものではないかもしれない。しかし、多少誇張していたとしても、実際の世の中でも何が絶対に正しいと言うようなことでない、正解が出し辛いことも多いことを考えると、深く考えさせられた。
     この劇の中で次から次に展開され、主人公も追い詰められていく不条理こそが、現代の生き辛くて、閉塞感のある社会を多少誇張していたとしても描いているのではないかと感じた。

     途中途中、登場人物たちによる下らない笑い、勘違いによる笑い、巧みなボケ突っ込みによる笑い、出てくるだけで癖が強すぎる登場人物による笑い、ズレた笑い等大いに笑える場面もあったが、劇全体としては、ピカレスクノワールサスペンス劇で一切の救いが無い内容が次から次に展開され、出てくる登場人物に対して人間不信になるような展開の上、観客を緊張、緊迫させる場面、重厚な場面のほうが多くて、バランスは悪く、疲れた。
     しかし、笑いとピカレスクノワールサスペンス劇で救いのない展開とのバランスの悪さによって、刑事ものなのに軽すぎてエンタメに特化し過ぎるといった感じに陥っていなかったので、個人的には緊張、緊迫感、重厚感のある押し潰されそうになるような舞台、とても集中出来て良かった。
     
     役者の演技力も中々差し迫ってくる感じがあって良かった。
     性的搾取やパワハラな言動、威圧的行動を繰り返す、人として余りに終わっている腐り切ったヤクザの男を演じる役者は、如何にもそういうことをしそうな雰囲気に見えない見た目で、そういった難役を何気ない感じでこなしていて、こちらに人間不信感さえ抱かせる感じが上手かった。
     演技だと露骨に分かると言うよりかは、一体どこからが演技なのか、分からなくさせていく演技が流石はプロだと感じた。勿論、終演後のカーテンコールの際には、柔和で温厚そうで、常識人な役者になっていたので、こうも役者とは、一旦役になる際には普段とは振り切って演じつつ、さも、演じる役が普段であるかのように振る舞えて、観ている側をすっかり錯覚させるだけの力量あってこそ、本当に演技力のある役者と言えるのかも知れないと感心してしまった。
     有沢澪風さん演じる最初のほうで騙されて遺体解体作業に従事して、闇バイトのバイトリーダーをする、威圧的、高圧的なヤクザにビクビクして、バイト仲間に優しい顔と裏の顔の2面性がある東山えりの役の演じ分けが上手かった。特に前者の、被害者感を出している感じは、観ている側に共感を感じさせるほど上手かった。
     前中慎役の小郷拓真さんの実は○○○だと分かってからの豹変ぶりも中々だったが、それ以上に警察上層部で佐々倉の上司役の役者がそれまで温厚そうで、部下に振り回されてばかりいるように見えたのに、実は事件の裏に……という驚愕の事実に行き着いた時に、それまでの性格や行動と余りにギャップがあり、観客をそれまで騙せおおせていたことに驚愕し、一体登場人物の誰を信じれば良いのか分からなくなるぐらい意外過ぎて、役者の鏡だと感じる程、それまでの演技が上手過ぎて、あっけにとられる程だった。
     最後の佐々倉の上司の警察上層部が実は……という下りが予想の斜め上を行き過ぎて、それまでのアクの強かったり、緊急時における人間の嫌な部分が次々に露見していく展開の時の、役者たちの演技力の見せ所になっていく場面より、何なら印象に残ってしまった。

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    2025/12/17 15:14

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