人のいぬ山 公演情報 発条ロールシアター「人のいぬ山」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い、孤独と共生を描いた人間ドラマ。
    物語は、或る山での一夜の出来事を描いているが、台詞にある約40年前の想いと現代がリンクしてくる。1980年代後半にクローズアップした社会問題と今 就職を考え始めた学生の意識を巧みに絡めた珠玉作。
    少しネタバレするが、タイトル「人はいぬ山」は二重の意味での洒落。そしてカフカの「変身」を連想させるような怖さ。
    (上演時間1時間35分 休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術、冒頭は暗幕で囲まれた素舞台。それが山の天気の急変で雷雨になり、中年男2人組と女子大サークルの一行が山小屋へ避難。そこには管理人の男が住んでおり、奥の暗幕を開けると自転車や電熱器ヒーターなどがある。

    物語は、偶然一緒になった男女の自己紹介を通して 人物像を立ち上げていく。中年男のうち 劔はしっかりした登山装備だが、北は軽装で山行歴が違うよう。学生グループはミステリー研究会だが特別な活動をしているわけではない。そして山なのに白い着物を着た若い女性 陣馬が…。

    山小屋には管理人とケンという着ぐるみの男、そして老婆(自称 マタギ)。ケンは擬人化しているのではなく、れっきとした人間だが その人格を放棄して犬になっている。若い頃は、街で働く優秀な社会人。いずれ大きな人物になろうと頑張っていた。しかしバブル期を背景に長時間労働で精神を病み、或る日 起きたら犬になっていた。まさに 精神構造はカフカの「変身」ー自分が巨大な虫になっていたと同じ。現実からの逃避、それがいつの間にか破滅意識、忘我、自己逃避へ。その時の様子を懐古調(黄昏色)の照明の中、管理人とケンが回想する。実に印象的なシーンだ。

    一方、女子大生たちは 就職活動へ。しかし人見知りで人間関係が築けない双葉、好奇心旺盛な高見、双葉が好きな伊吹。いつまでも学生気分ーモラトリアムでいたいという現実逃避。仕事が嫌い、ずっと引き籠もっていたい、あたり前のことが出来ない といった現代を生きる我々の悩みを代弁するかのよう。犬の姿のケン、そこにいる誰もが不審に思わず詮索もしない。それは優しさだけではなく、いつ自分がそうなるかも といった思いがあるから。

    公演は、不気味さと楽しさが絶妙に混じった雰囲気、現代の恋愛や結婚観を挿入し あくまで現代を意識させる。表層的には、歌って飲んでスナック菓子を食べ、この世は捨てたものではないと。しかし物語の芯はけっして楽観的なものではない。昭和と令和は地続き、山小屋の男は山に留まり、ケンは知識と仕事を求め街へ。その生き様は人それぞれ、解決策は描かれていない。不思議な山の一夜の物語。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/11/04 06:37

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