一九一四大非常 公演情報 劇団桟敷童子「一九一四大非常」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    流れるのはベートーヴェンの交響曲第7番第2楽章。どうしようもない宿命のレールの上、粛々とそれを受け入れるしかない人間の群れ。もう変えようのない過去の人々。今それを振り返っている自分も先の世界から見れば同じ存在。逃れようのないレールの上をただ黙々と歩んでいく恐怖。どんどんどろろ、どんどろろ。

    1950年代に中東やアフリカで巨大油田が発見、石油の低価格での提供が可能となり、1962年に日本でも石炭から石油へとエネルギー政策が転換。(第三次エネルギー革命)。「黒いダイヤモンド」と称された石炭の時代は終焉。用が失くなれば邪魔なゴミ。それが時代の宿命。

    福岡県田川郡にある三菱方城炭鉱は三菱鉱業の主力鉱として栄えた。昇降機で地下270mまで縦坑を降り、そこから横に延びた坑道を掘り進めていく。270mは50階建て高層ビルの高さ。その深さの地底に推定1249人が働いていたと言われる。1914年(大正3年)12月15日午前9時40分、方城大非常(三菱方城炭坑ガス大爆発)。抗内用のトーマス式安全灯に気密不充分の物があり、侵入した石炭粉が引火したものとされる。生存者は僅か18名。

    炭鉱夫は身体中を黒く汚す為、何役も兼ねる人は脚にあらかじめ汚してあるシアータイツを着用。顔を汚したり洗ったり大変な現場だ。

    小学校の教師役板垣桃子さん。梁瀬農園の娘!チャーミングな眼鏡にのんのような髪型、学校の人気者の可愛らしい先生。

    余所者の稲葉能敬氏と妊婦の長嶺安奈さん夫婦。
    長嶺さんの妹の大手忍さんと許婚の藤澤壮嗣氏。
    瀬戸純哉氏ともりちえさん(実際の夫婦!)は籍は入れていない。二人共腕が立つ。
    柴田林太郎氏と川原洋子さん夫婦と姪の井上莉沙さん。

    鈴木めぐみさんも流石。夏蜜柑を掻き集める。

    炭鉱会社の救助隊中野英樹氏は佐藤允とRINGSの成瀬昌由を足したような苦味。三人の息子が炭鉱に降りている山本あさみさん。半狂乱の母親を収める為、「自分が必ず息子さん達を救出します。」と約束してしまう。気持ちには気持ちで応えるしかない。一酸化炭素の充満する地獄に夏蜜柑の皮を咥えて降りて行く。最早理屈じゃ何も出来ない。神頼みだ。

    MVPは中野英樹氏、山本あさみさん、もりちえさん。無論、集団芸術として皆で成立させているのは承知。
    中野英樹氏の抱え込んだ無数の痛みと山本あさみさんの無理を承知の足掻き、骨噛み、もりちえさんのいぶし銀の生きる術。

    この劇団は皆にどうにか観て貰いたいが、表現しようとするものが文学の地平の為、人によっては消化し辛いだろう。熊井啓映画の貫禄。伝えようと試むものがデカ過ぎる。今こんな劇団があってこんな役者達がこんなことを訴え続けている事実。これは黒澤映画と同じできちんと評価し後世に残さないといけない。こんなもん再現不可能。今、観るしかない。後の世にこんな劇団があったなんて聞かされてもしょうがない。
    「ご安全に。」

    ネタバレBOX

    初めて坑道に降りた井上莉沙さんが地獄でおかしくなる。真っ暗闇の坑内で「星が見える!」と繰り返す。皆、ガスを吸って頭がおかしくなったといなす。だがその死の瞬間、坑内は星空でまみれる。余りにも美しい光がそこらここらで発光。この為だけの舞台美術が尊い。富野由悠季ISM。無数の星空に囲まれて死んでいく。

    自分がこの作家の作品にのめり込むのは白土三平の血が流れているからだと思った。人間は皆平等、生命に貴賤などはない。生きることはそもそもが素晴らしい。現実には色々な物事に阻害されてその素晴らしさを見失ってしまう。汚れで覆われてしまう。だが生命の本質は何一つ変わりはしない。生きていることを素晴らしいと感じ取れる毎日こそが幸福。どうにか創意工夫してその毎日を獲得して欲しい。その生命への真っ直ぐな姿勢こそが正しさ。塗りたくられた泥を剥がし、洗い落とし、輝かせないと。

    ※『カムイ伝』にて百姓の正助と非人のナナは恋人同士だった。百姓と非人の分断を謀る支配層の企みによってナナは百姓により輪姦され自殺しようとする。裸になってナナを説得する正助。正助は村人の前で人間は皆平等であることを宣言する。身分なんて本当は何処にも存在しない。そして非人のナナを愛していることを。
    これを当時「ガロ」の連載で読んだ宮崎駿は東映動画の社内にこのページを貼り出す程感動した。自分達がやるべき仕事とはこれである、と。

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    2025/11/29 17:36

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