公演情報
劇団俳優座「存在証明」の観てきた!クチコミとコメント
実演鑑賞
上演時間は約2時間45分(途中休憩10分含)。
リーマン予想が発表された1859年から50年後の1909年から
1977年頃を舞台に、二つの時代を往来交錯させる(この手の
演出にかけてはこの演出者はなかなかの演出巧者)構成で、
ミステリーも含め多様な要素を詰め込み過ぎ散漫気味ではあるものの、
ハーディ/リトルウッドを含め直接的間接的に彼らに関わる当時の
大英帝国人たちの姿や社会を活写している物語。
演出者も含めサイエンスに理解のある、『インコグニート』の
かつての出演者が全員参加しており、演技面は万全の態勢。
演出面では、場面に応じて3方向の寄木細工様の側面壁から立体ピースを
出し入れするようにセットを舞台上にピタッと出し入れする趣向は、
アイデアの着想や発想のひらめきを連想させ、物語との相性抜群で好印象
(俳優座スタジオとは違い、舞台裏というか舞台袖のスペースがある程度
とれるトラムという空間、装置の精緻な設計製作そして場面ごとに手早く
きちっとセッティングする裏方さんの高いスキルがすべて揃ったからこそ
できる芸当)。
『アルカディア』、『インコグニート』、『ブレイキング・ザ・コード』、
『プルーフ』、『フォトグラフ51』、『アルキメデスの大戦』、
『ズベズダー荒野より宙へ‐』、『東京原子核クラブ』などの作品の
いいとこ取りをしつつ巧みな作劇構成力でまとめ上げてきたという感あり。
well-definedでない、多義的な題名は何の存在(意義)証明かを明示していないので、
場面場面でその何のかを意識して観続けると山の頂に至る道筋が見えてくる
かもしれない(『ブレイキング・ザ・コード』での“ザ・コード”に相当する部分)。
ただ、ミステリー部分は、prime number(s)に絡めた暗号解読に強引に
結び付けようとする意図が目立ち過ぎ比較的早い段階でおおよその謎が
みえてしまい、緻密さやエレガンスさとは程遠い、既視感のある仕掛けに
なってしまっている(このあたりは、最近久々の新作が出たダン・ブラウン
などはなかなかの名手)。
盛り込み過ぎて話題が次々と移り発散してゆく中その回収に追われながら
到達点の、数学的証明とは何かを含むハーディとリトルウッドとの対話の場面に
収束させなければならないため、物語がドラマドラマし過ぎたものになり
かえって人工感が際立ってしまっている。また、海外戯曲でよくみられる
専門性にぐっと踏み込むことで生まれてくる深みや説得力という点でも脆弱。
現在、我々の身の回りでサイバーセキュリティの一つとして利用される
RSA(公開鍵暗号方式での暗号化アルゴリズムの代表)などは、莫大な桁数の
数字を素因数分解することは現実的にスーパーコンピューターでも解読が困難
(劇中の双子の姉妹は別としても)という素数の特性を利用しており、
素数と暗号解読、暗号化技術、コンピューターとの結びつきの代表として、
劇構成的にも、バタフライ効果などよりこのあたりを物語にうまく組込むか
触れた方が、現代とのつながりという意味でも、数学(の有用性)が身近にある
ことがより親近感をもって観客に伝わったのではないだろうか。