公演情報
燐光群「高知パルプ生コン事件」の観てきた!クチコミとコメント
実演鑑賞
満足度★★★★
「劇」小劇場での燐光群は初だったが、ちょうど良い空間だったのではないか。スズナリは観客とステージとのベストな距離を与えてくれる劇場だが、横長で客席との距離がより近い方が「台詞を追うのが大変」で脳味噌フル稼働を要求する作品にはきっと良かった。
社会の重要案件を如何に咀嚼しやすい劇に昇華できるかに、恐らく坂手氏の舞台製作のベクトルは向いているが、坂手流フィクションを成立させるお膳立てのための?情報量は多大なため、二時間に収めた劇の密度は濃く、観劇側も大変だ。
過去の出来事の解説や土地の名産の紹介といった台詞は、何名かの登場人物に割り振られ、情報を与えるためだけの台詞に「日常会話」という心情の流れを付与しつつの発話の綱渡りがいつも大変そうだな、と思う。
それはともかく。大量の台詞と格闘する役者を通じて(「台詞に追われてる」感を一瞬も見せずに立ち通せたのは森尾舞、樋尾麻衣子くらい)、絶妙な構成でドラマの感動が生まれる坂手氏の面目躍如と言える作品であった。
高知の浦戸湾に排水汚染をもたらす公害企業と闘う住民運動がかつてあった。戦後間もないその当時へ、2022年の岡山の台風の最中「ある物」を目撃した父娘を作者はタイムリープさせる。二人の目に映る住民運動の顛末が、現代の環境問題(PFAS)と対峙する覚悟を促す展開が用意されているが、各場面の趣向が中々美味しい。住民運動の中心人物である山崎氏(猪熊恒和)の飄々とした佇まいと含蓄ある発言や行動が、史実をなぞって(恐らく)描かれている。悪臭と健康被害の実態の証言があり、労働運動の現場からの取り組みがあり、その延長で従業員の一人に「風船爆弾」(彼女が戦中体験した)の話も一くさり入る。現代から来た父は暫くの間記憶喪失状態となり、現地住民らと不思議な交流があるが、タイムリープを引き起こした「原因」であろう現代の岡山県のPFAS汚染へもやがて視線が向かう。2022年の大型台風時に櫓に上った二人はダムの上流に放棄された大量のフレコンバックを目撃したが、後日それは完全撤去されていた。父も娘も米国基準の百倍単位のPFAS蓄積が検出される。これらは今現在の当地の現実。殆どメディアに取り上げられないが。太鼓の伴奏で歌を歌い、おもちゃのピアノの伴奏でふるさとを歌う。概して躍動的な場面がちりばめられ暗く沈む事がない。運動を担った人々へのリクエストがそうさせているようでもある。ただ時間の複雑な構成、「仮想の過去」を入れ込む辺りは脳が追いつかず置いてかれそうになる。エンパワーのための演劇。各々の事情で動いていた人物らが最後は皆仲間に見えている。そして現代へと声援を送る姿が焼き付く。