MOON 全公演終了しました、ご来場ありがとうございました! 公演情報 KUROGOKU「MOON 全公演終了しました、ご来場ありがとうございました!」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    前公演に続いての如月小春 作品、面白い。
    初演は バブル経済全盛期の1989(平成元)年、自分は未見。タイトルが「MOON」であるが、劇中では別の形でも表現される。詩的な印象であるが、内容は極めて私的であり人の心情をクッキリ表している。そして時代背景から長時間 過密労働という社会問題や疎外感といった事象が垣間見えてくる。労働者の代替など何人もおり、馘になっても無関心・無関係を装う。公演は 時代感覚/状況も大切にしており、携帯電話もパソコンも出てこない。

    荒唐無稽のような展開に思えるが、それは比喩を紡ぎ人の心の空虚さ…「私はとても素敵なトースターを持っています・・・朝、夫がでかけたあと、私は一日中トースターを抱いています」を表している。そして物語の舞台となる夫婦の住居(マンション)も老朽化すれば取り壊し、新たな建物へ。人もモノも古く使い物にならなくなれば捨て 壊してしまう。今の時代に この演目を上演するのは、何となくコロナ禍を経て不寛容で無関心といった風潮に似ているような気がしてならない。勿論 労働環境(事情)は異なるが…。

    少しネタバレするが、物語の中心になる夫婦の夫 ウエシタコーゾが、事件の概要を独白するところから始まる。夫が主人公で その観点で展開していくのかと思っていたが、いつの間にか 妻 のの が主役に代わっている。その視点こそが物語の芯であろう。
    (上演時間1時間45分 休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術は 中央に階段を設え、上部にカラフルな箱馬が5つ。左右にはビルを模った張り板。下手には屋外ゴミ箱。劇中、中央正面に大きな丸い照明、それが「月」であり「穴」を表す暗喩。この舞台美術と舞台空間の作り方が巧い。

    物語は、平凡なサラリーマン夫婦の生活を風刺した喜劇。いつもと同じ光景、朝 夫を送り出し 帰宅を待ちわびて暮らす妻 のの。その孤独に いつの間にか見知らぬ男が入りこみ、夫になり変わって一緒に暮らす。さらに男は職場で夫の地位も奪う。地方から出てきた夫の母親も 粗大(可燃)ゴミとして捨てられる。 やがて 夫と男は銃で決闘することになるが、夫の不倫相手のOLララが妻に対して という三つ巴の決闘。なんとも荒唐無稽な展開。

    見知らぬ男が夫になり変わるが、真に自分が夫であることをどう証明するか。妻は闖入してきた男を夫と言い、マンションの住人(管理組合)は夫を見たことがないと。家庭の中に”MOON”のような丸い穴がだんだん大きくなる、それは夫婦間(心)の溝の深まりの比喩のよう。それを埋めるように男が闖入してくる。何となく安部公房の「友達」を連想させるが、それとは別の怖ろしさ。妻の視点へ変わり、寂しさ虚しさに忍び寄る孤独、それを癒すかのような偽りの愛に縋る。

    「日々の生活の中で見失われつつあった自己のアイデンティティ、社会に翻弄される人々を痛烈な風刺を込めて描いた不条理コメディ」。今の時代、さらに 他人に対して無関心であり不寛容、近所の人の顔さえ知らず 挨拶もしない。同時にバブル期における交換可能な人間の空しさ、しかし 今は機械(AI等)が代替する非情さも。初演当時とは別の意味で 観応えある作品になったよう。
    結末は、夫が妻を後ろから抱きしめるシーンで終わる。虚無の象徴だった月は、2人を見守る優しさの表象へ。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/11/21 17:14

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