高知パルプ生コン事件 公演情報 燐光群「高知パルプ生コン事件」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    主演の永瀬美陽(みはる)さんが可愛かった。福永マリカさんに似てるような。ミニスカの登場シーンから惹き付けられる。

    土台はアジプロ演劇(革命の思想を大衆に説く手段としての演劇)だが、驚くことに観客の為にSFをまぶしてある。近未来である2026年からタイムスリップしてしまった永瀬美陽さん。気が付くとそこは1970年(昭和45年)の高知県高知市旭町早朝。高知パルプ工業社で働く円城寺あやさんに保護される。円城寺あやさんは物分かりが良く観客に取って面倒臭い遣り取りをすっ飛ばしてくれるのが有難い。永瀬美陽さんは知っていた。来年、ここで何が起きるのかを。

    1950年に操業を始めた高知パルプ工業社、旭川から江ノ口川へと一日あたり13500tもの亜硫酸系パルプ廃液を垂れ流し続けた。更に江ノ口川から浦戸湾へと流れ込む廃液は生態系を壊滅させる。魚は死に周辺住民は健康被害に苦しんだ。奇形魚、ドブの臭い、どす黒い水、ヘドロの層。浦戸湾で揚がった魚は買い手がつかなくなる。江ノ口川沿いの旅館は余りの悪臭で客は逃げ出し女中は辞めていった。

    記憶喪失の謎の男、大西孝洋氏。夏八木勲と和田良覚を足したような風貌。佐渡旅館の女将、森尾舞さんが面倒を見てやることに。一体彼は何者なのか?

    果たしてこれからここで何が起こるのか?
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    公害闘争の歴史に今も語り継がれる「高知パルプ生コン事件」。
    「浦戸湾を守る会」(=浦戸湾の埋め立て反対の会)の4人が事件を決行。
    郷土の英雄・山崎圭次会長(猪熊恒和氏)。物語のキーマン。オートバイ・メーカーの起業から成功を重ね、工作機械であるフライス盤の開発・製造トップメーカーとなる山崎技研設立へと。
    坂本九郎(川中健次郎氏)事務局長。元公立小学校教員。人望厚く、この事件がなければ市長選にも担がれていた程。
    吉村弘(武山尚史氏)、和太鼓も担当。
    岡田義勝(土屋良太氏)、漁師。
    1971年(昭和46年)6月9日午前4時半頃、旭町電車通りにあった高知パルプ工業社の排水溝マンホール二つをパールでこじ開け、麻袋の土嚢24袋と生コンクリート6.9トンを詰め込んで封鎖。たちまちどくどくと道路に溢れ出した茶色い工場廃液が濁流となり刺激臭を放つ。白いあぶくをブクブクと立てたパルプ廃液の禍々しさ。こんなものを川に海に流していたのか⁉

    TRASHMASTERSみたいなガチガチの台詞の羅列。状況説明を全部台詞で役者に喋らせるのは苛酷だ。西部邁っぽい川中健次郎氏の台詞がかなり危うかった。取材した全てを書き込もうとした脚本は歪で物語としては美しくない。

    円城寺あやさん、高知パルプ工業社の一番の古株。戦時中、風船爆弾を製造させられていた。1954年(昭和29年)、アメリカによるビキニ環礁での水爆実験によりマグロ漁船に乗っていた婚約者が被爆。

    会長の妻役の樋尾麻衣子さんが銅鑼を鳴らす。

    今作のもう一つの告発が発癌性やホルモン撹乱、免疫低下の影響を持つ有機フッ素化合物PFAS(ピーファス)について。その代表的な種類がPFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)。2023年、人口約1万人の岡山県吉備中央町の水道水が国内最悪レベルに汚染されていることが判明。汚染源は河平ダムの上流に置かれた山中の資材置場、使用済み活性炭の入ったフレコンバック580袋。血液検査を受けた住民達に基準値の7倍以上の汚染が確認された。
    公害は過去の話ではない。人類にとって永遠に続く命題。それを隠蔽強圧し黙らせようとする権力機構とそこで暮らす住民との生存を賭けた闘争。

    「テロではない、義憤に駆られた正当な民衆の実力行使である」と劇中で幾度も念押ししているが、無論これもテロの一つであろう。テロとは追い詰められた弱者の最後の選択肢だからだ。確かにテロだが誰かがやらなければならなかった、と言い切るべき。妙な正当化の方が気持ち悪い。メンバーが三島由紀夫の決起と自決に煽られていることが面白い。人間たった独り、一度きりの人生、全てを賭けてでもやらねばならぬことが自分にもある筈だ。
    事件前夜の山崎圭次会長のTV番組での発言。「我々自身ももっともっと傷付かねば、公害運動に今後新しい展開がないのではないか。」

    ※居眠り客がかなり多かった。最初から寝に来ているような人も。謎。

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    2025/11/06 17:02

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