あたらしいエクスプロージョン 公演情報 CoRich舞台芸術!プロデュース「あたらしいエクスプロージョン」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い、お薦め。
    説明通り「戦後直後の日本でカメラもフィルムもままならない時代に、邦画史上初のキスシーンを撮ろうと奮闘する映画人たちの姿を描いた物語」であるが、そこには復興にかける多くの人々の夢と希望が内包されている。映画を撮ることは<復興>の象徴、何かに(本作では「映画」)情熱を燃やす者たちの群像劇といえる。それを6人の役者がそれぞれ複数役を担い、1人の演奏者が多くの楽器を奏でることによって多重的に紡いでいく。公演は、分かり易い 質の高いエンターテイメントといった印象だ。

    今年は戦後80年、劇中の台詞にもあるが 焼け野原にポツンと見えるのは東本願寺(建物外部)だけ、その焼失と心の喪失を乗り越えた先に光る絆と癒しの光景を描き出す。公演の魅力は、役者や演奏するキャスト陣の熱演と舞台装置や小道具・小物を巧みに使って観(魅)せる場景描写、その演出がすばらしい。謳い文句にもある「ユーモアとペーソスを織り交ぜた緻密な構成」、そして圧倒的な台詞の味わい深さー言葉が心を紡いでいくような秀作。岸田國士戯曲賞 受賞作。
    (上演時間2時間 休憩なし) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は、可動クローゼット(裏板なく通り抜け)3つ、その間に姿見2つ、更に その間に椅子が半円を描くように並んだ だけのシンプルもの。後々 分かるが中央床が開閉し、登場人物が出入りする。上手奥が演奏スペース。場景に応じて クローゼットや姿見を動かし情景や状況を作り出す。物語の最初と最後に玉音放送。

    物語は説明にある通りだが、そこに戦前と戦後の撮影事情が大きく違って 戸惑いを隠せない映画人の姿を描く。価値観や考え方等が180度転換する。12月の邦画といえば「忠臣蔵」が定番、しかしGHQ 軍属のデビッド・コンデは、日本の映画会社に軍国主義的・封建主義的な内容の映画製作を禁じた(検閲で許可されない)。そこで 城内での刃傷沙汰を止め、浅野と吉良が接吻して恋沙汰(虜<トリコ>)にし、さらに2人の立場を入れ替えた。また戦時中に 杵山康茂が戦意高揚を謳った映画を撮り、裁判になったが、大した影響力もなかったことから無罪。ホッとした反面、映画人としてプライドが傷つけられ複雑な思い。GHQの進言を聞きながら、日本映画の復活を目指す若者たち。また闇市や街娼など、当時の世相を挿入し混乱と退廃した状況も描く。戦後直後の混乱期、映画とは無関係 しかも法律や道徳といった建前ではなく 強かに生きる若者をキャスティングする、そこに新しい人材発掘/登用を見せる。

    戦時中の悲惨な出来事も描いている。大陸(満州)に渡り 家庭を築いた女性 石王時子。終戦のドサクサになんとか帰国したが、夫は戦死し 子も亡くす。夫との約束、生きて日本の土を踏ませ 撮ること、それが果たせなかった彼女の慟哭。彼女は オジサン姿(付け髭)で男として生きていた。撮る対象(子)を喪ったが、どうしても撮影をはじめ映画技術の全てを習得したい。子を撮るという限りなく近いところまで という切なる願い。この個人的な思いと映画事情という社会的な世情を巧みに絡ませたドラマ。

    可動クローゼット内には多くの衣裳(普段着)が吊るされ、人物や場景に応じて早着替えする。また役者以外にトルソー(それも色や大・小といった大きさの違い)を用いて 多くの人を現す。それは主役級だけではなく、大部屋や現場にいる映画人全てを表し称えているよう。音響/音楽も生演奏だけではなく、例えば雨音は役者が床や物を叩く音で表現するなど細かい演出に拘る。客席との間にある白幕をスクリーンに見立て、映写(影絵)も映画をテーマにしているだけに面白い。この奇知ある<舞台演出>を通して<映画技法>を思わせるようで、実に巧い。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/12/02 07:36

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