星の流れに 公演情報 羽原組「星の流れに」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い、お薦め。
    1948(昭和23)年の東京 上野を舞台にした群像劇。公演の魅力は、表層的には 戦争による荒廃とそこから立ち上がろうとする人々の姿を 昭和歌謡とダンスで観(魅)せる。その奥には戦争という最悪の不条理が描かれている。登場する人物の1人ひとりに戦争がもたらした精神・肉体などの苦悩や痛みを点描させ、劇中の言葉にある「戦争は理不尽な怪物」を表していく。

    説明にある「この焼け跡にアタシらの為のアタシらの国、独立国を作ろう!」と、そこには国の言うことを信じてばかりではダメ。物語の核心でもある自主/自立の精神が芽生え、戦後の混乱期を生き抜いてやろうという気概が立ち上がる。歌とダンスシーンを支えているのが音響/音楽と照明効果で、素舞台にも関わらずエンターテインメントの魅力を存分に発揮している。重厚な内容を軽妙な展開で という不思議なアンバランスが見所の1つ。
    (上演時間2時間 休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台奥に集合写真を撮るような平行3段。舞台前方は、群舞を観(魅)せるため広いスペースを確保している。物語は昭和23年であり、モガ風の衣裳で軽快に踊るところから始まる。物語は、惣田紗莉渚さんと伊藤わこ さん演じる姉妹が中心で、2人は戦災孤児。そして何故か 惣田さんには亡き母が見えてしまう。そこに彼女の悲しみが秘められている。母の口癖「ズルしても幸せにはなれない」は、物語の底流にある思い。

    戦時中 軍需工場で知り合った仲間とダンスホールを開く、そこが自分たちの独立国。惣田さんは工場で班長をしており、今もその通称で呼ばれている。GHQの倉庫から武器を盗み転売して資金調達をしようと企む。その直前になって 仲間が脱落していく。その1人ひとりの事情ー出征した夫の安否確認、広島原爆の二次被爆による破談等ーが戦争の傷跡そのもの。そして妹 伊藤わこ さんも浅草の歌舞団で踊っていたが、戦時中の慰問公演に自分の代わりに行った友人が爆死。いわゆるサバイバーズ・ギルトのようで、罪滅ぼしのように診療所で働いている。また 医師も特攻隊員へヒロポンを注射していたことへの罪悪感に苦しんでいた。そこに通院している外科患者、コメディ・リリーフのようだが、上野という場所や白地の衣裳を考えると傷痍軍人を現しているよう。

    惣田さんは、東京大空襲の時 母と一諸に逃げたが母が瓦礫の下敷きになり助けることが出来なかった。その時のことが悔やまれ、今でも亡き母が見える。姉妹は戦災孤児になり親戚に身を寄せたが居心地が悪い。1人上京し上野で佇んでいたが…。強がりな言葉は、自分自身を奮い立たせ、仲間を心配させない虚勢のようでもある。この1人ひとりの戦災事情を描くことによって、戦争の愚かさを浮き彫りにしていく。同時に社会(国)に対峙する見方も考えさせる。ちなみに、刑事の「文句があるならマッカーサーに言ってくれ」は 当時の統治能力の無さを皮肉った台詞。

    群舞で華やかさを演出するが、その魅せる世界の裏に潜む悲惨な世界 その落差が物語を牽引していく。ダンスは情景や状況が変化するといった場転換を表す。また多彩で強烈な照明も場転換を促す。
    タイトル「星の流れに」は 戦後の流行歌…焼け野原で家族もすべて失われたため、「娼婦」として生きるしかないわが身を嘆いた。戦争への怒りや、遣る瀬無い気持ち、そして こみ上げてくる憤りを叩きつけた哀歌。その思いは時間で断つ事はできない。暗転/明転ではなく、別の方法を用いているのは、時間の断絶を防ぐためであろうか。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/11/21 00:17

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